検証・首相在任最長 長きが故の弊害ただす
2019年11月19日
安倍晋三首相の通算在任日数が19日、憲政史上最長に並んだ。長期政権は安定の証しだろう。問われるべきは、何を成し得たかだ。とりわけ農政は激変した。農産物総自由化、生産基盤弱体化の前で、「農は国の基」と言う首相の言葉は実体を伴っているか。改めて首相の目指す国家像と政治手法をただす。
安倍首相の国家観には二つの大きな柱がある。一つは、「戦後レジームからの脱却」に代表される戦後体制の総決算路線。自民党の党是であり自らの宿願である憲法改正を実現し、「美しい国」づくりを目指す。歴史修正主義や復古的な国家観との批判もあるが、保守層の支持を得てきた。もう一つは、日米同盟を基軸とし、軍事・経済両面で国際社会での日本の存在感を高めることである。
伝統的な国家観に立ちながら経済面は、「世界で一番ビジネスがしやすい国」づくりを掲げ、新自由主義的な市場経済、規制改革を押し進めてきた。次々と国民受けする課題を設定し、政権の推進力とした。「アベノミクス」「新3本の矢」「一億総活躍社会」「女性が輝く社会」「介護離職ゼロ」「働き方改革」などのスローガンを乱発。一定に成果もあるが「やっている感」も否めない。
円安株高で大企業が潤う半面、非正規雇用は4割を占め格差の固定化は進んだ。異次元金融緩和の副作用も深刻で、景気は後退局面にある。修復困難な日韓の亀裂、膠着(こうちゃく)状態の日ロ平和条約交渉など外交面も行き詰まる。日米貿易協定は日本農業の犠牲の上に成り立つ不平等な条約となった。
誇るべきは政権の長さではない。「権腐10年」という。絶対的権力は絶対に腐敗する。安倍政権もその伝を地でいくかのような「おごりと緩み」が目立つ。数々の閣僚の不祥事・辞任、自らの関与も取り沙汰された「森友・加計問題」、公文書の改ざん・隠蔽(いんぺい)。今また政府の公的行事「桜を見る会」を巡る首相の私的利用疑惑などで、説明責任に追われている。
閣僚の「政治とカネ」の問題や自身の健康問題で、短命に終わった第1次内閣の反省から、政権に返り咲いた2012年以降は徹底した危機管理を敷き、統治改革を断行した。中央官庁幹部の人事権を内閣人事局で一元的に管理。国政選挙6連勝という力を源泉に自民党内も掌握し、「安倍1強」の「官邸主導」を進めてきた。その舞台回しが直轄の規制改革推進会議などで、農業・農協を岩盤規制に見立て、今なお改革の手を緩めていない。
問題はこうした手法が、政治的「忖度(そんたく)」の温床となり、議員内閣制の形骸化を招いたことだ。為政者の倫理の欠如と無責任体制も目に余る。言論を封殺するかのような社会風潮まで生まれている。「政治は結果」だと首相は言う。誰のための政治かを改めて問う。国民もまた試されている。
安倍首相の国家観には二つの大きな柱がある。一つは、「戦後レジームからの脱却」に代表される戦後体制の総決算路線。自民党の党是であり自らの宿願である憲法改正を実現し、「美しい国」づくりを目指す。歴史修正主義や復古的な国家観との批判もあるが、保守層の支持を得てきた。もう一つは、日米同盟を基軸とし、軍事・経済両面で国際社会での日本の存在感を高めることである。
伝統的な国家観に立ちながら経済面は、「世界で一番ビジネスがしやすい国」づくりを掲げ、新自由主義的な市場経済、規制改革を押し進めてきた。次々と国民受けする課題を設定し、政権の推進力とした。「アベノミクス」「新3本の矢」「一億総活躍社会」「女性が輝く社会」「介護離職ゼロ」「働き方改革」などのスローガンを乱発。一定に成果もあるが「やっている感」も否めない。
円安株高で大企業が潤う半面、非正規雇用は4割を占め格差の固定化は進んだ。異次元金融緩和の副作用も深刻で、景気は後退局面にある。修復困難な日韓の亀裂、膠着(こうちゃく)状態の日ロ平和条約交渉など外交面も行き詰まる。日米貿易協定は日本農業の犠牲の上に成り立つ不平等な条約となった。
誇るべきは政権の長さではない。「権腐10年」という。絶対的権力は絶対に腐敗する。安倍政権もその伝を地でいくかのような「おごりと緩み」が目立つ。数々の閣僚の不祥事・辞任、自らの関与も取り沙汰された「森友・加計問題」、公文書の改ざん・隠蔽(いんぺい)。今また政府の公的行事「桜を見る会」を巡る首相の私的利用疑惑などで、説明責任に追われている。
閣僚の「政治とカネ」の問題や自身の健康問題で、短命に終わった第1次内閣の反省から、政権に返り咲いた2012年以降は徹底した危機管理を敷き、統治改革を断行した。中央官庁幹部の人事権を内閣人事局で一元的に管理。国政選挙6連勝という力を源泉に自民党内も掌握し、「安倍1強」の「官邸主導」を進めてきた。その舞台回しが直轄の規制改革推進会議などで、農業・農協を岩盤規制に見立て、今なお改革の手を緩めていない。
問題はこうした手法が、政治的「忖度(そんたく)」の温床となり、議員内閣制の形骸化を招いたことだ。為政者の倫理の欠如と無責任体制も目に余る。言論を封殺するかのような社会風潮まで生まれている。「政治は結果」だと首相は言う。誰のための政治かを改めて問う。国民もまた試されている。
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コスト増、人材不足、日米交渉… 生乳生産不安尽きず 畜酪対策 来週ヤマ場
2020年度の畜産・酪農対策を巡る政府・与党の協議が来週、ヤマ場を迎える。都府県は生乳生産の減少に歯止めがかからない一方、北海道は増産意欲は高いが、コスト増や人材確保などの課題があり、日米貿易交渉など将来への不安も尽きない。生産基盤強化に向け、規模拡大や家族経営の維持など多様な担い手が将来に安心して生産できる体制を求める声が強まっている。
生乳生産量は、北海道は増産基調だが、都府県は前年割れが続く。課題の一つが農家戸数の減少が続く都府県酪農だ。
栃木県大田原市で、育成牛含めたホルスタイン66頭を家族3人で飼養する藤田義弘さん(43)は「乳価は上がったが、消費増税で相殺され、経営は改善していない」と訴える。課題として挙げるのは人手の確保。毎月の休みは3日で休む時は酪農ヘルパーに頼むが、来てくれないときもあるためヘルパーの人材確保を強く求める。
藤田さんが就農した20年前の市内の酪農家は約90戸だったが、現在は約70戸。戸数減に歯止めをかけるため「現状の規模や労働力でも経営が維持できる対策にも力を入れてほしい」と家族酪農が続けられる対策の充実を求める。
「クラスター」要件厳し過ぎ
北海道頼みの生乳生産だが、道内の生産基盤も盤石ではない。酪農家は減り、規模拡大で生産量を維持、拡大している状況でコスト増が課題だ。
士幌町で乳牛380頭を育てる川口太一さん(56)は、牛舎の増築費用に頭を悩ませる。現在の搾乳牛200頭を約260頭に増やしたいが、増築費は資材費や人件費の高騰で「10年前に牛舎を作った時より、2倍以上(3500万~4000万円)かかる」と話す。畜産クラスター事業を活用したいが、建築基準などの要件が厳しく適用が難しいという。このため、同事業の要件緩和を求める。
コストが高くなりがちな冬の施工を防ぐため、十分な工期を確保できる仕組みも提案。同事業本来の狙いである畜産関係事業者が連携・集結し、地域ぐるみで高収益型の畜産を目指す体制整備も重要と話す。「産地としての責任を果たすため経営主になって以来、増頭してきた。少しでも事業を使いやすくしてほしい」と強調する。現在はパート1人、中国人技能実習生3人で経営しており、将来の雇用確保も懸念している。
中小・家族経営守る政策必要
酪農の規模拡大が進む中、新たな課題が広がる。「増頭で、ふん尿処理に困っている」「酪農ヘルパーなどの人材確保の対策を続けてほしい」──。11月30日、12月1日に釧路市や幕別町、網走市を視察した自民党畜産・酪農対策委員会の委員に、各地区のJA組合長が訴えた。「中小規模・家族経営基盤の維持強化に向け、省力化などの支援を続けてほしい」といった声も目立つ。酪農家が減少する中で規模拡大一辺倒ではなく、中小規模や家族経営を守るという意識も高まっている。
JAグループ北海道は畜産クラスター事業では計画的に投資できるように全ての事業の基金化を求める。加工原料乳生産者補給金は再生産可能な水準、集送乳調整金は指定団体が機能発揮できる水準を求めている。
生産減、離農止まらず
全国の生乳生産量は減少傾向にあり、農水省によると2018年度は728万9227トンと、5年前から2・9%減。特に都府県で減り続けている。牛乳・乳製品の需要は堅調だが、生産量が伸び悩み自給率は低下。同年度はカロリーベースで25%にとどまった。
酪農家戸数はこの10年、前年比4%前後の減少が毎年続く。大規模化や牛1頭当たりの乳量の伸びで、生乳生産の下落をカバーしている。
JAグループは、中小規模の家族経営などの離農が止まらないことが生産基盤の弱体化につながっていると指摘。大規模農家を、引き続き生産基盤の維持・拡大をリードする存在と位置付ける一方、「多様な生産者」の生産基盤の強化を重視する考えを打ち出した。
20年度畜産・酪農対策の重点要請では、規模拡大を問わず事業継承や生産効率の向上を支援するように提起。特に、飼養頭数50頭未満が76%を占める都府県酪農を念頭に、牛舎の空きスペースを活用した増頭への支援などが必要だとしている。
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2019年12月07日
多面的機能の維持 中山間守る国民論議を
食料・農業・農村基本計画の見直し検討が進んでいる。生産基盤の再建に向け、政府は担い手の農地集積や規模拡大に力を入れる。平場より生産性は劣るが、中山間地域の総土地面積は7割で農業産出額や農家数の割合は4割。同地域をどう守るか、国民的な議論を深めるべきだ。
日本農業新聞は10月、企画「ゆらぐ基(もとい)~危機のシグナル」と題し生産基盤の実態を追った。日本棚田百選に選ばれる宮崎県の集落が、棚田オーナー制度などで集落外の住民との交流に力を入れるものの存続の危機に直面している事例や、農地の受け皿となってきた集落営農組織が解散に追い込まれたことなどを取り上げた。
厳しい状況は数字からも読み取れる。農水省が行う2018年度の中山間地域等直接支払いの交付面積は約66万4000ヘクタール。14年度に過去最大の約68万7000ヘクタールに達したが、伸び悩んでいる。農業・農村を支えてきた団塊世代の高齢化や人口減少の中で、国民全体で守る仕組み作りは待ったなしの課題だ。
農水省は、農業・農村の多面的機能や棚田に対する国民の意向調査をまとめた。同機能で重要な役割を複数回答で聞いたところ、「雨水を一時的にためて洪水を防ぐ」(57%)「作物や水田にためられた水が土砂の流出を防ぐ」(37%)「日々の作業を通じて土砂崩れを防ぐ」(36%)といった治水・治山機能の評価が高い。また「棚田を将来に残したいか」を尋ねたところ、8割が残したいと答えた。理由は「澄んだ空気や水、四季の変化などが癒やしと安らぎをもたらす」「農地や農作物などがきれいな景色を作る」がいずれも37%と最も多かった。
一方で、「棚田の維持や保全のために何かしたいか」との問いに「したいと思わない」が34%。また「棚田を残したいか」について「荒れてしまうのは仕方がない」(19%)、「棚田がすべてなくなっても構わない」(6%)という回答もあった。
治水・治山や癒やしなどの多面的機能は国民にこそ多くの恩恵をもたらしている。農業・農村の役割と魅力について、国民理解をもっと広げる必要がある。
現行の基本計画は、担い手を中心とした産業政策と地域政策を車の両輪と位置付け、魅力ある農村づくりの取り組みには、規模や経営形態の異なる農業者、地域住民、農村外の人材などの幅広い参画が重要だと指摘する。しかし、農村の疲弊を訴える現場の声は強まっている。
最初の基本計画は20世紀最後の年に策定された。10年間を見通した同計画の5年ごとの見直しは「食料や農業・農村について消費者や自治体を含め、さまざまな階層が参加して議論する場で、20世紀農政から受け取った宝物」(小田切徳美明治大学教授)と言える。基本計画見直し検討への幅広い層の参画により、外部人材も含めた多様な担い手で農業・農村を支える実効ある政策を作る必要がある。
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2019年12月04日
気候非常事態 長野県が宣言 都道府県で初
長野県は6日、世界的な気候変動への危機感と地球温暖化対策への決意を示す「気候非常事態宣言」を都道府県として初めて発表した。2050年までに県内の二酸化炭素(CO2)排出量を実質的にゼロにすることを目指す。
県議会が同日、台風19号被害やスペインでの国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)開催などを背景に、宣言を出すよう県に求める決議を全会一致で採択。これを受けて県が宣言を発表した。宣言では、国内で頻発する気象災害と世界的な異常気象、気候変動に触れ、「この非常事態を座視すれば、未来を担う世代に持続可能な社会を引き継ぐことはできない」と強い危機感を示した。
県は、太陽光発電や小水力発電といった再生可能エネルギーの拡大、省エネ対策の強化などで、CO2排出量の実質ゼロを実現したい考え。阿部守一知事は会見で「広く県民一丸となって気候変動対策を進めていきたい」と強調した。インターネット中継で阿部知事と会談した小泉進次郎環境相は「台風で大きな被害を受けた長野県が宣言したことは象徴的。来週参加するCOP25で発信したい」とエールを送った。
宣言は、地球温暖化対策を加速させようと欧米諸国を中心に広がっている。欧州連合(EU)の欧州議会が11月に採択した他、国内では長崎県壱岐市、長野県白馬村などが宣言している。
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2019年12月07日

柿じまん 富山県朝日町、入善町
富山県朝日町と入善町の農家女性でつくるグループ「美の里じまん」が製造するドレッシングタイプの調味料。朝日町産の柿「刀根早生」を熟成させて造った柿酢にしょうゆをブレンドし、ユズ果汁などを加えた。おひたしや豆腐料理に掛けて食べるのがお勧め。
朝日町の南保柿出荷組合の女性らから、2013年に同グループが製造を引き継いだ。地元の宿泊施設や学校給食などにも使われている。
1瓶(180ミリリットル)411円。入善町にあるJAみな穂の農産物販売加工施設「みな穂あいさい広場」や両町のスーパーで販売している。甘さを抑えたタイプもある。
問い合わせはみな穂あいさい広場、(電)0765(72)1192。
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2019年12月04日
日米協定の宿題 不安除く責任 国会にも
日米貿易協定の元日発効が確実になった。大型自由貿易協定(メガFTA)によるかつてない自由化との闘いを農家は迫られている。臨時国会は9日が会期末だが、政府と国会が責任を果すのはこれからだ。通常国会が来月にも始まる。十分な国内対策をはじめ農家の不安払拭(ふっしょく)へ熟議を求める。
議論が深まらないまま国会は日米協定を承認した。審議時間が短過ぎた。その上、環太平洋連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)も合わせた農林水産品の影響試算など、野党の資料請求に政府・与党は応じなかった。政府の答弁も踏み込み不足が目立った。所信表明演説で安倍晋三首相は「農家の皆さんの不安にもしっかり向き合う」と述べた。政府・国会ともに、不安払拭策は「継続審議」になったと認識すべきだ。
不安払拭はまず国内対策にかかっている。政府はTPP等関連政策大綱を改定し、大小問わず意欲的な農家を支援する方針を示した。対策費3250億円を盛り込んだ今年度補正予算案も決めた。予算規模を含め、同演説で首相が約束した「生産基盤の強化など十分な対策」になっているか。その検証は、日米協定を承認した国会の責務だ。
日米協定とTPPを合わせた農林水産物の生産減少額を政府は最大2000億円と試算。国内対策で農業所得と生産量が減らないことが前提だ。なら、対策は最低でも所得などを維持できる内容でなければならない。そうなる理由の説明責任もある。
国内対策には食料自給率向上の観点も必要だ。45%の目標を盛り込んだ食料・農業・農村基本計画は閣議決定しており、目標達成に必要な生産基盤の確保は政府の責務である。来年度当初予算案を含めて検討が必要だ。来年3月の閣議決定を予定している新たな基本計画も、メガFTA時代に、日本の農業・農村の持続的発展をどのようにして確保し、自給率を向上させるかが問われる。
国内対策が十分かを検証するには適正な影響試算が必要だ。政府は野党が要求した資料を作り示すべきだ。対策を前提に試算をするのは逆立ちした論理である。国の財政は厳しい。生産がこれだけ減るから、それを防ぎ、さらに自給率を引き上げるにはこうした対策が必要だ。こうした分かりやすい筋立ての方が、国民の理解も得られる。
国内対策を抜いた日米協定の試算を東京大学大学院の鈴木宣弘教授が行い、参考人とし国会で説明。価格が下がれば生産も減るとして、農産物の生産額が9500億円程度減少する可能性を示した。参考にすべきだ。
米国は追加交渉の予備協議に来年早々に入ると表明した。対象について政府の国会答弁は「農産品は想定していない」にとどまる。自由化が一層進むのではないかと農家は不安だ。払拭のために、農業を対象にするよう米国から要求されても「断固拒否する」と明言すべきだ。
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2019年12月07日
論説の新着記事
ヨーグルト減速 多様な効能 消費反転へ
乳酸菌などの機能性と健康効果が広く知られ、急成長を続けてきたヨーグルトの消費がこの2、3年減っている。機能性をうたう食品が数多く登場し、需要の一部が流れているためだ。酪農振興のためにも、業界ぐるみでヨーグルトの多様な効能をアピールし、消費の定着と拡大につなげるべきだ。
ヨーグルトの生産量は、この10年で1・4倍以上に拡大した。乳業メーカーの推計では、ピーク時の2016年の市場規模は4000億円を超えた。総務省の家計調査(2人以上世帯)でも同年までは右肩上がりで、年間支出額は1万3495円と09年より6割以上増えた。
急成長の最大の要因は、乳酸菌やビフィズス菌の機能性と健康効果が広く知られたことだ。手軽なドリンクタイプが増えて消費増を後押しした。だが、市場規模は17年から減少に転じ、17、18年はいずれも前年比2%減。家計調査でも18年の支出額は1万3203円となった。
なぜ消費が頭打ちになったのか。機能性や健康効果をうたう食品が増えたためだ。同じ乳製品でも高い栄養価を売りにチーズが消費を伸ばした。乳酸菌市場で消費者の選択の幅も広がった。非乳業の大手食品メーカーも乳酸菌に注目し、飲料や菓子など乳製品以外の売り場に乳酸菌入り商品が増えた。
ヨーグルト消費の後退を食い止め、再び伸ばすことは可能だろう。この間、業界ぐるみで「人の健康に有益に働く生きた微生物(=プロバイオティクス)」の役割を広く発信し、腸内環境を「善玉菌」で整えることや、「腸活」の考え方を定着させてきた。健康管理の新たな知識を消費者に浸透させたのは画期的であり、ヨーグルト消費の土台をつくった。
民間調査会社の富士経済は乳酸菌・ビフィズス菌含有食品市場とのくくりで市場規模をまとめた。ヨーグルト消費が減少しても右肩上がりで、16年度の7400億円から18年度は7800億円に増加。20年度には8000億円に達する有望市場と捉える。その中にはヨーグルト以外の食品も含まれるが、腸活につながる消費行動が今後も活発化する可能性を示している。
大手乳業メーカーのヨーグルトの新たな提案にも注目したい。ビフィズス菌の効果を訴えるため森永乳業は、製薬会社や、大腸で同菌の餌となる水溶性食物繊維の製造会社と共同で「大腸活」の情報発信を始めた。雪印メグミルクは、目や鼻のアレルギー反応を緩和する「乳酸菌ヘルベ」入りヨーグルトを来年1月に発売する。機能性タイプで市場をけん引してきた乳業最大手の明治は、低カロリーのヨーグルトに商機を見る。
原料は近年、脱脂粉乳から風味の良い脱脂濃縮乳に移りつつある。だがパンや飲料など他の食品にも使われ需要に供給が追い付かない。ヨーグルト市場を拡大し酪農振興につなげるには、生乳の増産対策が不可欠だ。
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2019年12月10日
規模拡大に限界感 家族農業 生かす政策を
担い手の規模拡大に限界感が見え始めている。生産基盤を維持していく上で憂慮すべき事態だ。担い手の規模拡大によって農地を守るシナリオを描いてきた農政の再検討が欠かせない。多様な担い手として家族農業の育成方向を明確にするとともに、実態にそぐわない農地集積目標なども見直しが必要だ。
食料・農業・農村基本計画の見直し論議で、家族農業や中小規模農家への支援強化を求める声が広がっている。JAグループは政策提案の中で、基幹的農業従事者や農業法人だけでなく、多様な農業経営が持続的に維持・発展できる政策を強く求めた。与党からも「家族農業、中小農家を支えることが重要」「地域を守る家族農業の将来像もしっかり示すべきだ」などの意見が相次ぐ。
家族農業の現状は、2019年は経営体数115万で、この5年間に2割近い28万以上が減った。恐ろしい減少スピードであるにもかかわらず、いまの農政の中で家族農業は位置付けを落としている。
05年の基本計画と併せて策定された「農業構造の展望」では、担い手になり得る効率的で安定的な家族経営を10年後までに33万~37万戸育てる青写真を描いていた。民主党政権時代の10年の構造展望では「家族農業経営の活性化」を柱として打ち立て、販売農家の減少にブレーキをかける考えを示した。しかし政策効果は表れず、15年の現行構造展望には家族農業の記述すらなくなった。
家族農業軽視は、いまの農政が産業政策に過度にシフトしたことによる。担い手育成の政策目標として、農地利用の集積率を10年間に5割から8割に引き上げることを掲げたが、これは従来の集積スピードを一気に1・5倍に引き上げるというもの。だが現実は、中間年に当たる18年は56%にとどまった。利用が低調な農地中間管理機構(農地集積バンク)をてこ入れする法改正はしたものの、実現はほぼ不可能といっていい。
もはや、集積目標自体が妥当か考え直す時だろう。「構造政策が進み過ぎ、畦畔(けいはん)管理などが担い手の負担になっている」「農地を頼まれても、これ以上は増やせない」といった声が既に上がっている。この状況で無理に集積を加速すれば、担い手は受け止め切れず農地の遊休化につながる恐れすらある。受け手のない農地があふれないよう、中小規模の農家の離農をできるだけ食い止めることが先決だ。
家族農業を重視する流れは、国連が定めた「家族農業の10年」とも通じる。グローバリゼーションが進み、飢餓撲滅や食料安全保障の確保といった国際的な目標の実現に不安が増してきたことを受けた動きである。食料自給率が37%にとどまる日本にとってこそ切実な問題だ。国民の食を守るためにも、国内の生産基盤を支えてきた家族農業の支援策が強く求められる。
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2019年12月08日
日米協定の宿題 不安除く責任 国会にも
日米貿易協定の元日発効が確実になった。大型自由貿易協定(メガFTA)によるかつてない自由化との闘いを農家は迫られている。臨時国会は9日が会期末だが、政府と国会が責任を果すのはこれからだ。通常国会が来月にも始まる。十分な国内対策をはじめ農家の不安払拭(ふっしょく)へ熟議を求める。
議論が深まらないまま国会は日米協定を承認した。審議時間が短過ぎた。その上、環太平洋連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)も合わせた農林水産品の影響試算など、野党の資料請求に政府・与党は応じなかった。政府の答弁も踏み込み不足が目立った。所信表明演説で安倍晋三首相は「農家の皆さんの不安にもしっかり向き合う」と述べた。政府・国会ともに、不安払拭策は「継続審議」になったと認識すべきだ。
不安払拭はまず国内対策にかかっている。政府はTPP等関連政策大綱を改定し、大小問わず意欲的な農家を支援する方針を示した。対策費3250億円を盛り込んだ今年度補正予算案も決めた。予算規模を含め、同演説で首相が約束した「生産基盤の強化など十分な対策」になっているか。その検証は、日米協定を承認した国会の責務だ。
日米協定とTPPを合わせた農林水産物の生産減少額を政府は最大2000億円と試算。国内対策で農業所得と生産量が減らないことが前提だ。なら、対策は最低でも所得などを維持できる内容でなければならない。そうなる理由の説明責任もある。
国内対策には食料自給率向上の観点も必要だ。45%の目標を盛り込んだ食料・農業・農村基本計画は閣議決定しており、目標達成に必要な生産基盤の確保は政府の責務である。来年度当初予算案を含めて検討が必要だ。来年3月の閣議決定を予定している新たな基本計画も、メガFTA時代に、日本の農業・農村の持続的発展をどのようにして確保し、自給率を向上させるかが問われる。
国内対策が十分かを検証するには適正な影響試算が必要だ。政府は野党が要求した資料を作り示すべきだ。対策を前提に試算をするのは逆立ちした論理である。国の財政は厳しい。生産がこれだけ減るから、それを防ぎ、さらに自給率を引き上げるにはこうした対策が必要だ。こうした分かりやすい筋立ての方が、国民の理解も得られる。
国内対策を抜いた日米協定の試算を東京大学大学院の鈴木宣弘教授が行い、参考人とし国会で説明。価格が下がれば生産も減るとして、農産物の生産額が9500億円程度減少する可能性を示した。参考にすべきだ。
米国は追加交渉の予備協議に来年早々に入ると表明した。対象について政府の国会答弁は「農産品は想定していない」にとどまる。自由化が一層進むのではないかと農家は不安だ。払拭のために、農業を対象にするよう米国から要求されても「断固拒否する」と明言すべきだ。
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2019年12月07日
ラグビー菊池寛賞 ワンチームに学び改革
ラグビー・ワールドカップ(W杯)でベスト8に輝いた日本代表チームが菊池寛賞を受賞した。日本代表の活躍は、改めて「ワンチーム」で組織が一丸となれば難局を突破できる勇気を国民に与えた。JA自己改革などでも参考にできる「スクラム型組織論」を学びたい。
菊池寛賞は、文化活動で創造的業績を上げた個人、団体に贈る。6日の贈呈式で日本代表も表彰される。受賞理由は、ワンチームで強豪国を破る姿が「日本中に勇気を与えた」ことだ。果敢なタックルで立ち向かい、スピードを生かし得点を重ねる姿に感銘を受けた。停滞感が覆う日本人に「前を向く」大切さをも示した。
同賞は昨年、ユーミンこと松任谷由実さんが受賞し話題となった。「日本人の新たな心象風景をつくった」ことが評価された。代表曲の一つ「ノーサイド」は、全国高校ラグビー決勝での激戦を題材にした。この中に〈何をゴールに決めて 何を犠牲にしたの 誰も知らず〉の歌詞がある。今回の日本代表からも「多くの事を犠牲にしラグビーに打ち込んできた」の言葉が何度も出た。同賞とユーミンとラグビーの結び付きを思う。
ラグビーの持つ戦術と精神に学ぶものが多い。象徴的な用語は、流行語大賞に選ばれた「ワンチーム」と「スクラム」「ノーサイド」。加えて日本代表には三つの“わ”があった。「和」「話」「輪」だ。チームの和を最も尊び、相互理解する話し合いを深め、大きな輪となり、相手を打ち砕く塊となる。
JA改革にも共通する。例えば、経済事業改革を進めるJA全農の新3カ年計画のスローガン「全力結集で挑戦し、未来を創る」はラグビーの勝利の方程式でもあろう。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」の精神は、協同組合の相互扶助、助け合いとも重なる。
組織には野球型とラグビー型の二つがあるという。野球型はトップが人を駒として動かす。監督が試合中にも指示を欠かさない。いわば上意下達の仕組み。一方で、ラグビー型は統一した明確な戦術の下に個々が考えて臨機応変に動く。今は先が読めない不確実性の時代で、ラグビーの戦術を今後の組織戦略に生かす経営トップも多い。違った専門性を持つ社員が力を合わせる「スクラム型組織」こそ、難局打開の突破口を開くとの考えからだ。日本代表のうち外国出身者は半数近い。「多様性」を弱点でなく強さに変え、勝ち抜くのも「スクラム型組織」の特色と言えよう。
経済界トップに加え政治家、農業界にもラガーマン出身が存在感を持つ。強い責任感、自己犠牲、耐え抜く精神力、勝利へのこだわり。底流には、思いを一つにしてみんなで努力すれば巨象をも倒せるとの「ワンチーム」への信念と確信がある。今回の日本代表の菊池寛賞受賞の意味を、JA改革断行にも役立てたい。
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2019年12月06日
国際植物防疫年 日本の指導力発揮 期待
2020年は国連が定めた国際植物防疫年(IYPH)。病害虫や雑草の対策が重要だとの認識を、世界的に高める機会となる。優れた技術・対策を持つ日本が国際的なリーダーシップを取るべきだ。東京五輪・パラリンピックで日本への侵入リスクが高まる。市民を巻き込み水際対策も強化したい。
国境を越えて侵入する病害虫は食料安全保障にとって脅威だ。水稲に吸汁被害を与えるトビイロウンカが今年、西日本を中心に記録的な発生となった。米の作況指数(10月15日現在)は九州が「87」、四国と沖縄が「94」、中国が「97」だった。
また、飼料用トウモロコシなどを加害するツマジロクサヨトウは、7月に国内で初めて確認されてから農場での発生が瞬く間に21府県に拡大した。地球温暖化の影響で定着する恐れがあり、生産現場では農家らが懸命の防除対策を進める。
来年は東京五輪・パラリンピックが開催される。病害虫は人や物の移動でも侵入する。植物検疫の重要性を市民に訴え、土付きの植物を持ち込まないなど水際対策への協力を得たい。
IYPHの根底には、持続可能な開発目標(SDGs)である飢餓や貧困の解消、環境の保護、経済発展に、病害虫のまん延防止は欠かせないとの考えがある。ニューヨークとローマでの年末のキックオフセレモニーを皮切りに、来年の閣僚会合や国際シンポジウムなどを通じ、市民や政治家、行政の担当者、企業の社員らに理解を広げる。
IYPHでの国際的なリーダーシップの発揮には、20カ国・地域(G20)の会合との関連で茨城県つくば市で11月に開かれた、病害虫研究者による二つの国際会合の経験が生きる。
市民も参加した国際農林水産業研究センター(国際農研)のシンポジウムでは、講演やパネルディスカッションを通じ、各国が連携して対策・研究に当たることが重要だとの認識で一致した。SDGsの達成や食料安保につながることも確認した。
専門研究者らが中心の農水省主催のワークショップでは、かんきつグリーニング病など八つの病害虫について研究成果や防除方法を共有。今後の研究連携の在り方を話し合った。海外の研究者らは、日本の植物防疫の仕組みやミバエを撲滅した経験などに強い関心を示していた。
二つの会合ともに、日本の研究者らが開催国として議論をリード。防除対策や研究成果の共有、研究者のネットワークづくり、国際的な研究連携の進め方などで成果を得た。
その成果を生かし日本は国際的な行動を起こすべきだ。診断技術や疫学調査、越境防止措置、予防・防除技術を提供したり、研究連携の輪を広げたり、国際的な監視体制を強化したりすることで、持続的な食料生産に貢献できる。病害虫のまん延防止への協力は越境性病害虫の国内への侵入を防ぐことになり、食料安保にもつながる。
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2019年12月05日
多面的機能の維持 中山間守る国民論議を
食料・農業・農村基本計画の見直し検討が進んでいる。生産基盤の再建に向け、政府は担い手の農地集積や規模拡大に力を入れる。平場より生産性は劣るが、中山間地域の総土地面積は7割で農業産出額や農家数の割合は4割。同地域をどう守るか、国民的な議論を深めるべきだ。
日本農業新聞は10月、企画「ゆらぐ基(もとい)~危機のシグナル」と題し生産基盤の実態を追った。日本棚田百選に選ばれる宮崎県の集落が、棚田オーナー制度などで集落外の住民との交流に力を入れるものの存続の危機に直面している事例や、農地の受け皿となってきた集落営農組織が解散に追い込まれたことなどを取り上げた。
厳しい状況は数字からも読み取れる。農水省が行う2018年度の中山間地域等直接支払いの交付面積は約66万4000ヘクタール。14年度に過去最大の約68万7000ヘクタールに達したが、伸び悩んでいる。農業・農村を支えてきた団塊世代の高齢化や人口減少の中で、国民全体で守る仕組み作りは待ったなしの課題だ。
農水省は、農業・農村の多面的機能や棚田に対する国民の意向調査をまとめた。同機能で重要な役割を複数回答で聞いたところ、「雨水を一時的にためて洪水を防ぐ」(57%)「作物や水田にためられた水が土砂の流出を防ぐ」(37%)「日々の作業を通じて土砂崩れを防ぐ」(36%)といった治水・治山機能の評価が高い。また「棚田を将来に残したいか」を尋ねたところ、8割が残したいと答えた。理由は「澄んだ空気や水、四季の変化などが癒やしと安らぎをもたらす」「農地や農作物などがきれいな景色を作る」がいずれも37%と最も多かった。
一方で、「棚田の維持や保全のために何かしたいか」との問いに「したいと思わない」が34%。また「棚田を残したいか」について「荒れてしまうのは仕方がない」(19%)、「棚田がすべてなくなっても構わない」(6%)という回答もあった。
治水・治山や癒やしなどの多面的機能は国民にこそ多くの恩恵をもたらしている。農業・農村の役割と魅力について、国民理解をもっと広げる必要がある。
現行の基本計画は、担い手を中心とした産業政策と地域政策を車の両輪と位置付け、魅力ある農村づくりの取り組みには、規模や経営形態の異なる農業者、地域住民、農村外の人材などの幅広い参画が重要だと指摘する。しかし、農村の疲弊を訴える現場の声は強まっている。
最初の基本計画は20世紀最後の年に策定された。10年間を見通した同計画の5年ごとの見直しは「食料や農業・農村について消費者や自治体を含め、さまざまな階層が参加して議論する場で、20世紀農政から受け取った宝物」(小田切徳美明治大学教授)と言える。基本計画見直し検討への幅広い層の参画により、外部人材も含めた多様な担い手で農業・農村を支える実効ある政策を作る必要がある。
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2019年12月04日
20年度畜酪対策 中小支援で基盤維持を
2020年度畜産・酪農政策価格、関連対策で、政府・与党の本格論議が今週始まる。最大の焦点は生産基盤維持・強化だ。特に都府県の中小規模の家族経営を含め生産の底上げ策が問われる。今後10年間の展望を示す酪農肉用牛近代化方針(酪肉近)とも密接に絡むだけに、生産意欲を促す価格、政策決定が必要だ。
まず、論議すべきは、改正畜産経営安定法の下で酪農家の生乳出荷を巡り「いいとこ取り」が横行し、飲用向けが増え用途別需給取引に支障が出かねない現状の是正だ。法改正に伴い、指定生乳生産者団体の一元集荷体制が廃止された。結果的に酪農家全体の所得が減る事態になれば、「何のための法改正だったのか」との疑問がさらに大きくなる。農水省は、生産者の公平性確保を前提に適正な制度運用と指導を徹底すべきだ。
今回の最大の焦点は、生産基盤の弱体化を食い止め、どう経営を立て直すか。これには大規模経営ばかりでなく、家族農業が中心の都府県の中小経営への支援拡充も欠かせない。
問われるのは、従来にも増して将来の展望が持てる政策価格と関連対策だ。日米貿易協定承認案の国会審議も大詰めを迎える中で、相次ぐ大型自由貿易協定に生産者の将来の不安も募る。今回の畜酪政策価格、関連対策は、こうした自由化進展への対応や酪肉近論議の方向性を示す“発射台”の意味合いも持つ。
特に酪肉近では、国産乳製品の需要の強さを受け、現行約730万トンの1割増、最大800万トンを目指すべきだ、との具体的な提案も出ている。生産者団体と乳業メーカーなどで構成するJミルクの将来ビジョンでも、10年後の生乳生産を775万~800万トンとしている。大前提は、生乳全体の55%を占める北海道の増産傾向が続き、都府県の減産に歯止めがかかることだ。チーズ、液状乳製品の需要増を想定している。同時に酪農所得対策の議論も必要だ。
畜酪農家戸数の減少が続く中で、規模拡大などを支援する畜産クラスター事業では一層柔軟な対応が求められる。中小経営を念頭に具体的な条件緩和などが必要だ。高齢者から若手への円滑な経営継承も大切だ。放置すれば離農につながりかねない畜産環境対策や、ふん尿処理施設の更新支援も欠かせない。
政策価格では、加工原料乳生産者補給金と集送乳調整金が大きな課題だ。配合飼料価格の値下がりなどから補給金単価算定では下げ要素も多いとされるが、生産意欲の観点から特段の配慮が必要だ。決定水準によっては20年度飲用乳価交渉への悪影響も懸念される。また、指定団体を対象とした集送乳調整金には物流コスト高を反映すべきだ。同調整金の引き上げは酪農家の結集を促し、用途別需給調整にも結び付く。
政府・与党の折衝は、農業団体の意向を十分踏まえ、酪肉近論議など今後の展望を開く決着にすべきだ。
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2019年12月03日
メガFTAと食肉 影響見据え対策加速を
大型自由貿易協定(メガFTA)の影響が心配される食肉の動向から目が離せない。輸入の増加は依然として続き、国産の相場は弱含みで推移している。関税引き下げの影響が出るのはまだ先だとみられていたが、生産者・産地と政府、業界は警戒を強め、生産・販売対策を加速させる必要がある。
環太平洋連携協定(TPP)は昨年末に発効し、今年2月には欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効した。牛肉、豚肉などの食肉は、関税引き下げによる国内への影響が最も心配された分野だ。深刻になるのは税率の下げ幅が大きくなる5年後、10年後との見方もあるが、そう悠長に構えてはいられない状況が出始めている。
最大の要因は食肉輸入の増加が止まらないことだ。豚肉は、2017年に93万トンと過去最高を記録し、昨年も横ばいの高い水準だったが、今年は10月までの累計で17年同期を既に4万トン上回った。過去最高を更新するのは確実な情勢だ。TPP、EPAともに2回の引き下げで従価税が1・9%へと2・4ポイント削減されたが、予想を超える輸入ラッシュとなった。
背景には、日本市場でのシェア争いが早くも始まっていることがあるとみられる。特に、この10年で対日輸出量を2倍に増やし、シェアを3割に高めたEUが今年の増加の一因だ。TPP、日欧EPA加盟国はいずれも、前年を上回っており、最大の輸出国の米国だけが前年を下回っている。
輸入が増えているのは豚肉だけではない。牛肉も、10月までの累計が、この20年間で最も多かった18年をわずかとはいえ上回っている。従来9割を占めてきたオーストラリアと米国の二大輸出国が前年を下回る中で、TPP加盟のカナダ、ニュージーランドなど新興国が追い上げている。鶏肉も10月累計で過去最高水準の輸入量となった。
食肉輸入の増加は、国産の枝肉相場に影響を及ぼし始めている。豚肉は1年ほど前から国産豚の生産回復に輸入の増加が追い打ちを掛け相場低迷となった。今年は回復の兆しが見え始めたが、夏場から輸入増で、再び弱含みの展開となっている。鶏肉相場、和牛相場も似たような構図だ。
これまで枝肉相場を大きく左右してきたのは国内の景気動向だ。この10年ほどでは、リーマン・ショック、東日本大震災が相場低迷の要因となった。この5年ほど大きな景気後退もなく、相場は安定するはずなのだが、輸入の増加で相場はますます不安定なものとなっている。
TPP、EPAに加え来年1月には日米貿易協定も発効の見通しだ。抑制効果を発揮してきた牛肉のセーフガード(緊急輸入制限措置)は、TPPからの米国離脱でほとんど期待できない。関税という防波堤が低くなる中、それを越えて食肉輸入が増えるのは先のことではない。始まっているとみるべきだ。
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2019年12月02日
農山村と関係人口 「関わりしろ」広げ育もう
住んでいなくても地域や住民といろいろな形で継続して関わる「関係人口」。三大都市圏では居住者の4分の1近くに上る。この流れを確かなものにするため、地域と関わる伸びしろ、「関わりしろ」を広げていこう。地域外の人との交流を育み、関係人口を農山村の担い手や応援団につなげたい。
国土交通省は11月、首都圏、近畿圏、中京圏に住む2万9254人にインターネットで行った関係人口に関するアンケート結果を公表した。関係人口に当たる「日常生活圏や通勤圏以外に、定期的、継続的に関わりのある地域を訪れている」と答えた人は24%。「地縁、血縁先の訪問」10%、「盆や正月に帰省」3%だった。
地域との関わり方は多様だ。調査結果から同省は、買い物や趣味を楽しむ「余暇型」、住民との交流や体験に参加する「参加交流型」、農林水産業への従事や副業など「就労型」、地域づくりへの参画など「直接寄与型」に分類。地域を訪れなくても、首都圏での販売促進を手伝うといった関わり方もある。
農山村には、この流れをどう捉えるかが問われる。訪れる人が気軽に農家と話せる場をつくったり、祭りや運動会への参加を呼び掛けたりするなど、都市住民が地域を訪れ、住民と出会う機会を増やし、関心を寄せる層を広げる仕掛けが必要だ。
離れた場所に住む人が草刈りや祭りを担うなど、地域に欠かせない存在になっている小規模集落もある。例えば、世界遺産で有名な石川県輪島市の「白米千枚田」。地元農家はわずか1戸で、周辺住民、行政やJA、大学生や都市住民らが協働で棚田を守り続けている。
地域側が注意したい点は、関係人口は「人口」という言葉が付いているものの、人数を増やすことにとらわれると対策を間違えるということだ。住民がおもてなしをするだけで終われば、地域は疲弊してしまう。地域に共感し行動する人になってもらえるよう、一人一人との関わりを大切にしたい。
一方で、農山村を訪れる都市住民も、棚田や里山などの感動する景色は、脈々と続く人々の日々の営みがあるからだということに思いをはせてほしい。地域住民と関係人口が理解し合うことが欠かせない。
関係人口を育むことは地域農業やJAにとっても重要だ。就農を目指さなくても、農業に関心を持っている若者との接点づくりを始めよう。専業農家以外の若者と関わるJAには、気付きを得たり新たな発想や交流が生まれたりしている。
国交省の調査では、特定の地域と関わりのない人のうち3割が、居住地以外の地域と何らかの形で関わりたいと希望していた。「関わりしろ」を求めていることがわかる。
人手不足、担い手不足が農業・農村の課題だ。関係人口を育む、その視点が農山村再生の鍵になる。
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2019年12月01日
伸びる米粉市場 実需と結び付き強化を
米粉の消費が伸びている。品質の向上で品ぞろえが増えたことが大きい。国の後押しで輸出機運も高まる。課題は生産の安定、実需との結び付き、製粉コストの低減、魅力的な商品開発だ。有望な米粉市場を安定軌道に乗せるため、官民一体で取り組みを加速させよう。
米粉新時代を開いたのは、圧倒的な品質力だ。微細粉にする高い製粉技術、加工技術の進展で、パンや菓子、麺など多彩な商品化が実現。和菓子やせんべいの原料だった従来の米粉の世界を一新した。
2018年からは、日本米粉協会が、健康食材の特性を生かす「ノングルテン米粉認証制度」、消費者が選びやすいよう菓子・パン・麺用の表示をする「米粉の用途別基準」の運用を始め、普及に一役買った。
アレルギー対応食材として認知度も高まり、需要量は近年、堅調に推移。農水省などによると17年度2万5000トン、18年度3万1000トン、19年度は3万6000トンを見込む。消費増で工場の稼働率が向上し、一部メーカーは小麦粉並みの製粉コストを実現している。
問題は、伸びる需要に生産が追い付いていないことだ。米粉用米は、水田活用の直接支払交付金による転作支援もあり、一定に定着した。過去2年は2万8000トンで推移。19年度も同水準になる見込みだ。主食用価格が堅調で、米粉用米の生産が足踏みしている状況だ。実需側の在庫も少なく、このままでは3万トンを超す需要を満たせず、地域によっては原料確保に苦心する企業も出そうだ。
有望な米粉市場に生産現場が対応できないのはもったいない。専用品種や多収品種の導入で、主食用に近い収益性を上げている産地もある。米粉用米生産の政策目標は25年度までに10万トンにすること。伸びしろはある。官民挙げ、水田フル活用による転作誘導、生産と実需の結び付きを強めるべきだ。
もう一つの活路は海外市場だ。欧米では、麦に含まれるグルテン由来の疾病が社会問題となっており、「グルテンフリー市場」が急成長している。日本の米粉・関連食品の輸出は過去2年間は、約50トン、約200トン。今年は約700トンを見込む。着実に増加しているが、まだ緒に就いたばかりだ。
日本の強みは、グルテン含有量「1ppm以下」という世界最高水準の「ノングルテン表示」で日本産米粉をアピールできること。だがこの表示は民間認証で、これを早急に日本農林規格(JAS)に格上げして、農水省による「お墨付き」として海外市場での有利販売につなげてほしい。併せて、混載による流通コストの低減、米粉ラーメンなど付加価値の高い加工品の開発、現地での地道な販促活動を継続すべきだ。
米粉の市場性、可能性を追求することは、日本の水田を生かし、世界の健康に貢献することにつながる。
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2019年11月30日