和牛倍増と経営 借金とふん尿を考慮に

 農水省は2019年度の補正予算で、畜産・酪農生産力強化対策事業を打ち出した。政府目標の和牛の生産倍増を目指し増頭への環境を整備したといえるが、それに乗るかどうかは農家の経営判断だ。頭数を増やせば経費がかさみ、畜産の場合は処理すべきふん尿が増えることも経営者は肝に銘じておきたい。

 同省の畜産政策は近年、農家の高齢化に対応して、生産基盤の強化や増頭、生産性の向上に力を入れている。特に和牛では、経営資源の担い手への継承やキャトルステーションの整備など、高齢で離脱する農家に代わり得る生産の仕組みを確立し生産力を強化するよう促す。

 和牛の生産量を倍増させるために補正予算では酪農と肉用牛経営の連携を進め、受精卵移植による肉用牛の生産促進を盛り込んだ。こうした施策で、繁殖雌牛の飼養頭数を18年度の61万頭から35年度の80万頭に、和牛肉の生産量を14・9万トンから30万トンに増産する政策目標を掲げている。国内の需要増や輸出拡大に対応する方針だ。

 政府は、増頭への環境を整える施策を用意している。増頭や規模拡大といった話には夢があるから個々の経営者も乗ってみたくなるだろう。しかし、長期的な経営収支を考えた上で経営判断を下すべきだ。

 日本政策金融公庫の18年度の農業分野の融資実績は3年前に比べて1・6倍に伸びている。金余りといわれる中、農業ではひときわ資金を調達しやすくなっているわけだが、逆に言えば借入金が増える素地を抱えていることになる。公庫の農業融資の7割は肉用牛と酪農を中心にした畜産だ。

 クラスター事業もあり、畜産は投資をしやすい環境にあるが、借入金も増えてはいないか。一方で収入となる和牛子牛や枝肉などの価格の見通しはどうだろう。新型コロナウイルス問題もあり、先行きは不透明だ。経費でも、労力不足に対応した労賃の上昇、高止まりの飼料費などで負担が増えていないか。増頭に乗り出す前に、改めて返済計画をチェックしたい。

 借入金と共に、畜産の規模拡大でもう一つ考えなければならないのがふん尿処理だ。増頭すればふん尿も増える。家畜排せつ物処理法ができた当時に造った堆肥化施設は、既に老朽化し手狭になっているのではないか。規模拡大には頭数に合うだけの施設と受け入れ場所が必要になる。この対策も考えなければならない。

 畜産経営は投資や運転資金などの金額が大きい。経営判断を誤れば負う傷は深くなる。畜産コンサルタントや中小企業経営診断士ら専門家に分析を依頼するなど、収支バランスを十分に見据えたい。増頭に有利な政策資金は用意されている。だが、どう使うかは個々の判断だ。行政が奏でる笛や太鼓と一緒に踊るのも華やかだが、時機をうかがいながら踊りの輪を外から冷静に眺めることも必要だ。

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