[新型コロナ] 東京五輪・パラ延期 落胆、困惑、それでも…完全開催へ前向く

延期が決まったが、細心の注意をしてトルコギキョウを管理する池田さん(25日、福島県浪江町で)

 新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行による東京五輪・パラリンピックの1年程度の延期が決まった。農作物の供給を目指してきた農家や農業高校は、作付け変更などに不安な胸の内を明かす。聖火ランナーとして準備してきた農家や、インバウンド(訪日外国人)需要の拡大を期待する産地からは、困惑や驚き、理解して前向きに受け止めようとする声が上がっている。
 

ビクトリーブーケ産地 福島県 経営不安も研究継続

 
 “復興五輪”を理念に掲げる東京五輪の延期決定を受け、被災地で戸惑いの声が上がっている。ビクトリーブーケに採用された花きで復興をPRしようと意気込んでいた生産者は「定植し直す必要がある」「市場に出しても価格が低い」と困惑する。

 トルコギキョウの採用が決まっている福島県。津波や東京電力福島第1原子力発電所事故で甚大な被害を受けた同県浪江町は花きを基幹産業の一つに据える。ハウス64アールでトルコギキョウなどを栽培するNPO法人Jinは、競技が始まる7月25日に合わせて開花するよう、2月から定植を始めた。天候の影響を受けても、確実に開花できるよう、3月下旬まで段階的に定植作業を行った。直径や形などの厳しい規格に応えるため、ブーケ制作に必要な本数の6倍に当たる3万2000本の苗を植え付けた。川村博代表は「手間が掛かるが、最高の品質の花を提供するための準備」と説明する。また、例年とは異なる緑色の品種を選んだ。「需要の高い品種ではなく、高値での取引は期待できない」と、経営への影響を懸念する。

 従業員の池田恵久子さん(44)は「準備を進めていただけに動揺した」と表情は険しいが、「さらに1年間研究し、より品質の高いトルコギキョウで復興をアピールしたい」と意気込んだ。
 

聖火ランナー 来年こそ走る


石川県宝達志水町 野村清志さん

 「走ることで産地を盛り上げるチャンスだった」と、国内聖火リレーの見直しで唇をかみ締めるのは、石川県宝達志水町で花木を生産する野村清志さん(62)。6月2日に聖火ランナーとして走るはずだった。

 聖火ランナーを志したのは、7歳で開かれた前回の東京五輪の感動が忘れられなかったから。同町出身で2度、五輪に出場したバレーボール選手の中村和美さん(49)のため、寄付金集めに奔走するなど「誰よりも五輪を身近に感じてきた」。何としても聖火ランナーを務めたいと、県などの募集に応じてきた。現在のJAはくいを30歳で退職後、周囲の反対を押し切り、花木の新たな品目を導入し、県外の大消費地に販路を広げたことなど、30年余り県の花き振興に尽力したことを作文にしたためて応募した。花き消費が落ち込む中、「来年こそ走って、花木農家が元気なところを世界にアピールしたい」と力を込める。

山梨県南アルプス市 小田切信哉さん

 6月28日に走る予定だった山梨県南アルプス市の果樹農家、小田切信哉さん(68)は「また予定通り走れることでほっとした」と安堵(あんど)の表情。「延期は残念だが、選手の安全を第一に考えたので仕方ない。改めて走る日まで健康に気を付け農作業に励みたい」と晴れやかだった。

千葉県南房総市 三浦直登さん

 7月2日に千葉県南房総市を走る予定だった同市の酪農家、三浦直登さん(42)は残念だと肩を落とす。県や五輪組織委員会の事務局から連絡は来ていないが、「1年後も走らせてくれればと思う。欠かさずトレーニングを続けたい」と強調。「延期はやむを得ない。状況を見守るしかないが、早く収束してほしい」と述べた。

北海道JA新はこだて 田中猛一専務

 6月に聖火ランナーとして聖火をつなぐ予定だった、北海道・JA新はこだての田中猛一専務は「世界をつなぐオリンピック・パラリンピックや聖火リレーは、参加する人も見る人も気持ちの良い環境で開いた方が良い」と前向きに受け止める。田中専務は1964年の東京オリンピックでも聖火リレーに参加した。来年、ランナーや日程など当初の計画通り実施される見通しだ。田中専務は「1年間わくわくした気持ちが続くと前向きに考えている」と意欲的だ。
 

今後も「おもてなし」


 東京五輪を契機に、地域の農畜産物を訪日外国人観光客や選手たちに食べてもらおうと、産地や農業高校も準備を重ねてきた。

宮崎県延岡市

 宮崎県延岡市は、ドイツの選手団の事前合宿を受け入れる予定だった。市内にある延岡学園高校と高鍋町の県立農業大学校が連携。農業生産工程管理(GAP)を取得した農大校が野菜を提供し、高校がドイツ人に合った料理を研究するなどの準備を進めてきた。しかし、開催時期の延期で、活動の中心の学生が卒業してしまう。関係者は「学生のことを思うと延長は残念」と肩を落とす。

 両校や行政などでつくるチームは、内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局の「GAP食材を使ったおもてなしコンテスト」で最高賞に選ばれるなど実績十分。中心メンバーで、同高の宮田妃菜さん(18)と農大校の宮田将太朗さん(20)のきょうだいは3月に卒業で市外に出てしまう。2人の父親で同市の畜産農家、宮田太史さん(52)は「1年以上前から準備してきた。仕方ないが残念だ」と肩を落とす。

島根県奥出雲町

 ホッケーのインド代表チームのホストタウンになっている島根県奥出雲町。町はインド出身のグルーン・エナさん(25)を職員に迎え、地元のブランド米「仁多米」を使ったカレーの提供を計画するなど万全の受け入れ準備を進めてきた。

 国際交流員として2018年から同町で働くグルーンさんは「残念だが、人の命は何より大事。延期の決定は世界から好感を得ると思う」と受け止める。東京五輪は延期となったが、「仁多米やシイタケなど農産物がおいしい所。自然豊かな町の魅力をインドの国民に伝えたい」と、懸け橋の役割を続ける。

群馬県

 欧米などで増える完全菜食主義者(ビーガン)を対象に、こんにゃくなど群馬県産農産物を売り込んできた日本貿易振興機構群馬貿易情報センター(JETRO群馬)は「準備期間が伸びた」と前向きに捉える。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、JETRO群馬の独自のイベント開催が危ぶまれていたところ。

 亀井信明係長は「群馬の飲食店や宿泊施設がビーガンに対応できるよう、20年度も啓発イベントを開くなどして、準備を進めたい」と強調する。

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