豚コレラ経口ワクチン 包囲網 立て直し急務 中部ぐるり8県10万個散布

 豚コレラの拡大防止に向け、国が野生イノシシ対策の柱に掲げる経口ワクチンベルトの構築が進んでいる。日本農業新聞の調べでは、11月中旬までに約10万個の経口ワクチンが8県85市町村で散布される見通しだ。ただ、豚コレラは既にベルトの外側にも広がっており、「対策の根幹を揺るがす事態」との指摘もある。豚コレラの封じ込めに向けて、対策の立て直しが急務となっている。
 

感染拡大 関東も対策


 農水省が野生イノシシ対策として、経口ワクチンベルトの構築を打ち出したのは9月上旬。豚コレラ防疫対策本部で、豚コレラの終息に向けた対応方針として示した。それ以降、“包囲網”の構築に向け、各県が散布に乗り出している。

 本紙は7日までに、各県の担当者から取り組み状況を聞き取った。ベルト対策が打ち出される以前に散布された経口ワクチンであっても、ワクチンベルトとして機能しているものは含めた。

 その結果、中部地方を取り囲むように、8県85市町村で計9万7346個の経口ワクチンが散布されつつあることが分かった。進捗(しんちょく)状況を見ると、長野を除く7県で散布が完了。長野県は「現状、7割程度の散布を終了し、11月15日までに全て終える」(家畜防疫対策室)としており、全般的に経口ワクチンベルトの構築が進む。

 ただ、豚コレラは既にベルトの外側に広がりつつある。9月には、埼玉県の養豚場で飼養豚の感染を確認。野生イノシシも含め、関東で初めて豚コレラが確認された。10月には群馬、山梨両県で立て続けに感染イノシシを確認。静岡県でもベルトの外側で感染イノシシが見つかった。現状では、豚コレラの拡大に歯止めがかかっていない。

 事態を受け、同省はベルト対策を抜本的に見直すことを決めた。具体的にはベルトの位置を「野生イノシシの感染が確認された地点」に応じて見直す。感染イノシシが新たに見つかった群馬や埼玉、山梨県に加え、隣接する神奈川県も含め散布を検討。現行の東ベルトをさらに東側に設定し直すものとみられる。

 見直しでは、散布作業の効率化も検討する。現在、経口ワクチンは地元猟友会の関係者や県職員らが手作業で地中に埋めて設置している。ただ設置スピードに限界があり、人が立ち入れない山奥などでは散布すらできないという課題があった。

 そこで防衛省など関係省庁と連携し、自衛隊のヘリコプターや飛行機などを利用した経口ワクチンの空中散布を検討する。大量のワクチンを広範囲に散布することで、感染イノシシの拡大を一気に封じ込めたい考え。

 江藤拓農相は「野生イノシシで清浄化しない限り、飼養豚への感染リスクは今後も減らない」と危機感を示す。発生地域での封じ込めという前提が揺らぐ中、ベルト対策の立て直しが急務となっている。

<ことば> 経口ワクチンベルト

 豚コレラの発生地域一帯を取り囲むように、野生イノシシ向け経口ワクチンを帯状に散布する対策。野生イノシシがベルトの外側の未発生地域に豚コレラウイルスを拡散するのを防ぐ。これまでは愛知、長野、静岡、富山、石川の5県を「東ベルト」、三重、福井、滋賀の3県を「西ベルト」に設定。東西から発生地域を挟み込み、豚コレラの封じ込めを図っている。
 

北海道大学大学院 迫田義博教授インタビュー 「人での拡散」も防止策を  


 北海道大学大学院獣医学研究院の迫田義博教授に、経口ワクチンベルト対策の今後のポイントについて聞いた。

 経口ワクチンベルトの構築が着々と進み、各県の取り組み状況は一定に評価できる。だが、豚コレラは既にベルトの外側に広がり、ベルト対策の根幹を揺るがす事態に陥っている。

 ベルトの外側にあった埼玉県や群馬県は、それまで感染イノシシが確認されていなかった。そのため養豚関係者といった「人の動き」で豚コレラが広がった可能性が考えられる。これは非常に大きな問題だ。

 そもそもベルト対策は一定のエリアに豚コレラを封じ込め、感染拡大を止めるのが狙いだ。人による拡散があちこちで発生すれば、ベルト対策は意味をなさなくなる。今後、経口ワクチンベルトの範囲を見直すにしても、今回の二の舞となってはならない。

 国は飼養豚へのワクチン接種に踏み切ったが、接種しても豚コレラに感染する豚は必ず出てくる。結局、野生イノシシで豚コレラを終息させなければ、生産者は常に豚コレラの侵入リスクを抱えながら養豚を営むことになる。

 野生イノシシの豚コレラ対策は長期戦。今後、ベルト対策がうまくいっても終息まで10年程度かかる可能性もある。ベルト対策と併せて衛生管理を徹底するなど、人による拡散を防ぐ対策が重要だ。(聞き手・北坂公紀)

 さこだ・よしひろ 1970年、埼玉県生まれ。94年に北海道大学獣医学部を卒業。2014年から同大学大学院獣医学研究院教授。専門はウイルス学。

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