[ゆらぐ基 広がる危機](3) スマート農業は万能か 経験継承今後も重要

タブレットを手に農地を見つめる横田さん(茨城県龍ケ崎市で)

 田植え作業は前向き4割、後ろ向き6割──。茨城県龍ケ崎市で約150ヘクタールの水田農業を営む横田農場の代表、横田修一さん(43)が若い従業員に指導する。前方進路の機械運転だけではなく、小まめに後方を振り返り、水位や土壌状態、欠株状況を観察し、速度調節するのが肝心だという格言だ。横田さんは、自動操舵(そうだ)田植え機などを積極的に取り入れるが、“スマート農業は万能”との意見に警鐘を鳴らし、使いこなすには経営感覚や基礎技術、経験の継承が重要と説く。

 ドローン(小型無人飛行機)や人工知能(AI)、衛星利用測位システム(GPS)などの先端技術に従来の農業技術を組み合わせたスマート農業。自動操舵トラクターの開発を目指すテレビドラマの放映で注目を集めた。政府の未来投資会議は、経験・勘頼みからの脱却で競争力を高め、ほぼ全ての担い手がスマート農業を活用する将来を描く。農水省も今年度、「スマート農業加速化実証プロジェクト」などをはじめ約50億円の予算を投入。全国69カ所で実証事業を展開する。
 

費用対効果見極め必須


 横田さんは実証事業に参画する。限られた人数で広い農地を効率的に管理するのが狙い。ロボットトラクターや水管理システム、栽培管理支援システムなどを導入し、生産性の10%向上や作業時間の20%削減などを目指す。高齢農家らから農地を預かるなどして、経営面積が就農から20年で7・5倍に拡大したことに対応するためだ。

 一方、情報通信技術(ICT)ベンチャー「農匠ナビ」の社長を務め自動給水機を開発した経験もある横田さんは、現在の技術的な限界点も見えている。田植え機の運転を自動化できても、苗や機械を運んだり、苗を機械に積んだりといった作業は自動化できない。

 ドローンの生育診断も「農作業の目安にはなるが、生育遅れの原因までは分からない」とみる。植物の生育には複雑な要因が絡み合い、一つのデータだけで管理の全てを決めるのは「かなり乱暴」(横田さん)。「投資に見合った効果がどれだけ得られるか、細かく厳格に評価することが重要」とみる。
 

新旧技術の融合を模索


 スマート農業が発展しても従来の農業技術がなくなるわけではない。中山間地域の長野県伊那市で水稲33ヘクタールを手掛ける農事組合法人田原は今年、自動給水栓11台を導入。組合長の中村博さん(67)は「離れた水田の水管理が自宅でもスマートフォンでもできる。省力化の効果は大きい」と感心する。来年度はさらに22台を追加する予定だ。

 ただ、水田の見回り作業は「これからも必要」と断言する。見回りは、気象条件の確認や生育観察などを同時に行う作業だからだ。今後も、基本的な技術を磨き上げる努力は欠かせないという。従来の農業技術とスマート農業技術の融合の模索が続く。(岩瀬繁信、金子祥也、斯波希、橋本陽平、三宅映未が担当しました)
 

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