譲歩重ねる日米貿易 FTA交渉 歯止めを 立教大学経済学部特任教授 金子勝

金子勝氏

 これほど譲歩を重ねてしまう「外交」交渉などあっただろうか。

 そもそも当初、環太平洋連携協定(TPP)に入らないと言ってTPPに入り、トランプ政権がTPPから離脱すると、今度はTPPに引き戻すと言いだしながら、日米貿易交渉に入った。そして、TPPの水準を下回らないと公言した。だが、この「公約」も守れそうにない。

 実際、9月25日の日米首脳共同声明第3項で「互恵的で公正かつ相互的な貿易を促進するため、関税や他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に係る障壁、その他の課題についての交渉を開始する」と書かれた。米国通商代表部のライトハイザー代表は、来年5月にも「できれば完全な自由貿易協定(FTA)」を議論したいと述べている。
 

「TPP以上」濃厚


 日米貿易交渉は序章にすぎず、日米FTA交渉は継続しそうな気配である。しかも、それはTPP以上の水準になることを防げない。

 まず、TPPの時には合意されていた自動車関税2・5%廃止に関して、米国政府は「今後のさらなる交渉次第である」との表現に止めている。加えて、通商拡大法232条に基づく自動車関税25%の脅しを背後に、日本側にさまざまな要求を突きつけてきた。トウモロコシの輸入問題だけでなく、日米の合意文書の枠外で、自動車でもトヨタは100億ドルだった米国投資に30億ドルを上乗せし、さらにテキサスのトラック工場に4億ドルを出すと発表した。

 牛肉関税問題も実は決着がついていない。牛肉のセーフガード(緊急輸入制限措置=SG)発動に際して、10月7日公表の政府間の交換公文でも、米国側はSG発動の場合、「当該農産品SG措置に適用のある発動水準を一層高いものに調整するため」、「発動後10日以内」に「協議を開始」し、「発動後90日以内に当該協議を終了させる」とする。関税が引き下げられ輸入が増加する度にそれを認めさせ、さらに市場開放を急がされていく可能性が大きい。

 農業関係者はアクセス米問題が表面化しなかったためにほっとしている向きがある。だが、再び日米FTA交渉が始まれば、そこで「農産品に関する特恵的な待遇を追求する」という米国政府の立場からして、再び農産物関税が交渉される可能性がある。
 

影響検証進めよ


 何をすべきか。まず、政府はこの貿易協定の影響をきちんと検証することが先決だ。10月18日に政府は日米貿易協定で農林水産物の生産額が600億~1100億円減少するとの試算を公表した。しかし、生産量への「影響ゼロ」との根拠が示されていない。農家の所得影響額を検証した上で、所得を補償する対策が必須である。

 次に、農畜産物の安全性に関して真剣に対抗策を講ずるべきである。すでに、欧州は乳がんなどのリスクがあるとして、成長ホルモン剤投与の米国産牛の輸入禁止措置をとっている。日本国内でも同様の禁止措置があるが、国内外で厳格に実施すべきである。

 最後に、日本が今後ずるずると日米FTA交渉に引きずり込まれないように国会論議で歯止めを明確にすべきだろう。

    かねこ・まさる  1952年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程修了。2000年から慶応義塾大学教授、18年4月から現職。著書に『金子勝の食から立て直す旅』など。近著に『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)。

 

おすすめ記事

論点の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは