林望さん(作家・国文学者) 水漬けご飯「米の味」堪能

林望さん

 私は全くの下戸で、居酒屋、バー、クラブといったところには、決して行かないんですね。ですから外食といえば、完全禁煙の店へ何かおいしいものを食べに行く。料理が目的なわけです。食事というのは、腹がふくれないといけない。高級懐石料理のように、ほんのちょっぴりずつという気取ったところには、行きません。結局、家庭料理が一番です。

 母は料理好きで、手早く上手に作っていました。しかも大変なハイカラさんだったんです。
 

“ハイカラ”な母


 私が子どもの頃といえば、高度経済成長期の前。洋菓子屋といえば不二家があるくらい。ケーキはハレの日の食べ物でした。

 ピザもスパゲティもありませんでしたね。イタリア映画の「自転車泥棒」を見たら、父と息子が何かを頼み、それを食べる時に黄色いのがビョーンと伸びていった。餅のわけがないし、これはなんだろうと不思議に思いました。やはりイタリア映画の「道」を見たら、男が主人公の女に修道院で飯を食わせるんですよ。大きな皿にスパゲティが盛られ、その上にオイルサーディンが載っていた。あれはどういう味がするんだろうと思ったことを覚えています。物語は全く覚えていないけど。

 そんな時代に、母はデコレーションケーキやアップルパイといった洋菓子を作ってくれました。

 母方の祖母は、井伊家御用達だった近江商人のお嬢さまでした。自分では縦の物を横にもせず、料理はあまりやらない。料理はよく祖父がやっていました。

 ですから男が料理をするということに何の抵抗もない家でした。母は私に料理を手伝わせたので、おかげで小学校の時分で料理のやり方を全部習得しました。

 長じて今。妻は料理をせず、私が作っています。
 

夕食は和食中心


 朝食はパンとミルクティーと、何か一つ少量の肉と何か一つ野菜。これを午前10時くらいに。

 私は一日2食ですから、夕食はしっかりと取ります。以前はイタリア料理も中華料理も作りましたけど、今は基本的に和食ですね。お米が大好きなんです。息子のお嫁さんが新潟県糸魚川の農家なので、そちらから自家栽培の「コシヒカリ」を送っていただいてます。

 これを水漬け、水飯(すいはん)ともいいますが、それで食べると、実にうまいですね。冷めたご飯に冷たい水を掛けて食べるんです。そうして初めて、ご飯のおいしさが分かるというものです。かむうちに甘味が出てくるわけ。源氏物語にも出てくる食べ方です。

 おかずは野菜を中心に。ニンジンの赤、カボチャの黄色、菜っ葉の青、ダイコンの白……。いろんな色の食べ物を取るようにすると、自動的に栄養のバランスが取れるんじゃないでしょうか。

 各地のみそを散々比べた結果、石川県の西圓寺みそに落ち着きました。非常にあっさりとした味です。みそ汁を作るに当たって、最近はだし汁を取りません。実も入れないで、空汁でいただきます。例えばゆで鶏を作るため鶏を煮たら、鶏のだし汁が出るでしょう。ふろふきダイコンを作っても、やっぱりダイコンのだし汁が出るでしょう。西圓寺みそ自体にうま味が詰まっているので、そういったゆで汁にみそを入れるだけ。

 みそを水漬けの上に載せて食べるのもいいですね。水漬けには、高菜漬けやウルメイワシの生干しをあぶったものもよく合います。そういうさかなをおかずに冷や飯をいただいているわけです。(聞き手=菊地武顕)

 はやし・のぞむ 1949年、東京都生まれ。慶応義塾大学大学院博士課程満期退学。『イギリスはおいしい』で日本エッセイストクラブ賞、『謹訳源氏物語』(全10巻)で毎日出版文化賞特別賞受賞。近著に『大根の底ぢから!』(フィルムアート社)、『(改訂新修)謹訳源氏物語』(祥伝社文庫)がある。 
 

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