[新型コロナ禍 農と食] 非常時こそ安心を 家庭用需要高まる 東京都の老舗米穀店

米の状態を確認する5代目の小林さん。吉田屋は十分な在庫を確保している(21日、東京都台東区で、釜江紗英写す)

 「良かった。お米があった」。東京都台東区で明治初期から続く米穀店「吉田屋」。息せき切って駆け込んできた客が、店内の米袋を見て安堵(あんど)の息をついた。

 新型コロナウイルスの感染者増を受け、東京都知事が3月25日夜、記者会見で「重大局面」と書かれたプレートを掲げ、外出自粛を要請した直後だった。スーパーの棚から米など保存の利く食品が瞬く間に消えた。そのあまりの速さに、棚への補給が追い付かず、パニックが起きていたのだ。

 吉田屋にも50人前後が押し寄せた。しかし、5代目の小林健志さん(36)は「普段は1日に何合炊きますか」と尋ね、おいしさが保てる3週間ほどで食べ切る量を買ってもらった。つまり、普段通りの買い方を勧めた。

 店の奥にある倉庫には、卸や農家から仕入れた約3トンの玄米を常時保管している。精米5キロ袋に換算すると500袋以上にも及ぶ。十分な在庫量で供給に不安はなかったが、かつての苦い日々が頭をよぎった。

 2011年3月の東日本大震災。被災地が米どころだったことや、物流網が寸断されたことで、米を中心に食料の供給に不安が高まった。結果、首都圏のスーパーなどで食品の買い占めが起き、棚から米も消えた。

 東北の米を扱う吉田屋も、玄米の確保に奔走した。幸い、倉庫の備蓄が尽きることはなかったが、店で働き始めて数年しかたっていない小林さんの脳裏に、米が供給できなくなる不安がちらついた。そんな日々を経て、吉田屋は十分な備蓄を確保するようになっていた。

 3月の買いだめを受け、農水省はホームページで、政府の備蓄と民間の在庫を合わせると「需要量の6・1カ月分に当たる370万トンの米がある」と発信した。半年後は新米が市場に出てくるため、供給が途切れることはない。

 外食産業の拡大と食の多様化を背景に、日本人の米離れが進んで久しい。国内消費量は、年10万トンのペースで減り続けている。家庭での炊飯が減る一方で、弁当や飲食店など業務用需要は堅調に増え、消費全体の3割を占めるまでになった。

 だが、コロナ禍は逆の現象を生んだ。緊急事態宣言下の外出自粛で、外食需要が一気に冷え込んだ半面、在宅勤務や学校休校を背景に家庭での炊飯が増えた。4月に入っても、都内では米卸業者が「家庭用需要が高止まりしている」と指摘するように、スーパーでは品薄感が続いている。

 小林さんは「今回も米を切らさなくてよかった」と言った。老舗の看板を守る自負と、非常の中でこそ日常と同じ供給を続ける街の米屋の責務が言葉ににじむ。(玉井理美)
 

<メモ> 業務用から切り替え


 米需要の変化は業務用と家庭用の需要の変化に加え、学校給食の停止も米の行き先を変えた。年約5000トンを埼玉県内の学校給食用に供給しているJA全農さいたまによると、現時点では一般向けに切り替えられているが、休校が長引けば「行き先を確保できるか分からない」と懸念する。小麦パン中心だった学校給食は徐々に米飯へ切り替わり、2018年は全国平均週3・5回と増加傾向が続く。
 

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