[新たなバトン 世襲ではない継承へ](4) 農家紹介、家探し… 地域ぐるみで育成 移住者の支援充実(福島県二本松市)

リンゴの選果作業を手伝う坂浦さん(左)(福島県二本松市で)

 山に囲まれ高齢化率が4割の福島県二本松市東和地区。東京都から2018年に移住した坂浦穰さん(45)が、3ヘクタールでリンゴやサクランボを作る果樹農家、熊谷耕一さん(64)の園地で研修に励む。熊谷さんは、農家や個人事業主ら住民有志が立ち上げたNPO法人「ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会」の理事長。熊谷さんは「移住者ら就農を目指す人がこの地域の農家の後継者になれるよう、できる限りサポートをしたい」と見据える。

 同法人は03年の発足以降、新規就農者や移住者の呼び込み、移住後の支援をしてきた。農業体験や農家民宿に泊まるツアー、都心での相談会を定期的に開く。就農希望者には研修先農家を紹介し、家探しも手伝う。活動が実を結び、これまで移住者を中心に約30人の新規就農者を育てた。

 最近は、後継者がおらず離農しようとする農家と、研修を終え新たに就農を希望する人との橋渡しに力を入れる。これまで新規就農者を紹介するのは農作業の受託が主だったが、今後は離農する農家の農業を丸ごと継承する流れをつくる考えだ。

 熊谷さんは自身の農地以外に、農業を続けられなくなった周囲の果樹農家4戸の園地を預かる。いずれ研修生ら就農希望者に継承したいと言う。

 現在、研修生は坂浦さん1人。坂浦さんは4月の独立時に、熊谷さんが農家から預かるリンゴ園30アールなどを継承してもらう予定だ。独立時は坂浦さんと地主との直接の貸借にする考え。坂浦さんは「就農できる環境が整っているので安心だ」と笑顔だ。

 ただ、第三者への継承は簡単ではない。後継者のいない同地区の佐藤佐市さん(67)は、同法人の仲介で将来的に水稲やトマトなど2ヘクタールを東京都出身の塩田幸治さん(40)に継承するはずだった。塩田さんは近隣に家を借り、佐藤さんの下で昨年まで3年間、農業を学んでいた。しかし、昨年10月の台風19号で川沿いの貸していた農地が泥で埋まり、継承は取りやめとなった。

 まだ使える農地だったが、佐藤さんは近年多発する自然災害を考慮し、新規就農者の塩田さんには立地が厳しいと判断。「塩田君とも話し合い、彼の今後を考えて川沿いの農地はやめようとなった」と話す。塩田さんは同法人の仲介などで別の農地や空き家を見つけている。

 被災したものの、自身の農業を将来的に「第三者へ継承したい」との思いを抱く佐藤さん。塩田さんや研修生ら就農希望者と相談しながら、継承の話は進めていきたいと言う。

 同法人によると、これまで移住者に継承できたケースはまだない。ただ、同法人の武藤正敏事務局長は「第三者への農業の経営継承は法人の大きな柱の一つになる」と見通す。

 通常、移住者らへの継承には農家や地域に抵抗感がある。西日本のある県の担当者は「世襲で確保できず、よそ者に託すことで何か地域に迷惑を掛けるのではないかと、負い目を感じる農家が一定数いる」と明かす。

 しかし同地区では、同法人の支援による移住者受け入れに長年の実績があり、移住者は農業を軸に十分暮らしていける。同法人の理事で農家の大野達弘さん(65)は「中山間地域だからこそ、少量多品目など経営を工夫できる。われわれにはない発想を持ってきてくれる移住者への継承を、地域ぐるみで支援したい」と意気込む。
 

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