[ゆらぐ基 問われる実効性](2) 荒れる山間地 生産、生活どう守る

棚田にクヌギの木を植樹した藤井さん。「いつの日にか、誰かのシイタケ作りに役立つかもしれない」と話す(鹿児島県薩摩川内市で)

 鹿児島県薩摩川内市入来町の内之尾集落にある約7ヘクタール、枚数は100枚に及ぶ棚田。棚田百選にも選ばれたが、現在は8割が耕作されず、一部はカヤが生い茂る。

 「もう体力がない。山間部の農業は採算が合わない」。棚田保全グループの会長だった農家の藤井道博さん(81)が漏らす。グループは3年前、解散した。

 70年前は40戸が住んでいた集落。今は13戸に減った。集落で10年続けた中山間地域等直接支払いも耕作継続が難しく、受給できなくなった。かつては、大学生や都市住民が集い、バレーボールやバーベキュー、川下りなどをする憩いの棚田。米の食味も評判だった。
 

「昭和1桁」耕作に限界


 中山間地域を中心に荒れ地の面積拡大に歯止めがかからない。農水省によると、耕作放棄地は42万ヘクタール超(2015年)。20年前に比べ18万ヘクタールも増えた。特に中山間地域では昭和1桁代が離農し、技術や農地の継承が難しくなってきている。

 全国のモデルだったような地域でも、荒廃は深刻だ。三重県いなべ市の川原白滝棚田。都市住民と地元農家が荒れていた田を復元させ、10年前に農水省から表彰も受けた。しかし、地元の中核農家の病気で活動が継続できず、棚田の保存会は解散。世話人だった伊藤守さん(64)は「景観が素晴らしく、何より最高においしい米が作れたのに」と惜しむ。

 中山間地域農業は廃れてしまうのか。長野大学の相川陽一准教授は「山間部の荒廃はそこに住む農家や地域だけの問題ではない。食べ物や空気、水、エネルギーが都市でも当たり前にある背景に、思いをはせる必要がある」と指摘する。

 農水省の統計では、中山間地域の農業産出額は全国の4割を占め、食料供給地としての中山間地の役割は見過ごせない。
 

多面的機能都市も享受


 この10年で西日本豪雨や東日本大震災など大規模な自然災害が頻発。水路やため池の崩壊、河川氾濫が相次ぎ、農業現場にとどまらず、都市にも影響が及ぶ。日本学術会議は20年前、農業の洪水防止機能は年間3兆5000億円、土砂崩壊防止機能が同4800億円、保健休養・やすらぎ機能が2兆4000億円と試算。農村が荒廃すれば、都市住民も享受するこれらの機能が失われかねない。

 薩摩川内市の藤井さんは、諦めたわけではない。今、藤井さんは米を植えない棚田にミカンやオウトウ、栗の木などを植える。「20年後、30年後を見据えてる。僕はもうこの世にいないだろうけれど。息子や孫、集落に遊びに来た子どもたちが楽しんでくれたら」。3年前に狩猟免許を取得した妻のノリヱさん(75)とイノシシや鹿の捕獲にも励む。昔とは違う形でも、棚田に再び笑い声が響くことを願う。

 藤井さんら昭和初期に生まれた世代を中心に何とか維持管理してきた過疎地域。相川准教授は、生産基盤の弱体化に対し「対処療法で分断、個別施策として考えるのではなく、地域全体をどうするかを地域住民一人一人が考える岐路にある」と指摘する。
 

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