国家間マスク争奪戦 食の海外依存に警鐘 特別編集委員 山田優氏

 しばらく姿を消していた不織布製マスクが、少しずつ店頭やオンライン販売で見掛けるようになってきた。高性能医療用を除き、異常なマスク不足は山を越したように思える。しかし、全世界で逼迫(ひっぱく)が深刻だった3月末から4月にかけ、各地で国家を巻き込むマスク騒動が繰り広げられた。

 仏メディアは中国からフランスに向けて送られるはずのマスクが、離陸直前に米国に高値で横取りされたと報じた。独メディアも、タイからベルリンに運ばれる予定のマスク20万枚が米国に奪われたという独閣僚の声を紹介した。非難を浴びた米政府は事実無根と否定した。米CNNによると、一つ一つの「事件」の真相は不明だが、各地で仁義のない争奪戦が繰り広げられたのは事実だ。

 普段は「国際協調」や「国境を越えた自由な取引」などと格調高いことを言っていても、危機が迫ると自国ファーストという国家の素顔がむき出しになる。それは今も昔も変わらない。

 今から50年近く前、当時のニクソン米大統領が、テレビ演説で「主な農産物の輸出を規制する」と宣言した。米国産大豆に依存していた日本国内では、豆腐や納豆が店頭から消え、大豆ショックと呼ばれる激しい騒動を招いた。大豆禁輸政策は、足元でウオーターゲート事件などの不人気に悩む大統領が、挽回を狙って打ち出したと言われる。

 半年前には予想しなかったパンデミック(世界的大流行)でマスクの奪い合いが起きるのだから、何らかの事情で食料が足りなくなれば、生死を懸けた想像を絶するような争奪戦が起きても「想定外」とは言わせない。深刻になれば軍事力の行使すら選択肢に上るだろう。

 とりわけ今の米大統領は、ニクソン大統領がとびきりの人格者に見えるほど強引な自国ファースト政策を打ち出すことで知られている。国内の食料需給が少しでも逼迫したら、遠慮会釈なく輸出を規制するはずだ。

 日本はトウモロコシ、小麦、大豆、食肉などの多くを米国など海外に依存している。食料の自給率が低迷しても、食料安全保障に消極的な人たちは「コストが安く済む」「日本はカネがあるから大丈夫」と唱えてきた。

 同じような理由で海外依存を進めてきたマスクの騒動が教えるのは、いったん不足の兆しが見えたら、制御が難しくなることだ。人々は店頭に押し掛け、あっという間に品切れになる。

 最低限の食料を国内生産できるように国内農業を振興することが、いの一番に来るべきだ。非常時には国境を意識しないで食料を確保できるし、普段から国内農業生産への信頼があれば、パニック買いの恐れも小さいだろう。

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