片岡一郎さん(活動弁士) 「旬の野菜」こそおいしい

片岡一郎さん

 活動弁士という仕事をご存じでしょうか。無声映画時代の頃、日本では弁士が台本を書いて、上映の際に語っていたんですね。

 こうした弁士付きの上映は、日本だけだったのではないかといわれています。そのため私は日本独自の映画鑑賞文化の実践者として、18カ国に招かれました。

 アメリカとドイツに住んだ時期もあるんです。アメリカは7、8年前に7カ月ほど。ドイツには3年くらいかけて、半年日本、半年ドイツという暮らしを続け、短期滞在も含めたら2年くらい住んだことになります。
 

ご当地料理を堪能


 海外に住んでみて、初めて分かったんです。旬の野菜って、こんなにもおいしいのか、と。

 日本ではハウス栽培が発達しているので、いつでもおいしい野菜が食べられるじゃないですか。これはぜいたくだと思います。でも、旬の野菜のおいしさを楽しむぜいたくを失っていると感じました。

 アメリカで夏の終わりくらいに食べたトウモロコシのうまさといったら。塩ゆでにしただけで、たまらない甘味が感じられました。ドイツではなんといってもシュパーゲル、白アスパラガスです。これには解禁日がちゃんと設けられています。それだけにありがたみも増すというものです。

 ドイツといえば、他にも名物があります。ビールとソーセージ。どちらも町ごとに違うのが面白いですよね。ビールでいえば、ケルンならケルシュ、デュッセルドルフならアルト、バイエルンなら白ビール……。皆、自分の町のビールが一番だと誇りを持っています。一緒に食べるソーセージも、個性的で面白い。地域地域で異なるというのも、日本ではなかなかない食文化ではないでしょうか。

 よく「イギリスの料理はおいしくない」と言うじゃないですか。でも訪れた以上は、その町のものを食べてみたい。マンチェスターに行った時、小麦粉を固めて大きくしたものにソースを掛けただけという料理がありました。まずいとは言いませんが、単調な味なんです。一口目はソースと小麦粉が絡まって、別に悪くないと思ったんですけど、ずーっと食べ続けているうちに……。私はめったに残すことはないんですが、全部平らげるのを諦めて残しましたもの。

 ウクライナのオデッサでデーツがたっぷりと入ったボルシチを、クロアチアでニシンの酢漬けを食べたこと、タイや中国で地元の人しか行かないような汚い店で食べたおいしい料理も思い出します。
 

幻の映画保存を


 ありがたいことに、来年も各国から招待を受けています。それと同時に国内でやりたいこともあります。上映が難しい古い無声映画のデジタル化です。

 例えば1931年から35年の間に作られたとおぼしき「故郷の空」。農業改良運動がテーマで、田舎の主人公がこのままではいけないと言って都会に出て行って……という話なんです。

 問題は、私たちが見られるのは前半の3分の1だけということ。残りの3分の2は35ミリの可燃性フィルムでしか残っていません。上映すると焼失するかもしれないので、映写機にかけられないんです。結末はきっと、都会で苦労した主人公が田舎に帰って来て、田舎はいいよなと言いつつ、都会で得た技術を周囲に伝える。良かった良かった、に決まっています。

 でもどういう過程を経てそうなるのか、ちゃんと見たいし見てほしい。デジタル化への理解と協賛が寄せられればと願っています。(聞き手・写真=菊地武顕)

 かたおか・いちろう 1977年東京都生まれ。2002年、活動弁士の第一人者澤登翠さんに入門し、同年「阪妻映画祭」で公演。16年に、活動弁士として戦後初の歌舞伎座出演を果たした。これまで手掛けた無声映画は約250本。海外公演、古い無声映画発掘にも尽力。公開中の映画「カツベン!」で指導もした。
 

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