生家に残って両親の面倒を見た末弟が葬儀に帰郷した兄姉から相続を求められる話は、よく耳にする。相続争いの始まりである

 生家に残って両親の面倒を見た末弟が葬儀に帰郷した兄姉から相続を求められる話は、よく耳にする。相続争いの始まりである▼虫も殺さぬ「無欲の人」と言われた俳聖小林一茶は、継母と異母弟相手に10年余りも争った。江戸でのその日暮らしの生活にほとほと嫌気がさしたのか、家産の半分をむしりとる執拗(しつよう)さだった。骨肉の争いに孤独感を味わった時もあったのだろう。「心からしなのゝ雪に降られけり」の悲しげな秀句が残る▼田畑を小分けにして子どもに与える分地はご法度で、「田分け」といさめられた時代である。そんなご時世に一茶の言い分が通ったのは、信濃国柏原村(長野県)が遺言書という契約文書を尊重する文治社会だったということでもある。歴史学者高橋敏さんの『一茶の相続争い』(岩波新書)に学ぶ▼相続法の改正で、残された配偶者が自宅に住み続けられる権利が4月から認められる。高齢になった配偶者が住み慣れた自宅を離れるのは大きな困難が伴う。居住権を保護するのは時代の要請でもあろう。社会を取り巻く環境の変化は、農村社会にも新風をもたらすかもしれない▼必ずしも財が幸せを決めるわけではなかろうが、〈梅が香やどなたが来ても欠け茶碗(わん)〉ではわびしい。一茶の気持ちも少し分かる気がする。
 

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