コロナ禍の医療 構造改革のつけ今に 明治大学名誉教授 中川雄一郎

中川雄一郎氏

 「横浜港に寄港したダイヤモンド・プリンセス号の1人の乗客が新型コロナウイルスに感染した」ニュースが、2月3日に報じられた。私が耳にした日本における新型コロナウイルスの最初のニュースだった。それ以後私たちは新型コロナウイルス関連のニュースをさまざま見聞きしたが、同様のニュースは今後もしばらく続くことであろう。

 とはいえ、これらのニュース内容は日がたつに連れて質的に変わってきている。世界保健機関(WHO)は2月12日に新型コロナウイルスの正式名称を「COVID―19」としたし、3月に入ると各国は「新型コロナウイルスが世界に大混乱をもたらしている」状況を朝昼晩のニュースで伝えていた。WHOはまた、3月11日に「パンデミック」、つまり「世界全体に広がった流行病」である旨を世界の人々に告げ、この「病気の怖さ」を訴えた。かくしてパンデミックという言葉を伴う「新型コロナウイルス」を世界中の人々が知っておくべき重要な情報であると認識し、当然のように生活意識の重要な一部を占めるよう誘引されていった。
 

死者多数の元凶


 しかしながら、生活意識は単に目前の情報を見聞するだけでは満足しない。その背後に隠されている「現実」を必ず見つけ出そうとするからである。例えば私は、スペインとイタリアにおける死者数の元凶を探り出す情報を集め、その結果、両国に共通する現象が医療崩壊であること、また崩壊の要因は政府の医療予算削減であり、その予算削減は政府の緊縮政策にあったことを知った。要するに、両国が多数の死者を出した元凶は、新自由主義政策による緊縮政策、すなわち、医療予算の削減が医療資材と医療人員の減少を生み出したのである。
 

保健所は大幅減


 日本の事例を挙げよう。「PCR検査の必要性」に関わる問題である。「PCR検査数があまりに少ない」と諸外国から批判され、国内ではその原因の一つとして保健所がやり玉に挙げられている。だが本をただせば、この状況は、かつて小泉政権(当時)が構造改革の名の下に押し進めた医療・社会保障の大幅削減による保健所の大幅減にある。

 小泉政権は、1990年代には850以上あった保健所を、公害や精神保健など国民の健康に関わる業務が増加しているにもかかわらず、4割以上も減らしたのである。その意味で、上記の保健所批判は、小泉政権の構造政策を踏襲している安倍政権による「公共の企業化」政策にある、と言うべきだろう。

 ところで、10年ほど前に友人の奥山俊広君が岩手県金ケ崎町に開拓者よろしく入植して、米作りを続けている。農場名は「有為農(ういのう)」。彼は「腹に染み入る」おいしい米を産む。先般送られてきた彼の手紙の一部を紹介しよう。

 「岩手は幸いコロナ感染者ゼロの地。みんな第1号患者になりたくないと気遣いながら仕事に励んでいます。昨年からは近所の若い衆の力を借りて田植えにこぎ着けています。近所の温泉にて農作業で疲れた体を癒やしています。人ごみに出掛ける時はマスクを着けることが常識になっています」

 コロナ禍でも、農家はひたむきに土と向き合っているのである。

 なかがわ・ゆういちろう 1946年静岡県生まれ。明治大学名誉教授。元日本協同組合学会会長。ロバアト・オウエン協会会長。著書『協同組合のコモン・センス』『協同組合は「未来の創造者」になれるか』(編著)などがある。
 

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