時節柄、カミュの代表作『ペスト』が読まれているという

 時節柄、カミュの代表作『ペスト』が読まれているという。なるほど、ぺストを新型コロナウイルスに代えれば、今の物語として読める▼小説の舞台は、ペストがまん延し、完全に封鎖された町。忍び寄る絶望。後手後手に回る行政。見えない敵にあらがう人々。人間の無力、尊厳と連帯を描いて比類がない。今と二重映しになる言葉を宮崎嶺雄さんの訳で拾う▼「ペストという、未来も、移動も、議論も封じてしまうものなど、どうして考えられたであろうか」。私たちも新型コロナが、社会や経済をかくも萎縮させるとは思ってもいなかった。作中、いら立つ住民は、法的な予防措置を求め、行政を機能させるのは知事だと迫る。そこも同じだ▼猛威を振るうペストは「すべての者から、恋愛と、さらに友情の能力さえも奪ってしまった」。疑心暗鬼、偏見と差別。人間不信。それはウイルスより脅威だ。住民が言う。この菌は病気に感染していない者の胸の中にも入り込んでいると。病原菌も怖いが、人々との心に巣くうこの「菌」が最も怖い▼いつ終わるのか。終わりは来るのか。出口の見えない闘いは心をむしばんでいく。「疫病の終息ということが、あらゆる希望の対象となった」。作中の悲痛な思いは、日に日に私たちの胸にも兆している。
 

おすすめ記事

四季の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは