日米協定で1100億円減 生産量「影響なし」 農林水産で政府試算

 政府は18日、日米貿易協定で農林水産物の生産額が600億~1100億円減少するとの試算を公表した。牛肉をはじめ畜産物の影響が大きい。米国を除く11カ国の環太平洋連携協定(TPP)と合わせた減少額は最大で約2000億円に上る。一方、これまでの大型通商協定の影響試算と同様に、国内対策によって生産量への影響はないと説明する。試算の根拠が国会審議の論点になるのは必至だ。

 試算対象は、関税率が10%以上、国内生産額が10億円以上の33品目。関税の削減・撤廃で安価な輸入品が流入し、国産品の価格が引きずられ、生産額が減少すると試算した。最大1100億円は対象品目の生産額の1・4%に相当する。

 国内対策で農業の競争力が高まるとして、TPPや欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の影響試算と同じく、生産量への影響はゼロと説明。食料自給率も変わらないとの見通しを示した。

 影響額が最も大きいのは牛肉で、最大約474億円減少する。牛肉、豚肉、乳製品の減少額だけで全体の80%超を占めるなど畜産への影響が際立つ。

 米などは、関税削減・撤廃の対象から除外したため、影響はないとした。

 日米協定とTPP11を合わせた影響の試算額は1200億~2000億円。ただ、政府は2017年、TPP11で生産額が900億~1500億円減少すると試算しており、今回の試算と単純に合計すると1500億~2600億円になる。

 農水省は、牛肉などで米国とTPP加盟国が日本の市場を奪い合うと想定。実際の減少額は、単純に影響を足した数字ではなくなるとみる。米国産品の関税削減で、関税収入は最終年度で1030億円減少する。

 日本経済全体への効果は、実質国内総生産(GDP)を約0・8%(約4兆円)押し上げると試算。交渉継続中の自動車・自動車部品の関税は撤廃を前提に試算した。

 それでも協定全体の対象品目、分野が限定されるため、TPP11や日欧EPAを下回った。経済効果や試算方法も国会で議論を呼びそうだ。
 

 

<解説> 具体的に根拠示せ


 政府は過去の協定と同様に、国内対策の効果で国内生産量の影響はゼロと説明したが、対策の前提となる政策大綱は決まっていない。議論の土台が定まらないまま協定承認案の国会審議が始まるが、これで生産現場の不安が払拭(ふっしょく)できるのか。安倍晋三首相は「農家の不安に寄り添う」と明言しているが政府の姿勢が問われる。TPPや日欧EPAでは、政策大綱の決定後に対策の方針を踏まえて経済効果や影響試算を出していた。政府は今回、審議を急ぐため、過去のような専門家の分析や農産品の品目ごとの分析などを欠いた「暫定版」を公表した。確定する頃には、協定は既に承認されている可能性すらある。

 試算の前提も現実味がない。生産量への「影響ゼロ」の根拠が示されていない。TPP11に加え、日欧EPAも含めた大きな市場開放に対応した試算も必要だ。

 現時点の試算であっても、最大1100億円という生産減少額は日欧EPAと同等だ。特にトランプ米政権の関心が高かった畜産品の影響額は甚大だ。農家の不安をどう払拭するか。試算の妥当性を含め、国会で徹底審議するべきだ。

 実質GDPの引き上げ効果は、時期が決まらなかった自動車・同部品の輸出関税撤廃を織り込んでも、TPP11と日欧EPAを下回った。

 農産品の市場開放に見合うだけの成果が得られたのかどうか。疑問は大きくなるばかりだ。国会での明確な説明が求められる。
 

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