[新型コロナ禍 農と食] 日常変わった長距離ドライバー 募る不安 思い届ける

「家より運転席にいる時間の方が長いよ」。山口さんが日用品を詰め込んだバッグを開けた(松山市で、丸草慶人写す)

 「家族とは週に3日程度しか会えない」。松山市を拠点に東京や仙台などにかんきつや飲料を運ぶ長距離トラックドライバーの山口毅さん(42)が、寂しそうな表情をした後、決然と言った。「でも、この仕事に誇りを持っているし、家族が認めてくれているから」

 新型コロナウイルス禍で日常は大きく変わった。果実を届ける大都市は感染者が多く衛生面に気を付けなければならない一方、そんな地域を往来することへの人々の目線におびえる時がある。

 食品を運ぶドライバーになって20年。5年前に現在の「JAえひめ物流」に入り、通算の走行距離は240万キロを超えた。地球60周分を走り抜けたところに、コロナ禍が待っていた。
 

感染防止に力


 松山から東京都中央卸売市場まで800キロ超。過労防止の観点から近年は大阪までフェリーを使うが、それでも片道だけで足掛け2日はかかる。山口さんにとって、走る道はすっかりなじみの景色となった。

 物流業は「経済の大動脈」といわれ、トラックなど自動車が全体の半分を占める。農水省が4月にまとめた調査によると、食品流通は自動車輸送の割合が97%で、輸送品別の稼働時間は農水産物が12時間30分超と最も長い。生産地の地方から遠く離れた消費地の大都市圏への輸送が毎日欠かせないためだ。

 大都市を抱える自治体の食料自給率(カロリーベース)は低く、東京都、大阪府ともに1%。都市の胃袋を満たすため地方からの輸送を長距離ドライバーらが担う。

 家族と会える時間は少ないが、山口さんの父親もトラック運転手で「子どもの頃から好きだった」仕事だ。中学1年生、高校2、3年生の娘たちとも仲が良く、つらいと思ったことはない。

 マスク着用、手洗い、うがい、乗降車時のアルコール消毒は日常動作となった。高速道路のパーキングエリア(PA)では、人が集まる飲食スペースでの食事は避け車内で食べる。静岡・藤枝PAの青ネギがたくさん入った大好物のラーメンも我慢する。「温かいものが食べたいが食品を運ぶ僕らが感染しては元も子もない。だから運転手も会社も過剰なほどに気を使う」

 東京や愛媛へウイルスを運んではいけないという使命感と、自分が感染して家族や周囲にうつすのではとの恐れ。葛藤を抱えながらの毎日だ。

 そうした中で起きた「事件」が、山口さんの気持ちを暗転させた。

 政府が7都府県に最初の緊急事態宣言を出した翌4月8日、愛媛県新居浜市の小学校が新1年生を含む長距離ドライバー仲間2人の子ども3人に「感染リスクが高い」と入学式に出席させず、自宅待機を指示した。「2人と家族の悔しさを思うと、心が張り裂けそうになる」。山口さんの言葉は輸送に関わる人々の思いを代弁していた。
 

心痛める農家


 生産者も「事件」に心を痛めた。松山市の島しょ部、中島でかんきつを栽培する長谷部大地さん(39)は6年前、宅配業から農家に転身した。「運ぶ人がいなければ、手塩にかけて栽培した農産物も消費者の手元に届かない」ことを知る。

 長谷部さんが「家で過ごす時間が長いからこそ、多くの人に愛媛のかんきつを味わってもらいたい」と願い、日の光をたっぷりと浴びたカラマンダリンを出荷した。運ぶ人への感謝の思いも詰め込んで。(丸草慶人)

<メモ>

 新居浜市の小学校で起きた自宅待機問題は、市教育委員会が感染者の多い地域に家族が往来したかなどを尋ねた保護者アンケートが発端だった。全日本トラック協会は4月10日、国土交通省に遺憾の意を伝え再発防止を要請。市教委などは9日に親族に直接謝罪し、ホームページ上にお詫び文を掲載した。協会は同様のケースを青森、山形でも確認。秋田、愛媛、鹿児島では医療機関で診療拒否もあったという。

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