「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている」

 「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている」。司馬遼太郎さんの代表作『坂の上の雲』の書き出しである。近代国家へ歩み出す明治日本を描いた▼きょうは司馬さんの忌日「菜の花忌」。没後四半世紀近くたつが、彼が問うた「この国のかたち」は、いささかも古びない。開化期、成長期を過ぎ衰退期へと向かう日本を憂いた。病巣の最深部に「土地問題」を見た。時は列島改造。土地転がしが横行し、山林、農地に至るまで投機対象に。「戦後社会は土地問題で崩壊するだろう」と断じた▼憂国の思いは対談集『土地と日本人』(中公文庫)に詳しい。農業、経済、社会の根っこにあるこの問題の解決に「土地公有論」を唱えた。「土地は天下のものであり、天が公有であるごとく地も公有である」。土地投機で成り立ついびつな資本主義の修正を迫った▼農地をはじめ国土は、公益性の高い公共財である。司馬さんのこうした考えは、経済学の泰斗・宇沢弘文さんの「社会的共通資本」に通じる。農山漁村が培ってきたコモンズ(共有地)の思想とも重なる▼人間は自然に生かされた存在で、互いに助け合うことに価値がある。それが、21世紀に生きる者への司馬さんの遺言だった。今年は菜の花の便りが、いつもより早く忌日に届いた。
 

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