日米協定「熟議」遠く きょう衆院委採決
2019年11月15日

日米貿易協定の承認案は15日、衆院外務委員会で採決される。政府・与党が成立を急ぐ中、審議は11時間で終わり、環太平洋連携協定(TPP)を大きく下回る。農産品の影響試算の根拠や、牛肉のセーフガード(緊急輸入制限措置=SG)の実効性などを巡る政府と野党の議論は平行線のまま。「熟議」につながらないまま衆院の審議は終わる。
10月24日の衆院本会議で審議入りしたが、外務委で予定されていた審議は2度延期された。公職選挙法違反疑惑を巡り、辞任した閣僚2人が説明責任を果たさないことに野党が反発し、国会審議が空転したためだ。
本格的な質疑は11月6日に始まったが、8日の質疑では要求資料の提出に応じない政府・与党に主要野党が反発して退席。与党側は、質問者不在のまま時間を進める「空回し」で審議時間を消化するなど対立が深まった。13日には正常化したが、政府と野党のやりとりはかみ合わないまま。結局、与野党の合意で採決日程が決まり、衆院での実質的な審議は終わった。
衆院での審議時間は11時間。「空回し」の時間を除けば10時間にも満たない。TPPは2016年に特別委員会を設けて70時間以上、米国抜きのTPP11は18年に20時間以上審議したのと比べると、議論の不足は否めない。
政府・与党は、日米協定を今国会の最重要案件に位置付ける。その分、野党の視線も厳しく、国会運営の駆け引き材料になった面があるが、野党内には「審議時間をより多く確保する方法がなかったか」(農林幹部)との声も漏れる。
審議の中で、野党が特に批判を強めたのが影響試算だ。政府は農産品について「生産額は減少するが、国内対策によって生産量や農家所得は維持される」との説明を変えていないが、国内対策は指針となるTPP等関連政策大綱の改定さえ完了していない。
野党からは「予算を出してから言え」と、政府説明の根拠の乏しさに批判が相次いだ。
より現実的な試算を求める声も出た。日米協定の試算は、既に発効済みのTPPや欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)を前提としていないことを野党は問題視。既存の通商協定を踏まえた具体的な試算を示すよう要求したが、政府・与党側は一貫して拒否している。
牛肉SGは、発動した場合の再協議規定を巡る攻防が激化した。発動すれば「発動水準をより一層高いものに調整する」協議に入り、期限も決まっている。引き上げを前提とした規定だとして、野党はSGの効果を疑問視する。
一方、SGの再協議についての政府答弁は「結果は予断していない」(茂木敏充外相)にとどまり、SGの先行きの不透明さは解消されないままだ。生産量や農家所得を維持する国内対策の具体像や、SGの実効性をどう確保するかなど、農業経営に直結する論点の議論は深まらなかった。
審議時間 延期・空回しTPP下回る
10月24日の衆院本会議で審議入りしたが、外務委で予定されていた審議は2度延期された。公職選挙法違反疑惑を巡り、辞任した閣僚2人が説明責任を果たさないことに野党が反発し、国会審議が空転したためだ。
本格的な質疑は11月6日に始まったが、8日の質疑では要求資料の提出に応じない政府・与党に主要野党が反発して退席。与党側は、質問者不在のまま時間を進める「空回し」で審議時間を消化するなど対立が深まった。13日には正常化したが、政府と野党のやりとりはかみ合わないまま。結局、与野党の合意で採決日程が決まり、衆院での実質的な審議は終わった。
衆院での審議時間は11時間。「空回し」の時間を除けば10時間にも満たない。TPPは2016年に特別委員会を設けて70時間以上、米国抜きのTPP11は18年に20時間以上審議したのと比べると、議論の不足は否めない。
政府・与党は、日米協定を今国会の最重要案件に位置付ける。その分、野党の視線も厳しく、国会運営の駆け引き材料になった面があるが、野党内には「審議時間をより多く確保する方法がなかったか」(農林幹部)との声も漏れる。
試算・SG 議論は平行線なお残る懸念
審議の中で、野党が特に批判を強めたのが影響試算だ。政府は農産品について「生産額は減少するが、国内対策によって生産量や農家所得は維持される」との説明を変えていないが、国内対策は指針となるTPP等関連政策大綱の改定さえ完了していない。
野党からは「予算を出してから言え」と、政府説明の根拠の乏しさに批判が相次いだ。
より現実的な試算を求める声も出た。日米協定の試算は、既に発効済みのTPPや欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)を前提としていないことを野党は問題視。既存の通商協定を踏まえた具体的な試算を示すよう要求したが、政府・与党側は一貫して拒否している。
牛肉SGは、発動した場合の再協議規定を巡る攻防が激化した。発動すれば「発動水準をより一層高いものに調整する」協議に入り、期限も決まっている。引き上げを前提とした規定だとして、野党はSGの効果を疑問視する。
一方、SGの再協議についての政府答弁は「結果は予断していない」(茂木敏充外相)にとどまり、SGの先行きの不透明さは解消されないままだ。生産量や農家所得を維持する国内対策の具体像や、SGの実効性をどう確保するかなど、農業経営に直結する論点の議論は深まらなかった。
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日米協定 熟議程遠く 参院委可決 政府、要求応じず
参院外交防衛委員会は3日、日米貿易協定の承認案を与党などの賛成多数で可決した。4日の参院本会議で承認される見通しだ。参院の審議は計11時間余りで、より精緻な農林水産品への影響試算や、追加交渉で農業分野が対象になる可能性など、重要な論点の政府と野党のやり取りは平行線のままだった。野党の資料請求に政府・与党は引き続き応じず、議論は深まらなかった。
自民、公明両与党と日本維新の会が賛成。立憲民主、国民民主両党などの共同会派と共産党、参院会派「沖縄の風」は反対した。
日米両政府は、来年1月1日の発効を目指す。日本政府は承認後、関係政令の閣議決定など国内手続きを終え、米国に通知する。発効すれば牛肉、豚肉などは環太平洋連携協定(TPP)と同様に関税が削減される。米は除外した。
参院では、有識者らを招いた参考人質疑も実施したが、質疑時間は11時間15分にとどまった。衆参両院合計でも22時間余りで、特別委員会で130時間以上審議したTPPや、米国抜きのTPP11の際の審議時間を大きく下回る。
衆参両院の審議を通じ、野党側は、時期が未定となった自動車・同部品の関税撤廃を除いた経済効果や、TPPと、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効済みの現状を踏まえた農林水産品の影響試算などを要求した。追加関税の回避の前提となる首脳会談の議事録なども求めたものの、政府・与党は提出要求には応じなかった。
採決前の討論で、野党は「再三の提出要求にも一切応じず、国会への説明責任を放棄した」(野党共同会派の小西洋之氏)などと政府を強く批判した。
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2019年12月04日
日米協定 攻防ヤマ場 試算、再協議なお不透明 参院委で与党3日採決狙う
国会は今週、日米貿易協定の採決を巡りヤマ場を迎える。9日の会期末が迫る中、与党は3日に参院外交防衛委員会で可決、4日の本会議で承認する日程を描く。野党側は採決日程に応じておらず、攻防が続く見通し。「桜を見る会」の情報開示を巡る与野党の対立は続いており、国会が不安定化することもあり得る。より精緻な農林水産業への影響試算や再協議の可能性など、論点は多く残っているが、議論が深まるかは不透明だ。
衆院での協定審議時間は11時間。質問者不在のまま時間を消化する「空回し」も含まれる。要求資料を提出しない政府・与党に野党が反発し退席したものの、与党が審議を続行したためだ。
一方、参院の審議時間は外交防衛委員会での審議や連合審査会、参考人質疑を含め、現時点で9時間。協定の内容以外の質問も多く、農産品の議論も深まっていない。審議は3日も続ける。
米国を含む環太平洋連携協定(TPP)は、2016年に衆参に特別委員会を設けて計130時間以上審議した。米国離脱後のTPP11は、50時間弱だった。
野党は衆参の審議を通じ、関税撤廃期限が決まっていない自動車・同部品を除いた経済効果の分析、TPPや欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の発効を前提とした農林水産品の影響試算を出すよう要求。米国が検討する自動車への追加関税回避を明文化したものがないため日米首脳会談の議事録なども求めたが、政府・与党は一貫して応じていない。農産品では再協議の可能性について野党が攻勢を強めたが、政府は「日本側の義務は規定されていない」(茂木敏充外相)などの答弁に終始。踏み込んだ発言はなく、やりとりは平行線をたどっている。
日米協定に関連法案はなく、国内手続きの完了に必要なのは協定の承認だけ。憲法の衆院優越規定による協定の自然承認には30日の日数が必要だが、会期は残っていない。政府・与党は会期を延長しない方針で、参院の議決が必要になる。
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2019年12月01日
メガFTAと食肉 影響見据え対策加速を
大型自由貿易協定(メガFTA)の影響が心配される食肉の動向から目が離せない。輸入の増加は依然として続き、国産の相場は弱含みで推移している。関税引き下げの影響が出るのはまだ先だとみられていたが、生産者・産地と政府、業界は警戒を強め、生産・販売対策を加速させる必要がある。
環太平洋連携協定(TPP)は昨年末に発効し、今年2月には欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効した。牛肉、豚肉などの食肉は、関税引き下げによる国内への影響が最も心配された分野だ。深刻になるのは税率の下げ幅が大きくなる5年後、10年後との見方もあるが、そう悠長に構えてはいられない状況が出始めている。
最大の要因は食肉輸入の増加が止まらないことだ。豚肉は、2017年に93万トンと過去最高を記録し、昨年も横ばいの高い水準だったが、今年は10月までの累計で17年同期を既に4万トン上回った。過去最高を更新するのは確実な情勢だ。TPP、EPAともに2回の引き下げで従価税が1・9%へと2・4ポイント削減されたが、予想を超える輸入ラッシュとなった。
背景には、日本市場でのシェア争いが早くも始まっていることがあるとみられる。特に、この10年で対日輸出量を2倍に増やし、シェアを3割に高めたEUが今年の増加の一因だ。TPP、日欧EPA加盟国はいずれも、前年を上回っており、最大の輸出国の米国だけが前年を下回っている。
輸入が増えているのは豚肉だけではない。牛肉も、10月までの累計が、この20年間で最も多かった18年をわずかとはいえ上回っている。従来9割を占めてきたオーストラリアと米国の二大輸出国が前年を下回る中で、TPP加盟のカナダ、ニュージーランドなど新興国が追い上げている。鶏肉も10月累計で過去最高水準の輸入量となった。
食肉輸入の増加は、国産の枝肉相場に影響を及ぼし始めている。豚肉は1年ほど前から国産豚の生産回復に輸入の増加が追い打ちを掛け相場低迷となった。今年は回復の兆しが見え始めたが、夏場から輸入増で、再び弱含みの展開となっている。鶏肉相場、和牛相場も似たような構図だ。
これまで枝肉相場を大きく左右してきたのは国内の景気動向だ。この10年ほどでは、リーマン・ショック、東日本大震災が相場低迷の要因となった。この5年ほど大きな景気後退もなく、相場は安定するはずなのだが、輸入の増加で相場はますます不安定なものとなっている。
TPP、EPAに加え来年1月には日米貿易協定も発効の見通しだ。抑制効果を発揮してきた牛肉のセーフガード(緊急輸入制限措置)は、TPPからの米国離脱でほとんど期待できない。関税という防波堤が低くなる中、それを越えて食肉輸入が増えるのは先のことではない。始まっているとみるべきだ。
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2019年12月02日

冬風揺れる柿すだれ JAふくしま未来伊達地区
全国有数のあんぽ柿産地、福島県のJAふくしま未来伊達地区管内で、皮をむいた柿を干し場につるす加工作業が最盛期を迎えている。きれいなオレンジ色の柿が次々とつるされる光景は「柿色のカーテン」と呼ばれ、この時期の風物詩だ。
原料の「蜂屋」や「平核無」の渋柿から乾燥によって独特の深い味わいと甘味を生み出す地区特産のあんぽ柿。
同地区では、11月上旬から原料となる柿の収穫作業が始まり、中旬からは、連通しと呼ばれる柿の皮むきや縄に柿を取り付ける作業、干し場につるす作業など、加工作業が本格化する。
JA伊達地区あんぽ柿生産部会長の佐藤孝一さん方では、11月15日から加工作業を開始。約8トンを加工する。1本の縄に10個ほど付けられた柿は、手作業で次々と専用の干し場につるされ、約40日間自然乾燥し、あんぽ柿として出荷される。「昼夜の寒暖の差や乾燥に適したこの産地特有の自然環境が、味わい深い極上のあんぽ柿を育む」と佐藤部会長は話す。
JAのあんぽ柿は、主に京浜地方を中心に各地の市場などへ出荷される。現在、「平核無」が出荷最盛期を迎え、生産量の9割以上を占める「蜂屋」は、12月上旬から本格的な出荷が始まり、翌年の3月下旬まで続く。
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2019年12月04日
多面的機能の維持 中山間守る国民論議を
食料・農業・農村基本計画の見直し検討が進んでいる。生産基盤の再建に向け、政府は担い手の農地集積や規模拡大に力を入れる。平場より生産性は劣るが、中山間地域の総土地面積は7割で農業産出額や農家数の割合は4割。同地域をどう守るか、国民的な議論を深めるべきだ。
日本農業新聞は10月、企画「ゆらぐ基(もとい)~危機のシグナル」と題し生産基盤の実態を追った。日本棚田百選に選ばれる宮崎県の集落が、棚田オーナー制度などで集落外の住民との交流に力を入れるものの存続の危機に直面している事例や、農地の受け皿となってきた集落営農組織が解散に追い込まれたことなどを取り上げた。
厳しい状況は数字からも読み取れる。農水省が行う2018年度の中山間地域等直接支払いの交付面積は約66万4000ヘクタール。14年度に過去最大の約68万7000ヘクタールに達したが、伸び悩んでいる。農業・農村を支えてきた団塊世代の高齢化や人口減少の中で、国民全体で守る仕組み作りは待ったなしの課題だ。
農水省は、農業・農村の多面的機能や棚田に対する国民の意向調査をまとめた。同機能で重要な役割を複数回答で聞いたところ、「雨水を一時的にためて洪水を防ぐ」(57%)「作物や水田にためられた水が土砂の流出を防ぐ」(37%)「日々の作業を通じて土砂崩れを防ぐ」(36%)といった治水・治山機能の評価が高い。また「棚田を将来に残したいか」を尋ねたところ、8割が残したいと答えた。理由は「澄んだ空気や水、四季の変化などが癒やしと安らぎをもたらす」「農地や農作物などがきれいな景色を作る」がいずれも37%と最も多かった。
一方で、「棚田の維持や保全のために何かしたいか」との問いに「したいと思わない」が34%。また「棚田を残したいか」について「荒れてしまうのは仕方がない」(19%)、「棚田がすべてなくなっても構わない」(6%)という回答もあった。
治水・治山や癒やしなどの多面的機能は国民にこそ多くの恩恵をもたらしている。農業・農村の役割と魅力について、国民理解をもっと広げる必要がある。
現行の基本計画は、担い手を中心とした産業政策と地域政策を車の両輪と位置付け、魅力ある農村づくりの取り組みには、規模や経営形態の異なる農業者、地域住民、農村外の人材などの幅広い参画が重要だと指摘する。しかし、農村の疲弊を訴える現場の声は強まっている。
最初の基本計画は20世紀最後の年に策定された。10年間を見通した同計画の5年ごとの見直しは「食料や農業・農村について消費者や自治体を含め、さまざまな階層が参加して議論する場で、20世紀農政から受け取った宝物」(小田切徳美明治大学教授)と言える。基本計画見直し検討への幅広い層の参画により、外部人材も含めた多様な担い手で農業・農村を支える実効ある政策を作る必要がある。
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2019年12月04日
農政の新着記事

日米協定“拙速”承認 来年1月1日発効へ 参院
日米貿易協定は4日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、承認された。来年1月1日に発効する見通し。牛肉、豚肉などは環太平洋連携協定(TPP)と同様に関税を削減。生産額の減少は過去の大型協定に匹敵する。昨年末に発効したTPP、今年2月に発効した欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に続き大型協定の発効が迫り、日本農業はかつてない自由化に足を踏み入れる。
同協定を巡る交渉は4月に開始。9月に最終合意し、10月に署名した。合意内容の公表から協定の国会審議までは1カ月足らず。TPPなど過去の大型協定と比べても異例の短さで、情報開示や国民的な議論の不十分さが目立った。
同日の採決では、自民、公明両党と日本維新の会などが賛成。立憲民主党、国民民主党などの共同会派や共産党は反対した。
政府は今後、関連する政令改正などの国内手続きを終え、米国に通知する。米国側は国内法の特例に基づき議会審議を省く方針。両国の合意で発効日を決められ、米国の要望に応じて1月1日の発効となる見通しだ。
発効後、日米は追加交渉に向けた予備協議に入り、4カ月以内に交渉分野を決める。政府は関税交渉について「自動車・自動車部品を想定しており、農産品を含めてそれ以外は想定していない」(茂木敏充外相)としているが、具体的な交渉範囲は協議次第だ。
協定では、牛肉は関税率を最終的に9%まで削減する。セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)を設定した一方、発動した場合、発動基準をさらに高くする協議に入る。TPPのSGと併存し、低関税で輸入できる量がTPPを超えるため、政府は加盟国との修正協議に乗り出す。
今後、追加交渉での農産品の扱いやSGの発動基準数量の引き上げの動向などが焦点になる。
日本の攻めの分野の自動車・同部品の関税撤廃は継続協議となった。
政府の影響試算では、農林水産物の生産額は、米国抜きのTPP11の影響も踏まえると最大2000億円減る。国会審議で野党は、日欧EPAなど発効済みの他の貿易協定も含めたより精緻な試算を求めたが、政府・与党は応じなかった。
政府・与党は現在、中長期的な農政の指針となる食料・農業・農村基本計画の見直しの議論を進めている。一連の大型協定による農産品の自由化にどう対応するか具体策が問われている。
国内対策 農家規模問わず
政府は4日、日米貿易協定に伴い、国内対策の指針となる「TPP等関連政策大綱」改定案を自民、公明両党に示し、了承された。農業分野では、中山間地を含めた生産基盤強化の必要性を強調し、「規模の大小を問わず、意欲的な農林漁業者」を支援する方針を明記。新たに肉用牛や酪農の増頭・増産対策などを盛り込んだ。政府は5日に正式決定し、2019年度補正予算に農林水産業の対策費として3250億円程度を計上する。
改定案では、国内外の需要に応え、国内生産を拡充するため農林水産業の生産基盤を強化する必要性を指摘。畜産クラスター事業による中小・家族経営支援の拡充や、条件不利地域も含めたスマート農業の活用も盛り込んだ。規模要件の緩和や優先採択枠の設置で対応する。
自民党TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部(本部長=森山裕国対委員長)などの会合で、西村康稔経済再生担当相は「(農業の)国内生産を確実に拡大するため、中山間地域も含めた生産基盤を強化していく」と述べた。森山本部長は会合後、「(家族経営を)政策の横に置くのではなく、中心に据えてやっていくことが大事だ」と記者団に語った。
改定案には輸出向けの施設整備、堆肥活用による全国的な土づくりの展開、家畜排せつ物の処理円滑化対策、日本で開発した農産物の新品種や和牛遺伝資源の海外流出対策なども盛り込んだ。
農林水産分野の対策の財源について、既存の農林水産予算に支障のないよう「政府全体で責任を持って」確保する方針は改定案でも維持した。
TPPの牛肉SGの発動基準見直しを巡っては、「日米貿易協定の発効後の実際の輸入状況などを見極めつつ、適切なタイミングで関係国と相談を行っていく」との記述にとどめた。
日米協定国会承認 期限ありき審議不足 再協議規定 農業扱い不透明
日米貿易協定は、踏み込んだ議論には至らないまま、国会審議が終結した。来年1月1日発効を目指す政府・与党は、野党側の資料請求にも応じず、議論がかみ合わないまま審議が進展。野党も最終的には4日の参院本会議での採決に応じたため、農産品の再協議の可能性をはじめとした懸念を掘り下げることなく、協定は承認された。衆参両院の委員会審議は22時間余り。過去の経済連携協定を大きく下回る。
参院本会議では、これまでの委員会審議と同様に、農産品について、米国が「特恵的な待遇を追求する」と明記した再協議規定への懸念が続出。採決の最終盤となっても不明瞭な部分が残っている実態が改めて浮き彫りになった。
国民民主党の羽田雄一郎氏が再協議規定について「米国の強い意志を感じる」と指摘。大統領再選を目指すトランプ氏の強硬姿勢を警戒した。
協定に賛成した日本維新の会の浅田均氏も「米国がさらに強気の姿勢で交渉に臨んでくるのは不可避。積み残しになった自動車・同部品の関税撤廃の確定も含め、交渉は一筋縄ではいかない」と警鐘を鳴らした。
ただ、野党側は採決を容認。会議場内では「反対」などの声が出たが、賛否の投票作業は淡々と進んだ。
衆参両院を通じて、審議不足は否めない結果となった。衆院では、自動車の追加関税の回避の根拠となる議事録など示さない政府・与党に対し、主要野党が反発して退席。与党側が審議時間の消化を優先。質問者不在のまま割当時間を消化する「空回し」を含めても、審議時間は22時間余りにとどまる。
一方、環太平洋連携協定(TPP)は2016年、衆参両院に特別委員会を設けて計130時間以上審議。日米協定の審議時間は短さが際立つ。
さらに衆院では、協定の審議が「桜を見る会」の説明責任を巡る与野党の駆け引き材料になった部分も多い。野党内からも「政争の具にせず、審議の充実を追求していくべきだった」(幹部)と審議運営を批判する声が出ている。
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2019年12月05日
畜酪対策で重点要請 家族経営支援を 全中
JA全中は4日、2020年度の畜産・酪農対策に関する重点要請事項を決めた。中小規模の家族経営を含む、多様な生産者の生産基盤の強化などが柱。ICT(情報通信技術)による労働負担の軽減などに支援を求める。……
2019年12月05日

所得向上に重点を 年内に論点まとめる 自民基本政策委
自民党の農業基本政策検討委員会(小野寺五典委員長)は4日、来年3月に改定を予定する政府の食料・農業・農村基本計画について、年内に一定の論点をまとめる方針を確認した。同委員会の顧問を務める宮腰光寛・前沖縄北方相は、農業の経営継承や農家の所得向上に重点を置くべきとする考えを示した。食料自給率目標だけにこだわらず、深刻化する農業の担い手不足などの課題に直結した内容に見直す狙いとみられる。
小野寺委員長は「年内に一定の論点をまとめ、具体的な内容について踏み込んだ政策を図っていきたい」と述べた。
宮腰氏は「今回は農家の高齢化や若い農業経営者の不足などを考えると農地を含めた経営継承が大きなテーマだ」と強調。その上で「農家の農業所得や農村での所得をどう上げていくかが基本計画の目玉になるべきではないか」と提起した。
現行計画ではカロリーベースの食料自給率目標を45%に掲げるが、直近の18年は37%と過去最低に落ち込んだ。45%達成に向けた品目別の生産努力目標も大半の品目で実現が難しい状況だ。
党内には自給率を目標にすることを疑問視する声は少なくない。米中心だった食生活が変化していることへの対応に加えて、自給率低下を招いたとの批判をかわしたい思惑も見え隠れする。
一方、農業就業者は2015年で196万人と、政府の見通しを7万人程度下回る。担い手不足を背景に農地面積も減り続け、直近の19年で439万7000ヘクタールとなり、政府の25年の確保目標440万ヘクタールを早くも下回る。
会合では「規模の大小を問わず、経営を継承している農家にはしっかり支援しないといけない」(進藤金日子氏)、「水田地域を維持するには兼業農家を含む関連人口が多くないと大規模農家が(過重負担で)苦しくなっていく」(鈴木憲和氏)などの意見が挙がった。
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2019年12月05日

日米協定 熟議程遠く 参院委可決 政府、要求応じず
参院外交防衛委員会は3日、日米貿易協定の承認案を与党などの賛成多数で可決した。4日の参院本会議で承認される見通しだ。参院の審議は計11時間余りで、より精緻な農林水産品への影響試算や、追加交渉で農業分野が対象になる可能性など、重要な論点の政府と野党のやり取りは平行線のままだった。野党の資料請求に政府・与党は引き続き応じず、議論は深まらなかった。
自民、公明両与党と日本維新の会が賛成。立憲民主、国民民主両党などの共同会派と共産党、参院会派「沖縄の風」は反対した。
日米両政府は、来年1月1日の発効を目指す。日本政府は承認後、関係政令の閣議決定など国内手続きを終え、米国に通知する。発効すれば牛肉、豚肉などは環太平洋連携協定(TPP)と同様に関税が削減される。米は除外した。
参院では、有識者らを招いた参考人質疑も実施したが、質疑時間は11時間15分にとどまった。衆参両院合計でも22時間余りで、特別委員会で130時間以上審議したTPPや、米国抜きのTPP11の際の審議時間を大きく下回る。
衆参両院の審議を通じ、野党側は、時期が未定となった自動車・同部品の関税撤廃を除いた経済効果や、TPPと、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効済みの現状を踏まえた農林水産品の影響試算などを要求した。追加関税の回避の前提となる首脳会談の議事録なども求めたものの、政府・与党は提出要求には応じなかった。
採決前の討論で、野党は「再三の提出要求にも一切応じず、国会への説明責任を放棄した」(野党共同会派の小西洋之氏)などと政府を強く批判した。
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2019年12月04日
基盤・競争力強化 輸出拡大 経済対策は13兆円 政府案あす閣議決定
政府が近くまとめる経済対策の案が3日分かった。農業関係では、日米貿易協定の国内対策として生産基盤と国際競争力の強化、輸出拡大などを柱に据える。5日に閣議決定する。財政措置は財政投融資を含め13兆円程度とする方向。2019年度補正予算案と20年度当初予算案に必要経費を計上する。日米協定の農業対策費は、19年度補正予算で3250億円程度で調整している。
政府が同日、自民党の会合で対策案を示した。農業の生産基盤強化の具体策として、産地生産基盤パワーアップ事業や和牛・酪農の増頭、スマート農業技術の開発・実証プロジェクトなどを挙げた。大規模経営への支援だけでなく「中山間地域等の条件不利地域も含め、規模の大小を問わず意欲ある農林漁業者が安心して経営に取り組めるようにする」と記した。
輸出拡大では、司令塔となる「農林水産物・食品輸出本部」を農水省に設置し、輸出に対応できる食品加工・食肉処理施設などの整備を進める。
農業の担い手不足を受け、現在40歳前後の就職氷河期世代の就農支援を打ち出す。相次ぐ自然災害で被害を受けた農林漁業者の再建、災害に強い農業水利施設やため池、農業用ハウスの整備も盛り込む。
財政措置13兆円のうち、国の一般会計からの支出分は補正予算案で4兆円超、当初予算案で1兆円台後半をそれぞれ手当てし、計6兆円程度となる見通し。さらに特別会計を活用し1兆円台半ば程度を確保する。補正予算の農林水産関係総額は、日米協定対策費を含め6000億円超を目指す。
経済対策に伴う地方負担は1兆円台半ばを超えそうだ。財政投融資は3兆円台後半とし、交通網整備などに振り向ける。民間企業の支出分などを加えた事業費の合計は25兆円を超える見通しだ。
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2019年12月04日

台風19号被災長野市を視察 参院農水委
参院農林水産委員会は3日、台風19号の浸水被害を受けた長野市の果樹園地やJAの選果施設を視察し、農家らと意見交換した。被災農家は営農再開に向け、早急な泥の除去や資金対策などの支援を求めた。
与野党議員8人が長野市穂保地区の園地やJAながの長野平フルーツセンターなどを視察した。
地元の若手農家グループが要望を伝えた。浸水被害を受けた農地は、災害復旧事業の支援対象となるが、現状では泥の撤去作業が十分進んでいない実態を説明。リンゴ農家の小滝和宏さん(36)は防除のためのスピードスプレヤー(SS)も入れないことから、「来年3月下旬の薬剤散布時期がリミット。間に合わなければ木を切ることも考えなければいけない」と危機感を示した。
県庁では阿部守一知事が、果樹園に堆積した土砂の処分場確保が難しいことから、公共工事の盛土などに活用することを要望した。
同委員長の自民党の江島潔議員は「想像以上に広範囲で大きな被害に衝撃を受けた。現場の意見や要望は、委員会でしっかり検討して、政府に返していきたい」と述べた。
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2019年12月04日

ディスカバー農山漁村の宝 個人賞に上乗さん(石川)
政府は3日、地域の資源を活用し、活性化につなげている地区を表彰する第6回「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」のグランプリに、天然ワカメ商品などを手掛ける島根県大田市の魚の屋を選んだ。今回から選定方法を一新。地域で活躍する人材を表彰するために新設した「個人賞」には、子どもが里山の自然を体験できる環境づくりなどに携わる石川県能登町の上乗(じょうのり)秀雄さん(75)を選んだ。
団体・法人向けの表彰では、所得向上や雇用創出につなげている「ビジネス」、地域活性化に貢献する「コミュニティ」の2部門を新設。両部門からグランプリを選出した。
個人賞に選ばれた上乗さんは、故郷の里山を再開発し、子ども向けの自然体験村「ケロンの小さな村」を創設。さらに耕作放棄地を活用して生産した米を米粉にしてパンやピザに加工、販売し、大人の来場にも結び付けた。年間5000人が訪れる施設を作り上げ、地域のにぎわいづくりに貢献した点が評価された。
同日、首相官邸に選定地区を招き、グランプリなどを発表した。安倍晋三首相は「人の努力や活躍があって地域や日本が元気になる。地域だけでなく人の魅力にもスポットを当てて発信したい」、江藤拓農相は「今の農政は産業政策よりも地域政策が大事という議論が盛んにされるようになってきた。一緒に頑張っていきたい」と話した。
コミュニティ、ビジネス両部門では、準グランプリも選出した。受賞者は次の通り。
コミュニティ=北海道立遠別農業高校(北海道遠別町)▽上山市温泉クアオルト協議会(山形県上山市)
ビジネス=山上木工(北海道津別町)▽杉本製茶(静岡県島田市)
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2019年12月04日
日米協定参院委可決 牛肉SG、追加交渉分野 懸念拭えぬまま
日米貿易協定の承認案を巡る参院外交防衛委員会の審議が3日、終了したが牛肉セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)の発動基準数量の引き上げや、追加交渉での農産品の扱いなど、同協定が抱える多くの懸念事項は払拭(ふっしょく)されなかった。野党側が追及するも政府側は従来の答弁に終始。国会での議論は消化不良のまま、協定の発効へ最終局面に入る。
農産品で議論になったのは、SGの発動基準の見直しだ。協定の補足文書では、発動した場合、基準を一層高いものに調整する協議に入ることを明記。初年度の基準が2018年度の輸入実績よりも低くSGが発動しやすい半面、協議による基準引き上げの動向が焦点になっている。
立憲民主、国民民主など野党でつくる共同会派の舟山康江氏は「(日本側が)相当不利な書きぶりだ」、共産党の井上哲士氏も「極めて特例的な規定だ」と批判。協定発効後はSGが発動しても税率は発効前の38・5%にしか上がらないことを踏まえ、輸入抑制効果を疑問視した。
茂木敏充外相は、SGの発動について、輸入業者が発動基準をにらんで年度末に輸入量を調整すると見通し、「毎年そういう(発動する)ことが起きるとは想定していない」との認識を示した。内閣官房の渋谷和久政策調整統括官は「協議することは同意したが、先は予断していない」と従来の答弁を繰り返した。
日米が発効後4カ月以内に予備協議し、追加交渉の分野を決めるという規定も論点になった。政府は交渉でまとまらなかった自動車・同部品の関税撤廃期間を追加交渉で扱うと説明してきた。
舟山氏は「自動車の関税撤廃を獲得する時は、何も譲らないと約束すべきだ」とし、農産品などの一層の市場開放をしないよう強く求めた。
渋谷氏は「協定を誠実に履行することが米国にとって望ましい」と協定の基本的な在り方を述べるにとどまり、具体的な対象分野への言及は避けた。
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2019年12月04日
規制会議 スマート普及が重点
政府の規制改革推進会議は2日、当面審議する重点事項を決めた。農業分野は、スマート農業の普及に向けた環境整備などを盛り込んだ。これまで規制改革を求めてきた事項で、今後も進捗(しんちょく)状況を重点フォローする事項も決定。農協改革は、信用事業の健全な持続性確保へ代理店方式の活用推進を挙げ、農林中央金庫や信連、全共連の株式会社化は記述から外れた。……
2019年12月03日
低病原性鳥インフル アジアで発生続く 農水省、農家に警戒呼び掛け
愛媛県で野鳥のふんから今シーズン初めて、低病原性鳥インフルエンザウイルス(H7N7亜型)が確認された。韓国では既に、野鳥のふんからから同ウイルスの確認が相次ぐ。他のアジアの国では高病原性鳥インフルエンザも継続的に発生しており、警戒を強める必要がある。
韓国で10月以降、飼養鶏では低病原性鳥インフルエンザは発生していない。だが、野鳥のふんから同ウイルスが確認されたケースは15件に上る。11月中旬には日本に近い韓国南東部の慶尚南道でも確認された。ウイルスの型が不明の1件を除く14件が、日本とは異なるH5亜型。
他のアジア各国では、高病原性鳥インフルエンザの発生が続く。台湾では少なくとも17年以降は毎月、飼養鶏で発生。今年11月にはH5N5亜型とH5N2亜型が1件ずつ見つかった。インドネシア、ベトナム、ネパールでも継続的に発生している。
今季初の低病原性鳥インフルエンザウイルスの確認を受け、農水省は農家に警戒を呼び掛けている。農場では、野鳥などの野生動物が鶏舎に侵入しないよう、防鳥ネットなどの確認が必須。農場に入る車や人、モノの消毒の徹底も求められる。鳥インフルエンザは低病原性でも、飼養鶏で発生した場合には農場の全羽殺処分が必要となる。
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2019年12月02日