木場弘子さん(キャスター、千葉大学客員教授) 「誰と食べるか」を大切に

木場弘子さん

 何年か前に農水省の審議委員をしていた時のことです。大量に出る食品残さを減らすため、その実態を国民に伝えようという話し合いがありました。

 当時、海外から食料を5800万トンも輸入しておきながら、食べ残しは1900万トン。そのうち家庭から出る量が1100万トンもあったんです。ただしこの膨大な量をどう伝えるかが問題です。身近に感じられる数値に置き換えて広報しないといけません。

 そこで私たちは、1100万トンを日本の人口で割ってみたんです。すると1人当たり、年間84キロ。1カ月で7キロになります。これなら皆さんに「えっ、そんなに」と思ってもらえるでしょう。

 食べ残しをさらに増やしてしまっているのが、炭水化物ダイエットです。例えば回転ずし店に行って、ご飯を残してネタだけを食べるという人がいます。注文の時に、「私は刺し身だけでけっこうです」と言ってもいいのでは。
 

農家に思いはせ


 そこで工夫したメニューを出すレストランも出てきました。リンガーハットでは、ちゃんぽんを注文しても麺を食べないお客さんが増えたことで、麺を入れない「野菜たっぷり食べるスープ」という新メニューを出しました。このように、注文前の“入り口”で、食べ残しを防ぐことができます。

 同様に“出口”で防ぐこともできるはずです。海外のレストランでは、料理を食べ切れない場合、家に持って帰ることが普通に行われます。日本では衛生上責任を持てないと拒否するレストランが多く、頼みづらいですよね。でも私は日本でも「息子に食べさせたいから、半分持って帰っていい?」とお願いします。責任は客個人が負うという形にして、認めるようにできればいいですね。

 食べ放題のビュッフェに行くと、あれもこれもと皿に載せてテーブルに持って行って、結局残す人がいます。あれは嫌ですよね。食べ切ることが、農家や漁師の皆さん、料理人への感謝です。私だけでなく与田(夫の与田剛・中日ドラゴンズ監督)も感謝の気持ちが強く、食べ残しをする人を見ると嫌がります。与田は食事の時はテレビも消すよう言って、家族の会話や食事に集中しています。

 思いをはせるということは大切です。日照時間が短い中、食卓に運ばれるまでにどれだけの苦労があったのだろう? この秋の米の収穫は大丈夫だろうか? 何も想像しないで食べるだけでは、味気ない気がしますよね。
 

会話でおいしく


 また、食事をいただく時は、会話を楽しみたいですね。最近、一言もしゃべらず、スマホをいじりながら食べる人が増えました。ヘッドホンをしている人は大音量の方に神経が行って、味を感じることができるのでしょうか。

 家での食事では、息子が子どもの頃から、食材を話題にすることが多かったんです。オクラがおいしい季節になったねとか、もうサンマが捕れるようになったんだとか。旬の食材の話題は、会話のきっかけになります。食べながら話すことで、息子とうまくコミュニケーションを取れる関係を維持してきました。

 会話がある中で食べるから、おいしいと感じられるんです。私は「何を食べるか」より「誰と食べるか」を重視しています。コミュニケーションが大切ですよね。食材と料理を作ってくれた方々に感謝し、目の前にいる人と楽しく会話しながら食べる。それが一番幸せな時間だと思います。(聞き手・菊地武顕)

 きば・ひろこ 1964年、岡山県生まれ。千葉大学卒業後、TBSにアナウンサーとして入社。「筑紫哲也ニュース23」などでスポーツキャスターとして活躍。92年、プロ野球の与田剛氏(現・中日監督)との結婚を機にフリーに。今年2月、文科省の中央教育審議会委員に就任。予防医学指導士の資格も持つ。 
 

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