豚コレラ 殺処分 耐えきれぬ 渦中の生産者座談会

 豚コレラが昨年9月に発生して、間もなく11カ月になる。被害は終息のめどが立たず、農家に不安が高まっている。日本農業新聞は名古屋市で、殺処分を経験した農家4人と識者で座談会を開き、現状の受け止めと今後必要な対策について思いを語ってもらった。(文中敬称略)
 
豚コレラの現状や対策について語る座談会出席者。(左から)阿部さん、鋤柄さん、瓜生さん、橋枝さん、呉代表、吉野会長(名古屋市で)
 
 

畜舎に行くのが怖い 阿部さん


 司会 豚コレラ発生からの現状をどう見ていますか。

 橋枝 私のところは2カ所で出てしまった。繁殖農場で3月に出て、自分が肥育農場に行くことがリスクになった。6月には肥育農場でも発生。岐阜県の農家は皆、精神的にきつい状態だ。

 阿部 1月の発生で、獣医師からは「これだけ防疫していてどうして」と言われた。殺処分から2週間ぐらい、豚の鳴き声が聞こえない畜舎に行くのが怖かった。鬱(うつ)みたいな状態。後継者がいてくれたから耐えられたと思う。

 瓜生 1件目が岐阜だっただけで、どこでも出る恐れはあった。

 吉野 国家防疫の、水際対策の面で語られるべきことなのに。まるで岐阜県が犯罪者扱いされている。憤りを感じる。

  イノシシが広範囲に広がりウイルスの濃度が高い状況では、農場を守り抜くのは難しい。

 瓜生 イノシシは1年で、長野まで広がった。いったん収まった田原(市)も安全とは言い切れない。このままだと、関東まで広がってしまうという危機感がある。
 

再感染なら経営断念 鋤柄さん


 司会 経営再開への展望は。

 鋤柄 うちは県内で最初に発生して、今月18日に8頭を入れて、最初に経営を再開した。消毒ゲートを2カ所に設置し、従業員の動線を改善して衛生対策を整えた。陽性の野生イノシシは近くにいないが、最初に再感染の恐れもある。そうなれば、家族には「養豚をやめる」と話している。

 橋枝 農家は誰でもそう思っている。2度目はないと。今は仕事がないのでアルバイト5人は6月で辞めてもらい、4月からの新入社員も2人、今月で退職になる。従業員10人の生活もあるし、何とか再開したいが、周辺には陽性のイノシシがうようよしている。

 鋤柄 私は農家の8代目で、養豚は父の代から。小さい頃から豚屋と言われていい思いはしなかったので、自分でブランド化してきた。発生してからも「人にはうつらないから」という声が聞こえてきて。やってきたことが地域で評価されたと感じて、再開に踏み出すことができた。

 阿部 再開のハードルは臭いの問題などで、1日遅くなるごとに高くなる。地域には豚を飼う家は50年くらい前まで400戸あったが、今はうちだけ。生まれた時から豚と一緒に遊び、豚の居ない生活は考えられない。半年間、収入もない。早く再開したいとは思っている。

 橋枝 防疫対策というか、対応に追われていたという感覚だ。豚コレラを抑え込む動きができていれば、こんな事態にはなっていなかったと感じる。これだけ被害が出た状況で、もう一度力を出し合って根本的に解決する方法を考えていかないとまずい。
 

ワクチン 限定使用を 瓜生さん


 司会 必死の防疫作業が続いていますが、今必要な対策は何だと思いますか。

 鋤柄 再開して困ったのは「豚を撮影したい」という申し出がテレビ局からあったこと。この局面でそれを言うのかと。この程度の認識では、もし豚にワクチンを打ったら、豚肉に問題はなくても「扱わない」という流通業者が出てしまうのかな。その誤解を解くことから始める必要がある。

 瓜生 豚コレラが出る前から僕の養豚団地では他の慢性疾患が多く、対策を考えているところだった。ハード面も強化する一方、地域限定の豚ワクチンは使った方がいいと思っている。

 橋枝 豚にワクチンを打っても、抗体が十分にならない豚は感染する。安全だとは思わない。むしろ、もう二度と入れないように、防疫意識は高めていかないと。国産のフレッシュな豚肉を消費者に届ける責任を果たしたい。

 阿部 豚が本当に好きだから飼っている。だけど、防疫作業中は夜も眠れない状態だったのが、再開することでその生活に戻るのもつらい。

  夜も眠れない気持ちはよく分かる。私は自分で飼っていないが、またどこかで出たという夢を見てしまう。

 

イノシシ駆逐 待てぬ 橋枝さん


 阿部 豚のワクチンで肉への風評被害が出たとしても、それは一時的なのではないか。それよりも、殺処分がずっと続いている方がイメージとしては良くない。

 鋤柄 同じ殺処分ならイノシシを何とかしてもらいたい。

  国が守るべきは、生産者だと強く思っている。手をこまねいているときではない。安心しておいしい豚肉を生産してもらうためにも、ウイルスの特徴を共有し、「これをしっかりすれば守れます」と言わなければいけない。

 橋枝 再発は怖いし、豚を見るのも怖い。でもこのまま、いつまでも再開しないと、と畜場や運送業者が地域になくなる。10年後に陽性のイノシシがいなくなったから再開できるとなっても、意味がない。

 吉野 養豚の不毛地帯になりかねない。8月2日には、名古屋市で、岐阜、愛知、静岡、三重、長野の5県で生産者が集まって「豚コレラ問題を考える会」を開く。養豚産業を守るため、何が必要か。意見を集約したい。
 


 

出席者


▽阿部浩明さん(52)=岐阜県各務原市、殺処分2500頭

▽鋤柄雄一さん(49)=愛知県豊田市、2農場計同7200頭

▽瓜生陽一さん(53)=愛知県田原市、同3000頭

▽橋枝雄太さん(36)=岐阜県山県市、2農場計同1万1000頭

◇オブザーバー

▽岐阜県養豚協会・吉野毅会長

▽日本養豚開業獣医師協会・呉克昌代表 

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