病院あるから住める 顔なじみの医療必要 包括ケアどうなる 再編に現場困惑 鳥取県日南町

 厚生労働省が、全国の公立病院などのうち、再編や統合を議論すべきだとする424の病院の一覧を実名で公表した問題が、地域医療を守ってきた農山村の病院や住民に波紋を広げている。誰もが、住み慣れた地域で安心して暮らせるのか。山間部の病院や住民は再編リストに疑問を感じ、「地域医療が農山村の命綱であることを知ってほしい」と声を上げる。
 

患者見守り地域連携


 岡山県との県境に接し山に囲まれた鳥取県日南町。その中心部にある日南病院は、再編や統合を促された病院の一つだ。

 インフルエンザの予防接種を終えた農家の田辺三枝子さん(81)は、手押し車に助けられ病院前のバス停に向かった。待ち時間も他の患者との交流の時間。「膝が悪くてもつえを突きながら生きがいの農業ができる。病院があるから古里に住み続けられるのよ」

 田辺さんは週2回、デマンドバスやタクシーで片道30分かけて病院に通う。5年前に運転免許証を返納。同病院から車で20分程度の隣町に総合病院はあるが、田辺さんの集落からは1時間以上かかる上、電車とバスを乗り継がなければ通えない。駅の階段が上れない田辺さんにとって、病院の存続は死活問題だ。再編リストで名指しされたことに「なくなればみんな困る」と話す。

 高齢化率5割、人口4500の日南町の医療機関は、歯科以外は同病院しかない。山間部の町には田辺さんのように高齢者が大勢いる。面積340平方キロと広い町にある複数の集落は、中心部まで車で30分以上かかる。過疎が進んでも高齢者が生活を続けられるよう、町は各集落との交通網も含め、関係者一体で住民を支える地域医療を築いてきた。

 「病気を治すだけではなく、暮らしを守る。それが地域医療の根底にある」。同病院の佐藤徹院長は1962年の開設以来、病院が築いてきた地域医療を誇りに思う。

 中でも毎週1回開く在宅支援会議は、地域ぐるみで患者を支える基盤になっている。病院の常勤医師6人と看護師やヘルパー、薬剤師、保健師ら医療、福祉、介護に関わる人が全て参加。退院した患者や介護支援対象になった高齢者ら、あらゆる住民の体調変化や暮らしぶりを関係者が報告し合っている。

 さらに通院ができない人のために、訪問診療・訪問看護など、院長や名誉院長も自ら各集落に往診に出向く。

 そんな地域に根を下ろしてきた同病院が再編リストに入ったことに、同病院の中曽森政事業管理者は「唐突な公表。病院の地域づくりへの役割が考慮されていない」と嘆く。厚労省が推進してきた住まい、医療、生活支援が一体の「地域包括ケアシステム」への配慮もないなど疑問点がいくつもある。佐藤院長は「地域医療の現場の努力と苦労を知ってほしい」と訴える。

 再編リストには、地域の要といえる条件不利地の病院名が多く挙がった。万が一、不採算で病院が撤退すれば、地域が立ち行かなくなってしまう。

 JA長野厚生連佐久総合病院の小海分院も対象となった。同病院の井澤敏院長は「病院がなくなることは、人が住むことが難しくなることを意味する。医療は地域の生活に不可欠な社会資本だ」と指摘する。

 離島にある鹿児島県南種子町の公立種子島病院の羽生裕幸事務長は「島の医療を切り捨てないでほしいと国には(説明会で)伝えた。努力は継続するが、医師確保にも大きな影響が出てしまう」と訴える。

<メモ> 病院の実名公表

 全国の公立病院や赤十字、厚生連など公的病院1455のうち、厚労省が再編や統合を議論すべきだとする424病院を9月に実名で公表。2017年6月の診療実績に基づき、がんや脳卒中など9項目の診療実績が低いこと、類似の診療実績を持つ病院が車で20分以内の場所にあることなどを基準とした。

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