農業総産出額低下 稼ぐ力回復へ基盤強化

 3年連続で増加していた農業総産出額と生産農業所得が2018年は前年を下回った。農業者や農地の減少で生産基盤の弱体化が進んでおり、農業を成長産業に位置付けてきた安倍政権の「官邸主導農政」が掛け声倒れになる恐れが出てきた。“稼ぐ力”の源泉である生産基盤の強化を急ぐべきだ。

 農業総産出額と生産農業所得は日本農業の「稼ぎ」を示すもので、実力を表す指標の一つだ。18年の農業総産出額は9兆558億円で前年に比べ2・4%減少した。野菜のうち葉茎菜類や豚、鶏卵の生産増加による価格下落が原因だ。生産資材費などを引いた生産農業所得は3兆4873億円で7・3%も前年を下回った。

 農水省は、いずれも「引き続き高い水準を維持した」と捉えているが、認識が甘過ぎる。1990年代初めの農業総産出額は11兆円を超え、生産農業所得は5兆円水準にあった。それに比べれば、高い水準と決して胸を張れるような状況ではない。

 農業者の数や農地が減少していることを考慮に入れれば、現役農業者の健闘ぶりが分かる。しかし別の統計でも、3年連続で増えていた1経営体当たりの農業所得が18年には前年を下回った。個別経営は厳しくなっている状況がうかがえる。

 農業総産出額と生産農業所得は15年から3年連続で増えた。一昨年の通常国会の施政方針演説で安倍晋三首相は「(攻めの農政で)生産農業所得は3兆8000億円となり、過去18年で最も高い水準になっている」と自賛した。

 しかし需要に見合った生産による米価の回復に支えられたもので、国内農業が拡大した結果とは認めにくい。むしろ生産基盤の弱体化は進んだ。19年の農業就業人口は168万人と10年間で121万人も減少、高齢化が進んだ。同期間に農地は21万ヘクタール減り、440万ヘクタールに縮小した。農業生産の4割を占める中山間地域では耕作放棄が続き、食料自給率(カロリーベース)は37%に低迷したままだ。

 政府が国内農産物の市場拡大策として期待を寄せる輸出額は、18年が5660億円と前年比で14%伸びた。牛肉や米、果実の伸びが目立つ。香港や台湾などへの輸出が好調な結果だ。しかし、林水産物を含めた輸出総額の19年1兆円目標の達成は困難な見通しだ。国内生産を拡大するほどの力強さに欠ける。

 むしろ環太平洋連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)、日米貿易協定の発効で価格の安い輸入農畜産物が一層増える可能性が高い。国内生産が縮小を迫られる恐れがある。

 規制改革推進会議などが先導してきた規模拡大・企業化偏重の農業改革が壁に突き当たっていることを示すといえる。地方創生のためにも政府・与党は、地域経済を支える農業の活性化に向け、人と農地を含めた生産基盤を強化し農業・農村を再建できる方策を打ち出すべきだ。
 

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