大志を抱いた劉備が黄河を眺める場面から話は始まる

 大志を抱いた劉備が黄河を眺める場面から話は始まる。「悠久と水は行く―微風は爽やかに鬢(びん)をなでる」▼吉川英治の小説『三国志』である。1835年ほど前の中国・後漢は、貧窮農民を主力とした黄巾の乱が起こり、すさんでいた。国を救う。劉備、関羽、張飛の3人は義兄弟の契りを交わし、蜀(しょく)という国を打ち立てる。魏(ぎ)の曹操や呉の孫権と覇権を争いながら、一時代を織りなすドラマは壮大である▼正史三国志と千数百年の歳月をかけて民衆と知識人が育て上げた「三国志演義」が、元本となった。〈「三国志には、詩がある。単に尨大(ぼうだい)な治乱興亡を記述した戦記軍談の類(たぐい)でない所に、東洋人の血を大きく搏(う)つ一種の諧調と音楽と色彩とがある〉と小説の「序」で吉川は書いた。世界の古典小説に比べても構想の雄大さと舞台の広さは、群を抜く▼三国志の史実を探る特別展が東京・上野の東京国立博物館で始まった。新たに掘り起こした遺品や資料から神格化された人物や物語を検証し、リアルな世界を再現した。数々の武器は戦いの激しさを示す。魏・蜀・呉の3国を等距離で検証し、小説とは趣を異にする実像が浮かび上がる▼栄枯盛衰は世の習い。だから正義と清廉さが光る。三国志は「こころざし」の書でもあろう。面白さが悠久と流れる。

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