若者流出、伝統継承…農山村の課題描く 真の豊かさとは 映画「高津川」島根の清流舞台

高津川のほとりで語り合う、学(甲本さん)(左)と陽子(戸田さん)(映画「高津川」製作委員会提供)

農村の原風景が残る高津川(同)

 島根県西部を流れる高津川。その流域の農山村を舞台にした映画「高津川」が、先行上映する中国地方で大ヒットしている。俳優の甲本雅裕さん(54)演じる牧場経営者の斎藤学が、家族や仲間と一緒に若者の流出、農業や祭りの継承危機などに立ち向かう姿を描く。製作には地元の自治体やJAも全面協力。4月から全国上映も始まる。(鈴木薫子)

 高津川は県最南端の吉賀町に源流を持ち、津和野町、益田市を抜けて日本海に注ぐ。長さ80キロ、支流を含めてダムが一つもない1級河川。国土交通省の2007年度の水質調査で全国の1級河川の中から1位に選ばれ、清流が今も残る。

 映画では、透き通った川のせせらぎや鳥のさえずり、そよぐ風に揺れる稲穂など、農村の原風景が丹念に描かれている。その中で、牧場を営む主人公の学は、妻を亡くし、母と娘、息子と牛の世話に励む。

 地元の伝統芸能「石見神楽」は地元の誇りとして長く受け継がれているが、高校生の息子・竜也は進路に悩み、神楽の稽古をさぼりがちだった。学は多くの若者と同じように竜也が地元を離れてしまう不安を抱える。

 そんなある日、母校の小学校閉校の知らせを聞く。さらに高津川上流にリゾート開発の話が持ち上がった。

 先祖から受け継いだ土地、清流が生む新鮮な農産物を守りたい──。学は和菓子屋を継いだ陽子ら同級生と、全国に散らばった卒業生を集めて最後の運動会を計画。それぞれが現実と向き合い、自分にできることを模索するストーリーだ。

 学が営む牧場の撮影場所は、津和野町でジャージー種と黒毛和種の交雑種(F1)を肥育する京村牧場だ。町では小学校の統廃合が相次ぎ、牧場主の京村真光さん(66)は映画と現実が重なって見える。「県外からの移住者が増える明るい話もあるが、地元の若者が出ていく構図は変わらない」と話す。

 映画製作にJAしまね西いわみ地区本部も資金面で支援した。メロンなど、管内の農産物も映画に登場する。田村清己本部長は「映画に出てくるのは、全国各地の地方で起きている身近な問題。故郷を見つめ直すきっかけにしてほしい」と期待している。

 映画初主演の甲本さんは岡山県、ヒロインの陽子を演じた戸田菜穂さんは広島県出身。何げない日常を捉える描写力と柔らかな映像美に定評がある錦織良成監督も島根県出雲市と、中国地方出身者がそろう。

 昨年11月末から中国地方で先行上映している。「幅広い世代が映画館に足を運び、各地で大ヒットしている」(製作会社)。4月3日から全国で上映する予定だ。
 

錦織良成監督に聞く 作品への思い

 
錦織良成監督(同)
 

 錦織良成監督に映画製作への思いを聞いた。
 

 水の恵み“ぜいたく”


 地元で監督した作品の上映会で高津川を知り、下流まで透き通っていることに魅了された。きれいな水がある生活こそが人間にとって一番幸せなことだと感じ、10年ほど前から映画にしたいと考えてきた。

 山から流れ出た水で農産物が育ち、その水が海に流れる。当たり前の営みがぜいたくだと思う。その原風景を映画に映し出すことにこだわり、見どころの一つとなった。特に下流のきれいさを際立たせた。撮影では、地元のボランティアや大勢のエキストラの絶大な協力があった。地域との交流を通して、皆で作り上げた。

 少子高齢化や後継者問題、都会への若者流出など。これらが原因で里山が失われつつある現実を描きながらも、地方の豊かさを共有したい、感じてもらいたいとの思いがある。

 自然豊かな里山が荒れたら、人々の豊かな生活が脅かされる。撮影をした時、神楽をやりながら農業を継ぐ、地元の若者の真っすぐな表情を見て希望を感じた。農業をつなぐことが日本の豊かな未来へつながると信じている。

 にしこおり・よしなり 1962年生まれ、島根県出雲市出身。代表作に「僕に、会いたかった」(2019年)、「たたら侍」(17年)などがある。
 

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