規制改革失敗の本質 法改悪の責任明確に 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 2017年の「畜産経営の安定に関する法律」(畜安法)を改定して、自由化された生乳流通の期待の星と規制改革推進会議がもてはやした会社が、2020年3月に集乳停止という事態に陥った。

 腐敗しやすい生乳が小さな単位で集乳・販売されていたのでは、極めて非効率で、酪農家も流通もメーカーも小売りも混乱し、消費者に安全な牛乳・乳製品を必要なときに必要な量だけ供給することは困難になる。つまり、需給調整ができなくなる。

 だからこそ、まとまった集送乳・販売ができるような農協による共同出荷システムが不可欠であり、そのような生乳流通が確保できるように政策的にも後押しする施策体系がとられているのは、世界的にも多くの国に共通している。

 しかも、欧州では生乳共販強化が進められているときに、日本はそれに逆行して、共販を弱体化し、共同出荷の流通に乗らないアウトサイダーを施策対象に「格上げ」して、多様な流通を促した。そのモデルとなった会社が、生乳を販売しきれなくなった。

 その会社は、加工向けより価格の高い飲用で売るとして、酪農協に出荷していた酪農家を取り込んで集乳量を増やしていったが、需給が緩めば飲用で処理しきれなくなって買えなくなるのは目に見えていた。酪農家の乳質問題があったのは事実として、それだけで片付けられない本質があるように思われる。

 こうした需給調整機能を持たない組織が取扱量を増やせば、需給調整を混乱させて酪農家を苦しめる。早晩こうなることは分かっていた。需給調整機能を発揮し、酪農家との契約を守るのが認定の要件だから、今回の件によって、当該組織は要件を満たせなくなったはずである。

 こうした組織は、農協が需給調整をしっかりしていることを前提にして、ニッチ・ビジネスをするアウトサイダーだから価値がある。会社側も「規制改革推進会議に乗っかったが、キャパシティが足りない」と漏らしていたという。農協による生乳流通にも改善すべき点、酪農家の要望に応えきれていない点もあるから、それらに応えるアウトサイダーがいてくれて「共存」が成り立つ。それを無理やり、協同組合と同列に「格上げ」するために、法改定までして需給調整機能を壊した責任を誰がとるのか。

 サッチャー政権のときに酪農協を解体した英国では、酪農家が分断され、生乳は買いたたかれ、乳価が暴落し、酪農家の暴動まで起きた。わが国の東日本大震災後の水産特区でも、漁協以外にも権利を付与すればうまくいくとして事業を開始した会社は地域の出荷ルールを守らず、ブランドを壊し、自身も大赤字に陥った。

 こうした歴史と経験に学ばず、農協共販から抜ければ農業所得が増えると言って畜安法を「改悪」して、このような事態を招いた責任の所在を明確にすべきではなかろうか。

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