日米貿易協定 農民勝たせる政治を 日本金融財政研究所所長 菊池英博

菊地英博氏

 安倍晋三首相と米国のトランプ大統領は9月25日にニューヨークで会談し、日米貿易協定の最終合意を確認して共同声明に署名した。安倍首相はウィンウィンだとして交渉が成功したと言っているが、協定内容をみると日本側に不利な要因が多く見られる。
 

民主主義に反す


 大きな問題は、最終合意まで政府から情報開示がなく、国民の意見を事前に聞かずに政府のご都合主義で協定内容が決まったことだ。民主主義の大原則に反する行為で、看過できない。

 共同声明では、「今回の協定発効後、4カ月以内に次の協議テーマを決める」ことになっており、次の交渉で米国は日本側にさらなる関税引き下げ(環太平洋連携協定=TPP=以上)と自動車の関税引き上げ、為替条項(円安誘導を制限される)の採用などを追加させられる余地を残している。

 安倍総裁率いる自民党は、2012年12月の選挙でTPP参加反対を訴えて政権に復帰した。ところが、政権に復帰するとTPP参加に豹変し、さらに必要がない欧州連合(EU)との貿易協定まで締結して日本の食料自給率を低下させている。18年度の日本の食料自給率(カロリーベース)は過去最低の37%に落ち、食料生産額は2年前に比べ2ポイント減の66%だ。田畑が縮小して農業所得は減少している。

 トランプ大統領は交渉後に今回の協定は「公正で互恵的な協定だ、米国の農民が勝ったのだ」と述べたことが注目される。米国農民が勝ったのであれば、負けたのは日本農民だ。
 

財政支援に大差


 米国は1930年代の大恐慌の時に農産物が売れ残り、農民は貧困状態に落ち込んでしまった。そこで、戦後の米国は食料自給率を100%以上にすることを国家目標とし、さらに農産物を安全保障上の戦略物資と位置付けて、党派を問わずに農業振興・農民支援に多額の奨励金を支給してきた。

 『よくわかるTPP48の間違い』(農文協)による「農業に対する政府支出の国際比較」のうち「農業生産額に対する農業予算の割合(2005年)」では、日本が27%、米国は65%であり、米国農民は日本農民よりも2・4倍の財政支援を受けている。この比率が19年度でも継続しているとすれば、日本の101・4兆円の国家予算のうち農水予算は2・4兆円であるので、米国並みにするにはこの2・4倍である5・8兆円が必要である。

 米国は食料自給率が130%(カロリーベース、農水省)であり、米国農民は日本よりも多い国の援助を得て生産に励み、余剰農産物が出れば大統領が支援してくれる。

 安倍首相に問いたい。貴殿はTPPに反対したので政権に復帰できたのに、権力を握るや農民への約束をほごにしたのだ。トランプが自国の農民を支援する姿勢を見て、貴殿も見習ってはどうか。貴殿もトランプのように自国の「農民を勝たせる政治家」になってほしい。
 

 きくち・ひでひろ 1936年生まれ、東京大学教養学部卒、東京銀行(現三菱UFJ銀行)を経て95年から文京女子大学(現文京学院大学)・同大学院教授。2007年から現職、金融庁参与など歴任。主要論文「日本農業は過少保護、農林中金の利益が生産に必要」(『週刊エコノミスト16年5月25日』)など。

 

おすすめ記事

論点の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは