新品種の自家増殖 海外流出規制と分離を

 農作物優良品種の海外流出防止策を巡る農水省の検討がヤマ場を迎えている。輸出の障害になったり逆輸入されたりする事態を防ぐ対策が急ぎ必要だ。一方で同省は、育成者権の強化策として登録品種の自家増殖への許諾制の導入を提起。農家の伝統的権利を制限することになり、切り離して熟議すべきだ。

 新品種の開発には時間と費用がかかる。ブドウ「シャインマスカット」は18年費やした。育成者の権利を守るために品種登録制度がある。新品種と認められれば永年作物で30年間、他の作物で25年間、種苗の生産や輸出、収穫物の生産・販売、加工品の利用などを占有できる。

 しかし韓国では、日本から無断で持ち出されたイチゴ「章姫」「レッドパール」などで新品種を作りアジアに輸出している。「シャインマスカット」も中国で生産が拡大し輸出も増えてきた。インゲン「雪手亡」では逆輸入が北海道の農家を苦しめた。

 問題は、日本の品種登録制度の効力が海外には及ばないことだ。現行の種苗法では、植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV)加盟国への種苗の持ち出しを規制できない。無断栽培を止めるには、それを使いそうな国と消費地となりそうな国の両方で種苗登録が必要だ。

 大規模な貿易協定が相次ぎ、輸入増大への農家の不安は高まっている。一方で政府は輸出を推進。国内の新品種が海外で生産され、農家の首を絞めることがないよう抜本対策が必要だ。

 新品種を知的財産として守るため同省は検討会を設け、対策を論議。育成者が栽培を国内に限定する考えの場合、海外への持ち出しを規制することを提起した。海外で品種登録をするためのマニュアルの整備や経費の助成、権利侵害を発見したときの対応強化なども求められる。

 加えて、農家の自家増殖について同省は、自家採種や挿し木、高接ぎなどで増殖する場合は育成者の許諾を必要とする案を示した。自家増殖は伝統的な農家の権利として認められ、登録品種でも、研究目的と同様に育成者権の範囲外とされてきた。遺伝資源は農家が連綿と守ってきた公共財で、一度途絶えるとなくなってしまうからだ。国際ルールのUPOVも、慣行として自家増殖が定着していれば例外にすると認めている。

 同省は自家増殖を制限する作物を拡大。2016年の82種から19年には387種になった。過度な権利保護は、資金が豊富な企業の種子独占を招きかねない。種苗代などのコスト増大が農家の経営を圧迫し、新品種を基にした育種の意欲もそぐ。問題の背景には、自家増殖し他者に譲ってしまう農家の存在もある。育成者権の意味や権利意識を浸透させなくてはならない。

 同省の検討会は次回15日、論議をとりまとめる。海外流出防止はスピードが重要だ。だが自家増殖規制の議論は不十分で、種苗業界と農家の溝は深い。検討をもっと深める必要がある。
 

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