全中65年と新機軸 協同組合の旗掲げ前へ

 改正農協法に伴い、JA全中は一般社団法人として再出発した。まずは発足から、65年の歴史をしっかり総括することだ。その上で、時代の状況変化に応じた新機軸を立てる一方、これまで同様に協同組合の旗を高く掲げ、地域振興へ前進すべきだ。

 「新生・全中丸」は一見静かな船出だが、農協法から外れ指導や監査権限がなくなる意味合いは大きい。一連の農協改革論議の過程で、JAグループが中央会制度廃止と准組合員利用規制という理不尽な選択を迫られ、苦渋の決断をした結果でもある。だが、再出発をいま一度、組織全体を活性化する契機とみたい。1970年前後の農政大転換期に指導力を発揮した宮脇朝男元会長は「先憂後楽」を信条とした。難局を突破した後こそ、明日がある。

 全中の中家徹会長は一社化移行に伴う日本農業新聞のインタビューで「令和元年とも重なり、気持ちを新たに再出発する。農業とJAが多様化する中で、今まで以上に存在価値を増す組織を目指す」と強調した。人材育成によるマンパワー発揮こそが、今後のJA事業・経営支援の鍵を握る。「不易流行」もキーワードとなる。変えてはならない基本原則と、情勢変化に応じた柔軟対応、つまりは創意工夫ある新機軸展開の二つを指す。1980年のレイドロー報告で挙げた国際協同組合の信頼性、経営、思想の三つの危機は、いまだに打開できていない。むしろ三つが合わさった“複合的危機”に直面する。

 不変の基本原則は協同組合だ。そして農政展開も含めて運動体である点だろう。共存同栄、相互扶助、助け合いの精神は、市場原理主義が横行し経済格差が広がる時代の中でこそ威力を発揮し、輝きを増す。キーワードは「結集」そして「持続可能性」である。新生全中は、代表機能、総合調整機能、経営相談機能の三つを柱に据えるが、まず組織の求心力、結集と持続可能な組織経営が大前提だ。

 「歴史とは過去と現在の対話である」と歴史家E・H・カーは説く。既存の50年史、60年史に加え、全中65年の軌跡を総括することが欠かせない。まずは全体シンポジウムを開き、課題と展望を整理すべきだ。視点の一つは、中央会制度廃止、全中一社化という協同組合史でも前例のない異常事態をどう捉えるのか。1954年の全中発足当時に1万以上あった農協が今では約600で、経営指導、監査という役割を終えたという理由は表層的にすぎない。

 今後の全中に、同じ〈ひらく〉と読む「開く」「拓く」「啓く」の三つの漢字を重ねたい。地域住民により身近にするため組織を「開く」。将来を見据え挑戦し新規事業分野を「拓く」。そして協同組合の可能性を教え導く「啓く」である。日本の食と農の行方は、全中の機能発揮にかかっている。その気概こそが組織の未来を「ひらく」はずだ。
 

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