片桐はいりさん(女優) おいしさ 現場だからこそ

片桐はいりさん

 仕事柄、地方に行くことが多いんです。土地土地の名産品って、今ではほとんどが東京で食べられますけど、「現場」で食べることが大事です。もぎたてのありがたみは、東京では経験できません。

 例えば高知名産のブンタン。私は大好きで東京で見つけると買いますが、残念なことに、大抵がかしかしに乾いています。それでも知らない人はおいしいと食べるんでしょうけど。

 私が初めて食べたのは、25年くらい前のことですかね。四国に1カ月くらい旅公演に回ったことがあって、そのスタートが高知だったと思います。1月か2月のことで、ちょうど収穫の時期だったんですよね。ゴミ袋みたいな大きなビニールに入れられて、ぼんぼんと置いてあったんです。これは何だろうと感じました。

 旅公演のメンバーと買って宿で皮をむこうとしたけど、なかなかむけないんです。力のある人がばりばりばりっとむいたところ、ぶしゅしゅしゅしゅーと果汁が飛び散ってびっくり。皆で新聞紙を広げて食べた記憶があります。たっぷり果汁の濃厚な香りと味が気に入って、以後は皆で開演前に食べるのが習慣になりました。
 

みその違い驚き


 その旅公演で、四国のみそのおいしさも知りました。当時、東京には麦みそはなかったんですね。朝にいただくみそ汁が甘くておいしくて。次の公演地は山一つ越えただけなのに、みその味が違うのにびっくり。新しい味に出会うのが楽しみになりました。

 こういう料理は「現場」で食べるからこそ、いいんですよね。ロケで山梨に行った時に食べたトウモロコシがおいしかったので、買って帰ってゆでて食べたんですけど、やっぱり違うねえ、と。もぎたて、もぎりたてと言うんでしょうか、鮮度の良いものこそがおいしいんです。

 今は流通が発達しているから、どこに住んでいても各地の名産品を取り寄せることができます。でもそれは決して生産地でいただく味にはかないません。結局のところ「これは○○産の××です」という情報を得ているだけだと思うんです。流通のために頑張ってる方には申し訳ないですけど。
 

映画と共通点も


 ところでご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、私は学生の頃に映画館でもぎりの仕事をしていました。近年は街の映画館が元気になればと願い「もぎりさん」という短編映画に出演しています。そんな私は、映画と農業には共通点があると感じています。もぐ、もぎるという行為もそうですけど、どちらも「現場」が大事だと感じるからです。

 映画を見るには、映画館に行かないといけません。ただ単に見るということでいえば、家でDVDやネット配信という形でもできます。電車の中でスマホで見ることもできます。でも映画を見るというのは本来、こちらが映画館に出掛け、暗い中で見知らぬ人たちと時間を共有して体験するものです。「行って見る」のと「来たのを見る」のとでは、ずいぶんと違いがあると思います。

 農家の方々が作物を育てた「現場」でいただくとおいしいように、映画館という「現場」で見るのは特別なものだと思います。

 地方で知り合った方が、その土地の名産品を送ってくださいます。それに見合うお返しに何があるのか? 私にとっては映画を作り続け、それを持って全国の映画館を回ってもぎりをすること。それが一番だと思っています。(聞き手・写真=菊地武顕)

 かたぎり・はいり 1963年、東京都生まれ。大学在学中から劇団で活動。映画、テレビ、舞台などで活躍。「もぎりさん」は映画本編前に見ることのできる約2分の短編で、第2弾「もぎりさんsession2」が12日から東京・キネカ大森で上映。その後テアトル系劇場などでも公開予定。 
 

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