放牧酪農 持続的経営へ転換促せ

 毎年約700戸の酪農家が高齢化や後継ぎがいないため離農していく。今後は労働力不足や環境対策、輸入自由化の外圧にさらされ、離農に拍車が掛かると危惧される。放牧酪農を推進し、持続する経営に転換していかねばならない。

 放牧は国内外で見直されている。自然の中で伸び伸びと牛を育てる飼い方だ。草地を自由に歩いて草を食べ、乳を生産する。排せつ物は土に還元されて肥料となり、再び草が育ち飼料となる。物質循環の下、生産が持続していく。国連の定めた持続可能な開発目標(SDGs)に最も合ったスタイルだ。

 また国連は、世界の農業の8割を家族農業が支えているとして2019年から10年間を「国連家族農業の10年」と宣言。食料安全保障の確立と飢餓撲滅に貢献していることを示し、各国で施策を充実するよう求める。

 放牧はまさに家族経営で成り立つ。先進的な経営でも飼養頭数は50頭程の規模で、牛舎飼育に比べて小さい。しかし生乳生産費の5割を占める飼料代をほぼ自給でき、所得率は高い。飼料自給率を引き上げ食料自給率の向上につながる。牛は健康で長生きし、アニマルウェルフェア(快適性に配慮した家畜の飼養管理)にも合致する。

 日本草地畜産種子協会は放牧畜産基準を定め、合格した牧場と牛乳・乳製品を認証している。現在76牧場と九つのチーズ工房が認証を得ている。昨年秋にイタリアであった国際チーズコンテストでは出品3800点の中で、栃木県の放牧チーズがベスト16に入り「スーパーゴールド」を獲得し注目された。

 放牧牛乳には、抗酸化作用や免疫調整作用を有するβカロテンなど機能性成分が多く含まれることが分かってきた。栄養価の高い生草を食べるからだ。北海道のJA忠類管内で放牧とアニマルウェルフェアに取り組む酪農家5戸の生乳は、乳価に上乗せした価格で取引される。よつ葉乳業共同購入グループの要望で実現した。生産者の挑戦が報われる仕組みも欠かせない。

 国内の放牧は酪農家の15%にすぎないが、若い新規就農者の関心は高い。牛を牛らしく飼う、自然環境の維持、作業の省力化でゆとり酪農に魅力を見いだしている。離農する酪農家の草地や公共牧場、荒廃した里山などを活用して放牧地に整備し、就農希望者に継承していく仕組みを早急に整えるべきだ。

 酪農の規模拡大路線には限界が見えてきた。「増頭でふん尿処理に困っている」「酪農ヘルパーの人材確保は待ったなし」と現場の危機感が高まっている。離農者の大半は50頭未満の家族経営。耕畜連携を担ってきた一角が消失すれば、地域の生産基盤全体が弱体化しかねない。新たな酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近)案は放牧にも言及するが、実現性が問われる。地域に合った放牧を確立し、新規就農者も受け入れ可能な体制を整えるべきだ。
 

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