農業用ため池 防災へ補強工事を急げ
2019年11月17日
農業用水を確保するため池の防災工事がなかなか進まない。1カ月前の台風19号の豪雨でも決壊が発生し、住宅浸水をもたらした。補強工事を急ぐべきである。
ため池は全国で約16万7000カ所に上り、所有者らの情報がきちんと登録されているのは受益面積50アール以上で9万6000カ所にとどまる。7割は江戸時代以前に造られた。
多くは地元の水利組合や土地改良区、集落・農家などが管理しているが、農家の減少や高齢化から管理が行き届かず、堤の崩れや排水部の詰まりなどが指摘されている。昨年夏の西日本豪雨では2府4県で32カ所が決壊し、死傷者を出した。
政府は、今年4月にため池管理保全法を制定。都道府県に対して、警戒が必要な「特定農業用ため池」を指定し補強などを急ぐよう指導している。所有者や管理者は12月末までに県に届けを出す必要があるが、思い通りには進んでいない。
災害は待ってくれない。台風19号とその後の大雨で、127の農業用ため池が損傷し、12カ所が決壊した。幸い死傷者は出なかったが、近くの住宅が浸水被害を受けた。ため池の補強工事はこれからだった。
会計検査院はため池の耐久性を調査。豪雨を対象にした7860カ所のうち約5割で、対策工事の必要性が適切に判定されていないと指摘した。国は「200年に1回起きる洪水流量」に対応できる耐久性を求めていたが、「10年に1回起きる洪水流量」と緩い基準で判定していた県があった。地震への対応も甘い。同院は、耐震性を調査した3199カ所のうち142カ所が適切に判定されていないと指摘した。決壊時の下流域への影響が十分に検討されていないという。
会計検査院の指摘は、ため池管理保全法が成立する前のものだが、危機感の薄さを物語るものだ。ハザードマップすら作っていない市町村も多い。人的被害が頻発しているのに対応が鈍いと言わざるを得ない。農水省は指導を強めるべきだ。
2008年から10年間のため池被災は、7割が豪雨、3割が地震。一昨年夏の九州北部豪雨災害で大きな被害を受けた福岡県朝倉市では、市内にあるため池の1割が決壊した。耐久性を高め、洪水防止策を強めることは防災上欠かせないはずだ。利用する農業者も危機意識を向上させる必要がある。
農家が減る中で受益農家にかかる工事費用の負担が重く、改修工事の合意形成が容易ではないとの指摘がある。県からは「一気に補強するには財源も人も足りない。優先順位を決めて改修するしか方法がない」との声が上がっている。農水省の事業だけでは対応が難しいなら、政府全体で必要な財源を確保すべきだ。
命を守ることを最優先に、ため池の改修・補強工事を急がなければならない。
ため池は全国で約16万7000カ所に上り、所有者らの情報がきちんと登録されているのは受益面積50アール以上で9万6000カ所にとどまる。7割は江戸時代以前に造られた。
多くは地元の水利組合や土地改良区、集落・農家などが管理しているが、農家の減少や高齢化から管理が行き届かず、堤の崩れや排水部の詰まりなどが指摘されている。昨年夏の西日本豪雨では2府4県で32カ所が決壊し、死傷者を出した。
政府は、今年4月にため池管理保全法を制定。都道府県に対して、警戒が必要な「特定農業用ため池」を指定し補強などを急ぐよう指導している。所有者や管理者は12月末までに県に届けを出す必要があるが、思い通りには進んでいない。
災害は待ってくれない。台風19号とその後の大雨で、127の農業用ため池が損傷し、12カ所が決壊した。幸い死傷者は出なかったが、近くの住宅が浸水被害を受けた。ため池の補強工事はこれからだった。
会計検査院はため池の耐久性を調査。豪雨を対象にした7860カ所のうち約5割で、対策工事の必要性が適切に判定されていないと指摘した。国は「200年に1回起きる洪水流量」に対応できる耐久性を求めていたが、「10年に1回起きる洪水流量」と緩い基準で判定していた県があった。地震への対応も甘い。同院は、耐震性を調査した3199カ所のうち142カ所が適切に判定されていないと指摘した。決壊時の下流域への影響が十分に検討されていないという。
会計検査院の指摘は、ため池管理保全法が成立する前のものだが、危機感の薄さを物語るものだ。ハザードマップすら作っていない市町村も多い。人的被害が頻発しているのに対応が鈍いと言わざるを得ない。農水省は指導を強めるべきだ。
2008年から10年間のため池被災は、7割が豪雨、3割が地震。一昨年夏の九州北部豪雨災害で大きな被害を受けた福岡県朝倉市では、市内にあるため池の1割が決壊した。耐久性を高め、洪水防止策を強めることは防災上欠かせないはずだ。利用する農業者も危機意識を向上させる必要がある。
農家が減る中で受益農家にかかる工事費用の負担が重く、改修工事の合意形成が容易ではないとの指摘がある。県からは「一気に補強するには財源も人も足りない。優先順位を決めて改修するしか方法がない」との声が上がっている。農水省の事業だけでは対応が難しいなら、政府全体で必要な財源を確保すべきだ。
命を守ることを最優先に、ため池の改修・補強工事を急がなければならない。
おすすめ記事
現政権とは〈似て非なるもの〉だろう
現政権とは〈似て非なるもの〉だろう。句をたしなむ文化人でもあった。心に残るのは、首相退任時に詠んだ〈暮れてなほ命の限り蝉(せみ)しぐれ〉である▼中曽根康弘元首相は、功罪あるが戦後政治に大きな足跡を残した。小欄でも何度か取り上げ、5月29日付では衆参ダブル選も念頭に亥(い)年選挙と101歳の誕生日に触れた。それからちょうど半年後、11月29日の「議会開設記念日」に亡くなるとは、やはり政治の“申し子”だったのか。今につながる政治の源流で、官邸主導の礎を築く▼旧制静岡高校から東京帝大法学部、内務省とエリート街道を進み、海軍主計中尉として敗戦を迎える。一転して政治を志し戦後初の衆院選に28歳の若さで当選した。リーダーシップの根底には旧制高校時代の古典的教養があった。読書と思索を欠かさず文化人、学者らの幅広い見識を求めた▼親米路線、改憲、政治主導と中曽根、安倍両氏は一見似ているが中身と手法が違う。言い訳に終始する現政権とは異なり、中曽根氏は真っ向勝負の論戦こそ求めた。半面で農業面では両政権に大差はない。市場開放問題に直面し農協批判も表面化した▼今年の漢字一字は「令」に。改元を踏まえたこの1年を表す。きょうは正月事始め、すす払い。政治の“大掃除”も急がねば。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月13日

手造り赤ワイン塩 山梨県甲州市
山梨県甲州市が運営する「甲州市勝沼ぶどうの丘」が、市内で醸造された赤ワインを使って作った塩。施設内の売店で販売し「和食料理に合う」などと好評だ。
施設内の和食店の総料理長が赤ワインを鍋で煮詰め、塩と混ぜて造った手作り。料理に添えて提供したところ好評だったことから、商品化した。
商品は、赤紫色でほのかにワインの香りがする。天ぷらや白身魚・ステーキ料理に合う。同施設内でワイン塩と共に提供している昆布を使った「昆布塩」とセットで販売。各100グラム入りで、1セット700円。送料別途。
問い合わせは甲州市勝沼ぶどうの丘、(電)0553(44)2111。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月11日

花の水揚げ正確に 絵文字17種配送ラベルに印字 オークネット・アグリビジネスが開発
インターネットによる花き取引事業を展開するオークネット・アグリビジネスは、切り花の特性に適した水揚げ方法を示すピクトグラム(絵文字)を開発した。同社によると、花き業界では初の試み。商品の配送ラベルに印字し、ひと目で理解できるようにする。知識や経験を問わず、小売店の従業員が誰でも正しい水揚げができるようにし、消費者への長持ちする花の提供につなげる。
切り花に水を吸わせる水揚げは、品質維持に欠かせない工程。水や湯を使う、茎を割る・たたく・焼くなど、さまざまな方法がある。品目や品種、スプレイ咲きかスタンダード咲きかなど、商品ごとに方法も異なる。
同社は、衣服の洗濯表示マークに着想を得て、絵文字開発に着手。尾崎進社長は「正しい方法を分かりやすく伝えれば、誤った方法による商品ロスや、店員の教育負担も減る」と、ニーズを語る。
ひと目で方法を連想できる絵文字を、17種類作った。同社が扱う約140商品を対象とし、商品配送ラベルに印字する。同じく印字した2次元コード(QRコード)を読み取れば、湯揚げにかける時間、水揚げ後の水管理など、より詳しい情報を得られる。
千葉県の生花店「U・BIG花倶楽部(くらぶ)」は、絵文字を参考にブバルディアで水揚げを実験。従来は空切りしていたが、茎を焼いた上で湯に漬ける方法に変えた。「水の含み具合に差が出たためか、葉に張りが出た」と効果を実感する。
開発に当たり、札幌市で生花店「フルーロン花佳」を経営し、各地で品質管理の講習を開く薄木建友氏が監修を務めた。薄木氏は「農家も小売り側の水揚げの仕方が分かれば、出荷時の管理の参考になる」と、産地にも有益な情報となることを期待する。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月13日

Kura Gelate(クラ ジェラート) 宮城県大崎市
日本酒「宮寒梅」の醸造元である宮城県大崎市古川の合名会社、寒梅酒造が販売するオリジナルアイス。味は「古川いちごジェラート」「大吟醸酒粕(さけかす)ジェラート」「大吟醸酒粕&古川いちごジェラート」の3種類。同酒造の酒粕とJA古川いちご部会が生産した「古川いちご」を使用する。
商品開発をした同酒造の岩崎真奈さんは「古川にもおいしいイチゴがあることを知ってもらい、大人だけでなく、子どもにも喜んでもらえればうれしい」と話す。
1個(90ミリリットル)350円(税別)。同酒造で販売。全国発送もしている。問い合わせは合名会社寒梅酒造、(電)0229(26)2037。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月10日
JA事務効率化 デジタル化で職場改革
働き方改革が問われている。JAも企業と同様に、労働生産性と従業員満足度を高めていかなければ、経営の安定も意欲ある職員の確保も難しい。そのためにはまず、日常業務の効率化が必須だ。改善効果の高いロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を活用し、働きがいのある職場づくりを進めたい。
JA職員の仕事実態を見ると、紙と電話とファクスへの依存度が高い。これに対し企業の世界では、情報通信技術(ICT)を使った業務のデジタル化が急ピッチで進む。インターネット交流サイト(SNS)での従業員間の打ち合わせやネット会議は当たり前。パソコン事務の自動化、顧客データの活用、人工知能(AI)による業務改善にも積極的だ。このままではJAの職場はさながら「旧人類化」することが心配される。
業務のデジタル化に向けてやるべき課題は多いが、取り組みやすいのはRPAを使った効率化である。高齢の組合員が多いため、JAの業務は手書きの注文書でのやり取りが一般的だ。それを職員がパソコンで購買システムにデータ入力するが、繁忙期ではその作業に忙殺されるといったことが起こる。
こうした事務作業を軽減するのがRPAだ。手書きの注文書をスキャナーで読み取り、光学式文字読み取り装置(OCR)でデータ化する。これだけでも人力頼みの入力作業を大幅に効率化できる。データを使ってのさまざまなパソコン事務は、PRAを使えば自動化できる。
RPAは元々、ホワイトカラーの仕事を効率化するためのシステムである。データ入力以外にも、データの加工処理、正誤照合といった仕事で威力を発揮する。高度なプログラミングはできないが、やり方が決まっている定型業務、繰り返しの業務といった分野に向いている。
数年前にメガバンクの事務部門で活用が始まり、一般の企業でも広く導入が進む。JAでの普及は遅れていたが、JA山口県下関統括本部が2018年に始め、資材の予約注文の入力時間を8割削減するといった活用実績を上げた。現在、営農指導や信用渉外力の強化、内部統制の効率化など、幅広い業務の改善を目指すプロジェクトが稼働している。
メリットは事務効率化だけではない、同本部は生産部会の会員一人一人にその人だけの営農指導書を作成し、数字に基づく経営相談を実施。会員から喜ばれている。RPAで資料作成のプログラムを組み、営農指導員に負荷をかけずに作ることができる。資料作りに費やす時間を現場での営農指導の仕事に振り向けられることは、本人の意欲向上にもなる。働き方改革にまでつながった事例といえる。
国産のRPAなら、導入費用はさほど高くはない。同本部には全国各地のJAから視察が相次いでいる。横展開による意欲の高い職場づくりを期待する。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月12日
論説の新着記事
五輪Vブーケ採用 国産花き回復に生かせ
2020年東京五輪・パラリンピックでメダリストに贈呈する副賞に、国産花きを使用した花束「ビクトリーブーケ」の採用が正式に決まった。花きの消費量と国産のシェアを反転拡大させる契機にするべきだ。
五輪と花の関係は深い。12年のロンドン大会では大会専用のバラが育種されるなど、その国や開催地の花き文化を象徴する花を扱ってきた。日本では1998年冬季の長野大会で県産アルストロメリアなど多様な花を使い、大きな話題となった。
しかし16年のリオ大会以降、ブーケは姿を消している。同大会のテーマ「持続可能性」を受け、花きの日持ち性や検疫の面から国によっては選手が自国に持ち帰れないことが課題に挙がり除外された。18年冬季の平昌大会も同様の対応となった。
日本の花き業界はブーケ復活へ結束した。17年に生産や流通、販売に携わる団体などが日本花き振興協議会を設立。自民党フラワー産業議員連盟を通じ、政府や大会関係者への申し入れなどを行った。産地側も早い段階から対応に動いた。大会期間が夏場のため、高温下でも耐えることのできる花の栽培実験を各地で重ねた。ビクトリーブーケは業界の悲願だった。
花材は東日本大震災で被災した東北産を中心に使う。「復興五輪」を掲げた大会で、被災地復興の後押しに期待がかかる。ブーケのデザインはオリンピック用、パラリンピック用の2種類。福島産のトルコギキョウと岩手産のリンドウを共通の花材として採用する他、宮城産のヒマワリとバラを使い分け、計約5000束を用意する計画だ。
大会組織委員会はプレスセンターや競技会場などの装飾で、被災地以外の花の活用も検討している。盛り上がりを全国の産地に広げる視点が欠かせない。
国産切り花は高齢化など生産基盤に課題を抱える。18年の出荷量は35億3400万本と過去20年間で最低だった。一方、外国産は安さや安定供給で攻勢を強め、同年の輸入量は13億本強と、最多だった12年に次ぐ水準だ。国産のシェア低下が続く。
五輪は国産花きの魅力をアピールする絶好の機会になる。日本は、花きの高い育種・栽培技術を持つ。今回ブーケに採用されたヒマワリやトルコギキョウには、花粉が落ちないよう改良された日本独自の品種を使う予定だ。生け花などで育んだ装飾技術も発揮される。日本花き振興協議会の磯村信夫会長は「世界に誇る高い品質の花きを届けたい」と強調する。
夏場の花の品質維持は容易でない。産地から定温で輸送し、選手に渡すまで会場では保冷剤を添えて保管する。期間中の交通規制で物流の混乱も予想されるなど課題は多い。業界一丸で態勢を整えるべきだ。
機運の高まりを一過性にとどめてはいけない。課題への対応で連携をより強固にし、大会後の花き振興につなげ、停滞する生産や消費を盛り上げたい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月14日
集落営農の持続性 広域連携と再編が鍵に
JA全中が開いた全国集落営農サミットは、これまでで最高の140人が参加した。存続の岐路に立つ集落営農組織の危機感を反映したものだろう。同サミットでの先進事例に学び、持続可能な地域農業確立へ広域連携と組織再編を急ぐべきだ。
第4回となる同サミットのキーワードは「広域化」「連携」「再編」の三つだ。総活役を務めた広島大学大学院の小林元助教は「生産基盤が大きく揺らいでいる。集落営農はあくまで手段。持続可能な地域に向け、今こそ知恵を絞る時だ」と強調する。JAグループは、今春の第28回JA全国大会で「集落営農組織間の広域連携、再編などによる規模拡大を支援する」と決議した。背景には、高齢化が進む中で地域農業の地盤沈下に歯止めがかからない実態がある。集落営農は「地域丸ごと」で農業を支える仕組みだ。だが、今の経営単位では存続が難しくなっている。
同サミットを肱岡弘典全中常務は「高齢化が進む中で集落営農組織は構造的課題を抱えている。米価変動リスクも高まる中で、情報交換を通じ今後の組織の在り方を考える大きな契機だ」と位置付ける。関係者に改めて衝撃を与えたのは、日本農業新聞の1面連載「ゆらぐ基 危機のシグナル」の10月4日付「集落営農の解散」だ。採算が悪化し集落営農組織の解散が増えている。今年2月現在の集落営農数は約1万5000で、前年より1%減った。組織が倒れたら、引き受けた農地が耕作放棄地になりかねない。
同サミットで発表された事例は、広域化、組織合併、あるいは地元JAと連携し別組織で試練に対応した。1集落単位では採算が取れず、コスト低減にも限界がある。最も深刻なのは、高齢化が進み、組織のリーダーやオペレーターの人材不足だ。
広島県東広島市高屋町の農事組合法人重兼農場は世代交代を一気に進め持続可能な集落営農を実践する先進事例と言えよう。同農場は設立から30年。発足時に生まれた30歳の山崎拓人さんが組合長を務める。前組合長は79歳。世代交代は、地域農業を守り次代につなぐ組織を最優先した結果だ。さらに個人―集落営農―共同組織の「3階建て」から成る広域連携の仕組みを作った。昨年、同農場を含めた地域内の5集落営農組織と地元JAで共同出資会社・ファームサポート広島中央を設立。その結果、より広域な農作業受託が可能となり、市内全域の農地維持が進む。
中山間地の岐阜県白川町にある農事組合法人ファーム佐見は3組織を合併した全国でも珍しい事例だ。組合員の意思統一や合併手続きでの曲折などは、再編による今後の新組織立ち上げの大きな参考になる。
今、重要なのは集落間連携による集落営農の新たな展開である。先進事例を参考に、地域の身の丈、サイズに合った地域農業の再生に知恵を絞りたい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月13日
JA事務効率化 デジタル化で職場改革
働き方改革が問われている。JAも企業と同様に、労働生産性と従業員満足度を高めていかなければ、経営の安定も意欲ある職員の確保も難しい。そのためにはまず、日常業務の効率化が必須だ。改善効果の高いロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を活用し、働きがいのある職場づくりを進めたい。
JA職員の仕事実態を見ると、紙と電話とファクスへの依存度が高い。これに対し企業の世界では、情報通信技術(ICT)を使った業務のデジタル化が急ピッチで進む。インターネット交流サイト(SNS)での従業員間の打ち合わせやネット会議は当たり前。パソコン事務の自動化、顧客データの活用、人工知能(AI)による業務改善にも積極的だ。このままではJAの職場はさながら「旧人類化」することが心配される。
業務のデジタル化に向けてやるべき課題は多いが、取り組みやすいのはRPAを使った効率化である。高齢の組合員が多いため、JAの業務は手書きの注文書でのやり取りが一般的だ。それを職員がパソコンで購買システムにデータ入力するが、繁忙期ではその作業に忙殺されるといったことが起こる。
こうした事務作業を軽減するのがRPAだ。手書きの注文書をスキャナーで読み取り、光学式文字読み取り装置(OCR)でデータ化する。これだけでも人力頼みの入力作業を大幅に効率化できる。データを使ってのさまざまなパソコン事務は、PRAを使えば自動化できる。
RPAは元々、ホワイトカラーの仕事を効率化するためのシステムである。データ入力以外にも、データの加工処理、正誤照合といった仕事で威力を発揮する。高度なプログラミングはできないが、やり方が決まっている定型業務、繰り返しの業務といった分野に向いている。
数年前にメガバンクの事務部門で活用が始まり、一般の企業でも広く導入が進む。JAでの普及は遅れていたが、JA山口県下関統括本部が2018年に始め、資材の予約注文の入力時間を8割削減するといった活用実績を上げた。現在、営農指導や信用渉外力の強化、内部統制の効率化など、幅広い業務の改善を目指すプロジェクトが稼働している。
メリットは事務効率化だけではない、同本部は生産部会の会員一人一人にその人だけの営農指導書を作成し、数字に基づく経営相談を実施。会員から喜ばれている。RPAで資料作成のプログラムを組み、営農指導員に負荷をかけずに作ることができる。資料作りに費やす時間を現場での営農指導の仕事に振り向けられることは、本人の意欲向上にもなる。働き方改革にまでつながった事例といえる。
国産のRPAなら、導入費用はさほど高くはない。同本部には全国各地のJAから視察が相次いでいる。横展開による意欲の高い職場づくりを期待する。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月12日
農村政策の再構築 農水省は司令塔役 担え
農山村を支援する研究者や実務家らでつくるNPO法人中山間地域フォーラムが、新たな食料・農業・農村基本計画への提言を農水省に提出した。農村の振興には生産面、生活面などの政策を総合的に推進する必要があるとして、同省に政府全体の司令塔となるよう提起した。その本気度が問われている。
提言は「総合的な農村政策の再構築を!」との名称だ。農村政策として農水省は、中山間地域直接支払いなどを実施。それらは、農業の多面的機能を発揮するために農地や水路、農道などを維持する資源管理政策になっていると分析した。しかし、中山間地域を中心に活動を担う農家や住民らが減少している。
そこで提言は、農業経営が成り立ち地域社会が持続してこそ同機能は発揮されると指摘。農村、特に中山間地域の今後の姿として①地域特性ごとに、どんな農業経営や農業と他の仕事との組み合わせで経営体として生き残れるか②移住者や農家以外の人と共に、地域経済と持続可能なコミュニティーをどうやって維持できるか――ビジョンを示すよう農水省に求めた。その上で、生きがいを持って仕事を続け、必要な所得を得て、安心して住み続けられるようにする総合的な政策の構想と体系化、府省の連携促進を訴えている。
農水省の「農村地域人口と農業集落の将来予測結果」によると、山間農業地域では2045年までの30年間に人口が半減し、過半が65歳以上の高齢者になる。また、約14万の農業集落のうち存続が危惧されるのが同年は約1万集落になり、9割近くを中山間地域が占める。
各府省が農村政策に取り組むが、施策が「バラバラに行われている」(提言)。生活サービスや地域活動の場を小学校区などを単位にまとめ暮らしを支える小さな拠点や、住民を中心に地域の課題解決に取り組む地域運営組織、過疎地などに都会から移住して地域活性化に携わる地域おこし協力隊など他府省の施策も、農業・農村振興の観点での再編成が必要だろう。
食料・農業・農村基本法は、「農村の総合的な振興」のために農業生産の基盤と生活環境の整備などを総合的に推進するよう国が必要な施策を講ずると定める。そして農水省設置法で総合的な政策の企画・立案・推進を同省の役割と規定。提言は、同省に「リーダーシップを発揮し、積極的な役割をはたすべき」とし、その姿勢を基本計画で明らかにするよう迫る。
農水省は、まず農村の実態把握と分析で政府内でのリーダーシップを取ると表明している。しかし農村振興は待ったなし。府省横断での政策立案や、現場での使い勝手をよくする仕組み作りまで踏み込むよう求める。
基本計画は閣議決定し政府全体の方針になる。今国会で農林水産物・食品輸出促進法が成立し、政府の司令塔組織を農水省に創設する。農村政策でもその役割を同計画に明記すべきだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月11日
ヨーグルト減速 多様な効能 消費反転へ
乳酸菌などの機能性と健康効果が広く知られ、急成長を続けてきたヨーグルトの消費がこの2、3年減っている。機能性をうたう食品が数多く登場し、需要の一部が流れているためだ。酪農振興のためにも、業界ぐるみでヨーグルトの多様な効能をアピールし、消費の定着と拡大につなげるべきだ。
ヨーグルトの生産量は、この10年で1・4倍以上に拡大した。乳業メーカーの推計では、ピーク時の2016年の市場規模は4000億円を超えた。総務省の家計調査(2人以上世帯)でも同年までは右肩上がりで、年間支出額は1万3495円と09年より6割以上増えた。
急成長の最大の要因は、乳酸菌やビフィズス菌の機能性と健康効果が広く知られたことだ。手軽なドリンクタイプが増えて消費増を後押しした。だが、市場規模は17年から減少に転じ、17、18年はいずれも前年比2%減。家計調査でも18年の支出額は1万3203円となった。
なぜ消費が頭打ちになったのか。機能性や健康効果をうたう食品が増えたためだ。同じ乳製品でも高い栄養価を売りにチーズが消費を伸ばした。乳酸菌市場で消費者の選択の幅も広がった。非乳業の大手食品メーカーも乳酸菌に注目し、飲料や菓子など乳製品以外の売り場に乳酸菌入り商品が増えた。
ヨーグルト消費の後退を食い止め、再び伸ばすことは可能だろう。この間、業界ぐるみで「人の健康に有益に働く生きた微生物(=プロバイオティクス)」の役割を広く発信し、腸内環境を「善玉菌」で整えることや、「腸活」の考え方を定着させてきた。健康管理の新たな知識を消費者に浸透させたのは画期的であり、ヨーグルト消費の土台をつくった。
民間調査会社の富士経済は乳酸菌・ビフィズス菌含有食品市場とのくくりで市場規模をまとめた。ヨーグルト消費が減少しても右肩上がりで、16年度の7400億円から18年度は7800億円に増加。20年度には8000億円に達する有望市場と捉える。その中にはヨーグルト以外の食品も含まれるが、腸活につながる消費行動が今後も活発化する可能性を示している。
大手乳業メーカーのヨーグルトの新たな提案にも注目したい。ビフィズス菌の効果を訴えるため森永乳業は、製薬会社や、大腸で同菌の餌となる水溶性食物繊維の製造会社と共同で「大腸活」の情報発信を始めた。雪印メグミルクは、目や鼻のアレルギー反応を緩和する「乳酸菌ヘルベ」入りヨーグルトを来年1月に発売する。機能性タイプで市場をけん引してきた乳業最大手の明治は、低カロリーのヨーグルトに商機を見る。
原料は近年、脱脂粉乳から風味の良い脱脂濃縮乳に移りつつある。だがパンや飲料など他の食品にも使われ需要に供給が追い付かない。ヨーグルト市場を拡大し酪農振興につなげるには、生乳の増産対策が不可欠だ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月10日
規模拡大に限界感 家族農業 生かす政策を
担い手の規模拡大に限界感が見え始めている。生産基盤を維持していく上で憂慮すべき事態だ。担い手の規模拡大によって農地を守るシナリオを描いてきた農政の再検討が欠かせない。多様な担い手として家族農業の育成方向を明確にするとともに、実態にそぐわない農地集積目標なども見直しが必要だ。
食料・農業・農村基本計画の見直し論議で、家族農業や中小規模農家への支援強化を求める声が広がっている。JAグループは政策提案の中で、基幹的農業従事者や農業法人だけでなく、多様な農業経営が持続的に維持・発展できる政策を強く求めた。与党からも「家族農業、中小農家を支えることが重要」「地域を守る家族農業の将来像もしっかり示すべきだ」などの意見が相次ぐ。
家族農業の現状は、2019年は経営体数115万で、この5年間に2割近い28万以上が減った。恐ろしい減少スピードであるにもかかわらず、いまの農政の中で家族農業は位置付けを落としている。
05年の基本計画と併せて策定された「農業構造の展望」では、担い手になり得る効率的で安定的な家族経営を10年後までに33万~37万戸育てる青写真を描いていた。民主党政権時代の10年の構造展望では「家族農業経営の活性化」を柱として打ち立て、販売農家の減少にブレーキをかける考えを示した。しかし政策効果は表れず、15年の現行構造展望には家族農業の記述すらなくなった。
家族農業軽視は、いまの農政が産業政策に過度にシフトしたことによる。担い手育成の政策目標として、農地利用の集積率を10年間に5割から8割に引き上げることを掲げたが、これは従来の集積スピードを一気に1・5倍に引き上げるというもの。だが現実は、中間年に当たる18年は56%にとどまった。利用が低調な農地中間管理機構(農地集積バンク)をてこ入れする法改正はしたものの、実現はほぼ不可能といっていい。
もはや、集積目標自体が妥当か考え直す時だろう。「構造政策が進み過ぎ、畦畔(けいはん)管理などが担い手の負担になっている」「農地を頼まれても、これ以上は増やせない」といった声が既に上がっている。この状況で無理に集積を加速すれば、担い手は受け止め切れず農地の遊休化につながる恐れすらある。受け手のない農地があふれないよう、中小規模の農家の離農をできるだけ食い止めることが先決だ。
家族農業を重視する流れは、国連が定めた「家族農業の10年」とも通じる。グローバリゼーションが進み、飢餓撲滅や食料安全保障の確保といった国際的な目標の実現に不安が増してきたことを受けた動きである。食料自給率が37%にとどまる日本にとってこそ切実な問題だ。国民の食を守るためにも、国内の生産基盤を支えてきた家族農業の支援策が強く求められる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月08日
日米協定の宿題 不安除く責任 国会にも
日米貿易協定の元日発効が確実になった。大型自由貿易協定(メガFTA)によるかつてない自由化との闘いを農家は迫られている。臨時国会は9日が会期末だが、政府と国会が責任を果すのはこれからだ。通常国会が来月にも始まる。十分な国内対策をはじめ農家の不安払拭(ふっしょく)へ熟議を求める。
議論が深まらないまま国会は日米協定を承認した。審議時間が短過ぎた。その上、環太平洋連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)も合わせた農林水産品の影響試算など、野党の資料請求に政府・与党は応じなかった。政府の答弁も踏み込み不足が目立った。所信表明演説で安倍晋三首相は「農家の皆さんの不安にもしっかり向き合う」と述べた。政府・国会ともに、不安払拭策は「継続審議」になったと認識すべきだ。
不安払拭はまず国内対策にかかっている。政府はTPP等関連政策大綱を改定し、大小問わず意欲的な農家を支援する方針を示した。対策費3250億円を盛り込んだ今年度補正予算案も決めた。予算規模を含め、同演説で首相が約束した「生産基盤の強化など十分な対策」になっているか。その検証は、日米協定を承認した国会の責務だ。
日米協定とTPPを合わせた農林水産物の生産減少額を政府は最大2000億円と試算。国内対策で農業所得と生産量が減らないことが前提だ。なら、対策は最低でも所得などを維持できる内容でなければならない。そうなる理由の説明責任もある。
国内対策には食料自給率向上の観点も必要だ。45%の目標を盛り込んだ食料・農業・農村基本計画は閣議決定しており、目標達成に必要な生産基盤の確保は政府の責務である。来年度当初予算案を含めて検討が必要だ。来年3月の閣議決定を予定している新たな基本計画も、メガFTA時代に、日本の農業・農村の持続的発展をどのようにして確保し、自給率を向上させるかが問われる。
国内対策が十分かを検証するには適正な影響試算が必要だ。政府は野党が要求した資料を作り示すべきだ。対策を前提に試算をするのは逆立ちした論理である。国の財政は厳しい。生産がこれだけ減るから、それを防ぎ、さらに自給率を引き上げるにはこうした対策が必要だ。こうした分かりやすい筋立ての方が、国民の理解も得られる。
国内対策を抜いた日米協定の試算を東京大学大学院の鈴木宣弘教授が行い、参考人とし国会で説明。価格が下がれば生産も減るとして、農産物の生産額が9500億円程度減少する可能性を示した。参考にすべきだ。
米国は追加交渉の予備協議に来年早々に入ると表明した。対象について政府の国会答弁は「農産品は想定していない」にとどまる。自由化が一層進むのではないかと農家は不安だ。払拭のために、農業を対象にするよう米国から要求されても「断固拒否する」と明言すべきだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月07日
ラグビー菊池寛賞 ワンチームに学び改革
ラグビー・ワールドカップ(W杯)でベスト8に輝いた日本代表チームが菊池寛賞を受賞した。日本代表の活躍は、改めて「ワンチーム」で組織が一丸となれば難局を突破できる勇気を国民に与えた。JA自己改革などでも参考にできる「スクラム型組織論」を学びたい。
菊池寛賞は、文化活動で創造的業績を上げた個人、団体に贈る。6日の贈呈式で日本代表も表彰される。受賞理由は、ワンチームで強豪国を破る姿が「日本中に勇気を与えた」ことだ。果敢なタックルで立ち向かい、スピードを生かし得点を重ねる姿に感銘を受けた。停滞感が覆う日本人に「前を向く」大切さをも示した。
同賞は昨年、ユーミンこと松任谷由実さんが受賞し話題となった。「日本人の新たな心象風景をつくった」ことが評価された。代表曲の一つ「ノーサイド」は、全国高校ラグビー決勝での激戦を題材にした。この中に〈何をゴールに決めて 何を犠牲にしたの 誰も知らず〉の歌詞がある。今回の日本代表からも「多くの事を犠牲にしラグビーに打ち込んできた」の言葉が何度も出た。同賞とユーミンとラグビーの結び付きを思う。
ラグビーの持つ戦術と精神に学ぶものが多い。象徴的な用語は、流行語大賞に選ばれた「ワンチーム」と「スクラム」「ノーサイド」。加えて日本代表には三つの“わ”があった。「和」「話」「輪」だ。チームの和を最も尊び、相互理解する話し合いを深め、大きな輪となり、相手を打ち砕く塊となる。
JA改革にも共通する。例えば、経済事業改革を進めるJA全農の新3カ年計画のスローガン「全力結集で挑戦し、未来を創る」はラグビーの勝利の方程式でもあろう。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」の精神は、協同組合の相互扶助、助け合いとも重なる。
組織には野球型とラグビー型の二つがあるという。野球型はトップが人を駒として動かす。監督が試合中にも指示を欠かさない。いわば上意下達の仕組み。一方で、ラグビー型は統一した明確な戦術の下に個々が考えて臨機応変に動く。今は先が読めない不確実性の時代で、ラグビーの戦術を今後の組織戦略に生かす経営トップも多い。違った専門性を持つ社員が力を合わせる「スクラム型組織」こそ、難局打開の突破口を開くとの考えからだ。日本代表のうち外国出身者は半数近い。「多様性」を弱点でなく強さに変え、勝ち抜くのも「スクラム型組織」の特色と言えよう。
経済界トップに加え政治家、農業界にもラガーマン出身が存在感を持つ。強い責任感、自己犠牲、耐え抜く精神力、勝利へのこだわり。底流には、思いを一つにしてみんなで努力すれば巨象をも倒せるとの「ワンチーム」への信念と確信がある。今回の日本代表の菊池寛賞受賞の意味を、JA改革断行にも役立てたい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月06日
国際植物防疫年 日本の指導力発揮 期待
2020年は国連が定めた国際植物防疫年(IYPH)。病害虫や雑草の対策が重要だとの認識を、世界的に高める機会となる。優れた技術・対策を持つ日本が国際的なリーダーシップを取るべきだ。東京五輪・パラリンピックで日本への侵入リスクが高まる。市民を巻き込み水際対策も強化したい。
国境を越えて侵入する病害虫は食料安全保障にとって脅威だ。水稲に吸汁被害を与えるトビイロウンカが今年、西日本を中心に記録的な発生となった。米の作況指数(10月15日現在)は九州が「87」、四国と沖縄が「94」、中国が「97」だった。
また、飼料用トウモロコシなどを加害するツマジロクサヨトウは、7月に国内で初めて確認されてから農場での発生が瞬く間に21府県に拡大した。地球温暖化の影響で定着する恐れがあり、生産現場では農家らが懸命の防除対策を進める。
来年は東京五輪・パラリンピックが開催される。病害虫は人や物の移動でも侵入する。植物検疫の重要性を市民に訴え、土付きの植物を持ち込まないなど水際対策への協力を得たい。
IYPHの根底には、持続可能な開発目標(SDGs)である飢餓や貧困の解消、環境の保護、経済発展に、病害虫のまん延防止は欠かせないとの考えがある。ニューヨークとローマでの年末のキックオフセレモニーを皮切りに、来年の閣僚会合や国際シンポジウムなどを通じ、市民や政治家、行政の担当者、企業の社員らに理解を広げる。
IYPHでの国際的なリーダーシップの発揮には、20カ国・地域(G20)の会合との関連で茨城県つくば市で11月に開かれた、病害虫研究者による二つの国際会合の経験が生きる。
市民も参加した国際農林水産業研究センター(国際農研)のシンポジウムでは、講演やパネルディスカッションを通じ、各国が連携して対策・研究に当たることが重要だとの認識で一致した。SDGsの達成や食料安保につながることも確認した。
専門研究者らが中心の農水省主催のワークショップでは、かんきつグリーニング病など八つの病害虫について研究成果や防除方法を共有。今後の研究連携の在り方を話し合った。海外の研究者らは、日本の植物防疫の仕組みやミバエを撲滅した経験などに強い関心を示していた。
二つの会合ともに、日本の研究者らが開催国として議論をリード。防除対策や研究成果の共有、研究者のネットワークづくり、国際的な研究連携の進め方などで成果を得た。
その成果を生かし日本は国際的な行動を起こすべきだ。診断技術や疫学調査、越境防止措置、予防・防除技術を提供したり、研究連携の輪を広げたり、国際的な監視体制を強化したりすることで、持続的な食料生産に貢献できる。病害虫のまん延防止への協力は越境性病害虫の国内への侵入を防ぐことになり、食料安保にもつながる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月05日
多面的機能の維持 中山間守る国民論議を
食料・農業・農村基本計画の見直し検討が進んでいる。生産基盤の再建に向け、政府は担い手の農地集積や規模拡大に力を入れる。平場より生産性は劣るが、中山間地域の総土地面積は7割で農業産出額や農家数の割合は4割。同地域をどう守るか、国民的な議論を深めるべきだ。
日本農業新聞は10月、企画「ゆらぐ基(もとい)~危機のシグナル」と題し生産基盤の実態を追った。日本棚田百選に選ばれる宮崎県の集落が、棚田オーナー制度などで集落外の住民との交流に力を入れるものの存続の危機に直面している事例や、農地の受け皿となってきた集落営農組織が解散に追い込まれたことなどを取り上げた。
厳しい状況は数字からも読み取れる。農水省が行う2018年度の中山間地域等直接支払いの交付面積は約66万4000ヘクタール。14年度に過去最大の約68万7000ヘクタールに達したが、伸び悩んでいる。農業・農村を支えてきた団塊世代の高齢化や人口減少の中で、国民全体で守る仕組み作りは待ったなしの課題だ。
農水省は、農業・農村の多面的機能や棚田に対する国民の意向調査をまとめた。同機能で重要な役割を複数回答で聞いたところ、「雨水を一時的にためて洪水を防ぐ」(57%)「作物や水田にためられた水が土砂の流出を防ぐ」(37%)「日々の作業を通じて土砂崩れを防ぐ」(36%)といった治水・治山機能の評価が高い。また「棚田を将来に残したいか」を尋ねたところ、8割が残したいと答えた。理由は「澄んだ空気や水、四季の変化などが癒やしと安らぎをもたらす」「農地や農作物などがきれいな景色を作る」がいずれも37%と最も多かった。
一方で、「棚田の維持や保全のために何かしたいか」との問いに「したいと思わない」が34%。また「棚田を残したいか」について「荒れてしまうのは仕方がない」(19%)、「棚田がすべてなくなっても構わない」(6%)という回答もあった。
治水・治山や癒やしなどの多面的機能は国民にこそ多くの恩恵をもたらしている。農業・農村の役割と魅力について、国民理解をもっと広げる必要がある。
現行の基本計画は、担い手を中心とした産業政策と地域政策を車の両輪と位置付け、魅力ある農村づくりの取り組みには、規模や経営形態の異なる農業者、地域住民、農村外の人材などの幅広い参画が重要だと指摘する。しかし、農村の疲弊を訴える現場の声は強まっている。
最初の基本計画は20世紀最後の年に策定された。10年間を見通した同計画の5年ごとの見直しは「食料や農業・農村について消費者や自治体を含め、さまざまな階層が参加して議論する場で、20世紀農政から受け取った宝物」(小田切徳美明治大学教授)と言える。基本計画見直し検討への幅広い層の参画により、外部人材も含めた多様な担い手で農業・農村を支える実効ある政策を作る必要がある。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年12月04日