自由化は国民の問題 農家補助で安全守れ 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 農産物貿易自由化は農家が困るだけで、消費者にはメリットだ、というのは大間違いである。いつでも安全・安心な国産の食料が手に入らなくなることの危険を考えたら、自由化は、農家の問題ではなく、国民の命と健康の問題なのである。
 
 つまり、輸入農水産物が安い、安いと言っているうちに、エストロゲンなどの成長ホルモン、成長促進剤のラクトパミン、遺伝子組み換え、除草剤の残留、イマザリルなどの防カビ剤と、これだけでもリスク満載。これを食べ続けると病気の確率が上昇するなら、これは安いのではなく、こんな高いものはない。

 日本で、十分とは言えない所得でも奮闘して、安全・安心な農水産物を供給してくれている生産者をみんなで支えていくことこそが、実は、長期的には最も安いのだということ、食に目先の安さを追求することは命を削ること、子や孫の世代に責任を持てるのかということだ。

 牛丼、豚丼、チーズが安くなって良かったと言っているうちに、気が付いたら乳がん、前立腺がんが何倍にも増えて、国産の安全・安心な食料を食べたいと気が付いたときに自給率が1割になっていたら、もう選ぶことさえできない。今はもう、その瀬戸際まで来ていることを認識しなければいけない。

 そして、日本の生産者は、自分たちこそが国民の命を守ってきたし、これからも守るとの自覚と誇りと覚悟を持ち、そのことをもっと明確に伝える。消費者との双方向ネットワークを強化して、地域を食い物にしようとする人をはね返し、安くても不安な食料の侵入を排除し、自身の経営と地域の暮らしと国民の命を守らねばならない。それこそが強い農林水産業である。 農業政策を「農業保護はやめろ」という議論に矮小化して批判してはいけない。農林水産業を支えることは国民の命を守ることだ。カナダ政府が30年も前からよく主張している理屈でなるほどと思ったことがある。それは、農家への直接支払いは生産者のための補助金ではなく、消費者補助金なのだというのだ。

 なぜかというと、製造業のようにコスト見合いで農産物の価格を決めると、人の命に関わる必需財が高くて買えない人が出るのは避けなくてはならないから、それなりに安く提供してもらうために補助金が必要になる。これは消費者を助けるための補助金を生産者に払っているわけだから、消費者はちゃんと理解して払わなければいけないのだという論理である。この点からも、生産サイドと消費サイドが支え合っている構図が見えてくる。

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