[新たなバトン 世襲ではない継承へ](3) 離農不安寄り添い 準備、紹介円滑に “銀行”へ情報集約(北海道浜頓別町)

町の農業委員会事務局職員(左)のサポートを受けながら牛を世話する和田夫妻(北海道浜頓別町で)

 これまでの農業経営に敬意を込め、離農者に寄り添って第三者継承を進める方針にかじを切った酪農地帯がある。北海道の浜頓別町だ。

 2018年から始まった同町の「お疲れ様登録銀行」。牛舎や農地などを手放す離農者の継承に向けた情報を登録し、新規参入の受け入れに生かす仕組みだ。農家は引き渡す重要性を理解している。しかし離農当事者となると前向きな人は限られる。銀行はこうした第三者継承の課題解決を目指し、町の農業担い手育成センターなどが考案した。

 「離農には覚悟がいる。牛舎の他、隣接する自宅も手放し地域を離れる人も多い。離農者の気持ちに寄り添うことが必要だ」。同センターを構成する同町農業委員会会長で「お疲れ様」と命名した酪農家の小川文夫さん(68)は強調する。「これまでの営農の努力をねぎらいたいという思いを込めた。登録の敷居を少しでも低くしたい」と語る。

 同町は17年度、高齢化で酪農家の離農が見込まれる中、対策を検討するため、全酪農家44戸にアンケートをした。今後の営農期間について15戸が5~10年、8戸が1~3年と回答。外部から担い手を確保する必要性が分かった。

 小川さんらは世襲で後継者が確保できない世帯の第三者継承を進めようとしたが、課題にぶつかった。移譲の青写真を具体的に持てる人が少なかったからだ。就農フェアでも紹介できず、チャンスを逃していた。

 そこで、譲りたい農家が具体的な青写真を描けるように、同センターに離農希望の時期や移譲方法、売買希望価格など項目別の情報を「銀行」に登録する仕組みを考案。希望者が来たら紹介する材料とする。同センターの構成組織、JAひがし宗谷は「継承を計画的に進められる」(営農相談課)と話す。

 登録第1号の酪農家、只野國男さん(68)は夫妻で経営していたが、数年前に妻がけがをするなどし経営継続が難しくなった。道内外で暮らす子どもが継がない意向を示したので、銀行に登録した。

 その結果、大阪府出身の和田英雄さん(35)に牛舎や自宅などを移譲できた。只野さんは「営農を断念せざるを得なかった。銀行に登録して『お疲れさま』と言ってもらえた気がした。スムーズな継承ができた」と話す。

 英雄さんは、妻の幸恵さん(33)と牛舎を改修、総頭数60頭で19年12月から生乳生産を始めた。「物件のめどが立たないと就農は難しい。すごく良い仕組み」とみる。今は町外に暮らす只野さんは「いつか経営を見に行きたい。地域の人と力を合わせて頑張ってほしい」とエールを送る。

 「銀行」は始まったばかりで、現在の登録農家は1人。ただ、同町での重要性は高い。

 第三者継承を全国に先駆けて進めてきた北海道。道によると「第三者継承は新規就農の重要な一つの選択肢」という。特に酪農は新規参入者が一から施設などをそろえるのが難しいからだ。牛舎などの施設だけでなく、自宅の移譲が多いことも特徴だ。第三者継承の数は明らかでないが、18年の酪農での新規参入者21人のうち、多くが第三者継承とみられる。

 道農業公社は「スムーズな継承には、受け手と出し手の人間関係が課題。継承をコーディネートする人が中立的に役割を果たすことが大事だ」と指摘する。

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