農産物販売の価格問題 コスト重視の議論を 立命館大学食マネジメント学部教授 新山陽子

新山陽子 氏

 政府の規制改革の方向に従いJAグループは、農協改革に取り組んできた。各種農業資材の共同仕入れ価格の引き下げ努力はその重要な一つであり、生産コストを節減し、農業者の所得向上を目的としている。一方、販売の主な取り組みは実需者や消費者への直接販売、買い取り販売、高付加価値化である。ただ、ここには販売価格問題への視点が欠如しているのではないか。

 直接販売にせよ、高付加価値化にせよ、生産にかけたコストに見合った価格でその生産物を販売できなければ、利益は生じないし、所得につながらない。ごく特別な場合を除いて、生産費用と販売価格の関係を検証する議論をまず聞かない。このことを極めて奇妙に思う。
 

交渉力の均衡は


 販売価格は、需給関係に左右されるが、それだけではない。売り手・買い手の取引交渉力に大きく左右される。例えば酪農では、国際穀物相場により飼料費が高騰した時も生産物価格に全く転嫁できない状態に陥った。生乳不足の中で生乳の販売額が生産費を下回る状態が続いた。乳業に対する小売りのバイイングパワーの強さが酪農の乳価に影響している可能性が研究者によって指摘されてきた。それを定量的に裏付ける結果が学会誌にも公表されるようになった。こうした検証を進める必要があろう。小売りは小売りで過当競争の中で利益独占にあずかれてはいないようであり、抑制の利かない市場でフードシステム全体が疲弊しかねない。

 農業者は法人でさえ、高い交渉力を持つ販売担当者を置くのは難しい。対して、メーカーや小売りは専門的なバイヤーを抱えている。取引量にも圧倒的な差があり、交渉力の彼我の差は明確である。交渉力のバランスが保たれて初めて市場は機能する。競争法(独占禁止法)の趣旨はそこにある。そのため農業には適用除外があり、農協などの集合組織をつくって販売することが正当とされる。それは食料を通した消費者保護にもかなう。
 

仏では法制化も


 農業が強いことで知られる欧州でも、小売りが優勢であり、製造業者の市場支配力が強いことも多い。そのため、欧州共通市場組織に関する規則を修正し、農業者の地位の強化、販売交渉力の強化、そのために認可された生産者組織が生産者に代わって供給契約を締結できることとした。また、欧州連合(EU)競争法も共通農業政策に沿った生産者組織の協調行動には適用されないことを定めた。

 さらに、フランスでは「農業食品部門の商取引関係の均衡と、安全で持続的で全ての人にアクセス可能な食品のための法」(egalim法)が今年1月に施行された。販売契約書に生産コスト、コスト変動指標などを記載し、垂直的業種組織がそれを作成するとされている。実施には課題も多く、前進と後退を繰り返している。しかし、日本の生産者組織を通さない直接販売への動きは、こうした認識とは真逆である。

 政府を含めて交渉力のバランスや価格問題を真剣に考える必要があろう。

 にいやま・ようこ 1952年生まれ。74年京都大学農学部卒、80年同大大学院博士課程修了、2017年同名誉教授、立命館大学食マネジメント学部教授。専門は農業経済学。著書は『牛肉のフードシステム―欧米と日本の比較分析』など多数。 
 

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