甘くないサクランボ貿易 輸出 相当の覚悟必要 特別編集委員 山田優

 先々週、取材で訪ねたトルコの果樹経営オラグロ社のメフメット・チチェク社長は、すこぶる上機嫌だった。標高700メートルにある南斜面の300ヘクタールに、ブルーベリーとサクランボの園地が広がる。

 最盛期には800人近くが収穫やパッキング作業に追われる、同国最大の果樹農家だ。周辺農家からの買い付けを含めると年間7000トンのサクランボを出荷する。日本全体の生産量(1万5000トン)の半分近くを1人で出荷する計算だ。

 機嫌が良かったのには理由があった。

 「トランプ米大統領にはお礼を言いたい」

 今年のサクランボの収穫前、中国人の果実バイヤーが続々と農場を訪れ「何千トンでもよいから送ってほしい」と懇願された。米中貿易摩擦で双方が関税を大幅に引き上げたあおりで、中国内の米国産サクランボが激減。彼らは代替産地の有力候補として世界最大のサクランボ生産国であるトルコに目を付け、オラグロ社にたどり着いた。

 今年の中国出荷は4都市向けに絞った。長年の経験からビジネスには浮き沈みがあることは分かっている。「つきあいの長い欧州の顧客に迷惑をかけられない」という社長のしたたかな計算があったからだ。

 来年は中国向けを大幅に拡大する。検疫条件が整った韓国向け輸出も始める。「日本向けは考えているのか」と尋ねると「今、輸出解禁に向け努力しているところだ」と答えた。

 サクランボの大敵である雨が少ない。労賃は欧米の10分の1の水準。「サクランボでもブルーベリーでも競争力はどこにも負けない」と社長は胸を張った。

 サクランボ輸出国というと米国が思い浮かぶが、その米国は トルコからの輸入で苦境に立つ。

 米国の生産者はトルコ産が不当な補助金で競争力を得ているとして、関税引き上げを米政府に訴えた。年明けには裁定が下る見通しだ。

 甘いサクランボの貿易を通して見えてくるのは、徹底した弱肉強食の世界。めまぐるしく動く国際政治に揺さぶられ、新興産地からの追い上げは容赦ない。

 輸出とは、世界の競合産地とガチンコで戦うこと。勝てば官軍だが、負ければ相手に市場を譲り渡すのが当たり前だ。農産物輸出に踏み切るには相当の覚悟がいるだろう。

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