過去の過ちは消せない

 過去の過ちは消せない。だがどう向き合うかで、人の真価は決まる▼6年前のきょう、104歳で天寿を全うした詩人のまど・みちおさんも重い過去を抱えていた。それは戦争協力詩。童謡「ぞうさん」で知られ、万物の命を慈しんだ詩人は、その一事を生涯の悔いとした。〈石にかじりついても/その敵をうちたおせ〉。戦前、勇ましい詩句で戦況をたたえ、鼓舞した▼ざんげと贖罪(しょくざい)の念に駆られた。思い悩んだ末、1992年と2015年に刊行された全詩集に、当時の戦争協力詩を載せた。最初の全詩集では、後書きで、自分の過ち、弱さを赤裸々に告白し、「私のインチキぶりを世にさらす」と痛恨の反省文を書いた。戦後50年近くたっていたが、過去の自分と真摯(しんし)に向き合った▼口をつぐみ、無かったことにすることもできた。実際、当時は戦争協力詩を書いているとの意識はまるでなかったという。だが命の大切さを言葉にしながら、その鈍感さも許せなかった。自分を見つめ直し、命に向けるまなざしはより深くなった。「もうひとつの目」という詩の一節を引く▼〈ばかな目だなあ/と 思うけれど/そう 思うことが できるのは/もうひとつの すばらしい目が/見はっていて くれるからだ〉。厳しい目と温かい目を持った詩人だった。
 

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