[新たなバトン 世襲ではない継承へ](5) 金銭面公平に査定 初期投資負担軽く JAが仲介役に(ながさき西海)

JAの岡本さん(右)と牛の状況を確認する平山さん(中)と森本さん(長崎県平戸市で)

 「長崎和牛」の増頭に力を入れる長崎県平戸市。畜産農家だった森本淑子さん(63)が、繁殖雌牛の元気な様子に、笑顔を浮かべる。「牛舎にいると主人がそばで見ている気がする。主人の大切な財産を手放すことは悩んだけれど、良い形で継承できた」。今も森本さんは毎日のように牛舎に来て、世話を手伝う。

 JAながさき西海の仲介で、森本さんから経営をバトンタッチしたのは同市の平山義雄さん(52)だ。森本さんも平山さんも「当事者同士だと険悪になりがちな金額問題もJAが仲介してくれた」と口をそろえる。

 親子間だけでなく、第三者も含めた畜産継承に力を入れるJA。難しい他人同士の継承には、長崎和牛の生産基盤維持に向け産地が一丸になっていることが強みだ。誰かが経営を断念しそうになったり、新規参入や増頭したい人がいたりすれば、部会長らがすぐにJAに連絡し、JAが双方に話をする。牛は相場、農機はJAの中古農機の価格など、JAが公平に査定する。

 JA畜産部の岡本量次さんは「離農や経営縮小は産地全体の問題。誰もが当事者として考えている」と強調する。

 森本さんの夫の死後、JAは様子を見て森本さんに今後の経営方針を聞き、第三者への継承の道もあることを説明した。20頭を超す牛の飼育は1人では難しい。森本さんは迷った結果、継承を決めた。JAによると、平山さんの他にも2人、規模拡大を視野に牛舎の継承を希望した畜産農家がいた。JAは資産の見積もりの他、希望者の名前を森本さんに提示。森本さんは知り合いで夫が信頼していた平山さんに託したいと考えた。

 一方、平山さんは同JAの元職員で、牛飼いが夢だった。40歳でJAを辞め、人工授精の仕事をしながら3頭を飼育。JA担当者に規模拡大を相談する中、森本さんが牛舎の継承者を探していると知った。

 JAの仲介で牛舎や雌牛20頭、2トントラック、トラクターやロールベーラーなど農機を継承した他、平山さんは、森本さんの田で飼料用米も栽培する。事業を活用し、牛舎や農機などは査定額の半額近い価格で購入できた。

 森本さんは自宅から400メートル離れた牛舎に今でも毎日のように行き、世話を手伝う。平山さんは車で10分程度の通勤農業だ。人工授精で地域を回るため留守がちで、森本さんの助けが支えだ。平山さんは「軌道に乗る前に安価で継承できるのはありがたい。JAの総力でスムーズに継承できた」と感謝する。

 JA全中、JA全農、JA共済連、農林中央金庫の全国4連が手掛けるJA畜産経営継承支援事業。継承に関わるJAが支出した経費の2分の1以内を助成する。全中によると、同事業は01年に創設し、18年度までに278件が継承に至った。北海道が7割を占める。

 JAながさき西海はこれまで同事業を活用し、5組の継承を支えた。資産をいったんJAが負担するためリスクはあるが、「長崎和牛」の増頭を目指すJAは覚悟を決め、継承を支える。岡本さんは「継承に重要なのは規模より、双方のやる気と周囲のフォローだ」と考える。

 当事者が顔を合わせる話し合いには、JA担当者だけでなく、場合によって地域の畜産農家のリーダーが同席することもある。松浦市での継承時の話し合いに参加した畜産農家の永田博さん(70)は「牛舎を地元に残したい。受け継ぐ農家は助成があるが、経営は大変なのでサポートしたい」と話す。産地一丸の体制が、第三者への継承の課題解決につながっている。
 

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