人間は忘れる生き物であり、悲しみも時と共に風化していくのかもしれない

 人間は忘れる生き物であり、悲しみも時と共に風化していくのかもしれない▼地震や津波、台風に見舞われるたびに痛ましい犠牲者が出る。それなのに災害に備えた社会制度にならない原因を物理学者寺田寅彦は、「人間の忘れっぽさ」に求めた。失敗学を提唱する工学博士畑村洋太郎さんは「三」という数字が鍵になると補足する。「三日、三年、三十年、三百年」。その節目で記憶が薄れる。寺田寅彦著『天災と国防』(講談社学術文庫)の解説にある▼しかし、忘れられないものもある。さよならも言えずに突然失った大切な人へのいとおしさ。伝えられたらどんなに救われるだろう。そんな思いが、岩手県大槌町にある「電話ボックス」に人を引き寄せる。電話線はつながっていない▼東日本大震災の年に佐々木格さんが自宅の庭に設置した。死別したいとこともう一度話したいという思いから。「天国につながる電話」と人づてに広がり、これまでに訪れた人は3万人を超えた。それを主題にした映画『風の電話』(諏訪敦彦監督)を見た。震災で家族を失った女子高校生ハルが避難先から故郷に戻り、心にためてきた思いを受話器に語り掛ける▼「なぜハルだけ置いて行ったの。つらいよ。会いたいよ」。もうすぐ9回目の春が巡ってくる。
 

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