農機事故死 根絶への本気度を問う

 農水省が、農業機械による事故死を3年で半減させると決めた。遅まきながらやっと明確な政策目標を掲げた。民間の協力を得て、省を挙げ必達へ取り組むという。当然だ。官民一体の総力戦を求める。だが目指すのは根絶。事故死ゼロへの通過点であることを銘記すべきだ。

 日本では、1日平均1人が農作業で命を落とす異常事態がもう半世紀も続いている。1人の死は、単なる統計数字ではない。家族にはかけがえのない人であり、経営や地域農業の支え手である。

 担い手や労働力不足が叫ばれる中、事態は改善するどころか悪化している。2017年の農作業事故死亡者は304人。10年で70人減った。だが農業就業人口が減り続ける中で、10万人当たりの死亡事故件数は増え続ける。17年は16・7人と過去最悪となった。実に建設業の2・5倍。他産業に比べ農業だけ突出しており、構造危険業種とみなされているのだ。

 大きな特徴は、農家の高齢化が進む中で、死亡事故全体の8割強が65歳以上、80歳以上でも4割を占めることだ。高齢化に伴い、農機作業が重大事故につながる。全体の死因の7割が、乗用型・歩行型トラクター、運搬車の作業に関わる事故だ。

 今回設定した削減目標は、ここに照準を当てた。農機事故死を22年に17年比で半減させ、211人を105人に減らす。同省は「高い目標だが省を挙げて本気で取り組む」と意欲を見せる。同省は、13年から5年かけて農作業死亡総数を15%減らす政策目標を現在掲げている。これは労働災害事故死15%減という政府目標に沿ったもので、今回独自の目標に踏み込んだのは危機感の表れと言っていい。

 遅きに失した感は否めないが、本気度が問われる重大局面には違いない。問題は実効性だ。3月から始まる春の農作業安全確認運動は「見直そう!農業機械作業の安全対策」をテーマに、安全フレームの装備やシートベルト着用の徹底、トラクターへの灯火器設置の促進などを呼び掛ける。財源では来年度予算案に、農業分野などの労働安全強化対策費として1億5000万円を新規に計上。十分な予算措置とは言い難いが、事故要因の調査・分析、作業環境点検マニュアルの作成、新技術の現場実装などに取り組む。

 本気度を見せるためにも、江藤拓農相自ら「非常事態」を宣言し事故ゼロへの決意を表明してもらいたい。自治体、JA、農機メーカーなど関係団体は、それぞれが何をなすべきか、行動計画を明らかにし、連携を強めるべきだ。農業者も農業生産工程管理(GAP)の手法を取り入れ、命を守る自衛手段を講じなければ経営者失格だ。

 農業経営の持続可能性は農政の最重要課題である。農業の太宗を担う高齢者の農機事故を根絶することは、政府の責務である。もう悲劇を繰り返すことは許されない。
 

おすすめ記事

論説の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは