飼養衛生管理基準案 畜舎設置でコスト増懸念 牛放牧「支援なければ」 丁寧な説明求める声

急傾斜地で乳牛を放牧する吉川さん。畜舎設置などで放牧が制限されることに危機感を抱く(北海道足寄町で)

 家畜の放牧制限につながる事項を盛り込んだ農水省の飼養衛生管理基準の改正案に、牛を放牧する農家から不安の声が相次いでいる。改正案に畜舎の設置が義務化されたためだ。同省は必要な牛舎について簡易的なものを想定するが、低コスト、省力化がメリットの放牧だけに、丁寧な説明を求める声が強まっている。

 改正案は、牛などは口蹄疫(こうていえき)、豚などは豚熱、アフリカ豚熱の予防が目的。家畜伝染病が発生した場合、放牧を停止できるよう、畜舎確保や出荷・移動のための準備の必要性を示す。野生動物に感染が拡大した場合、防疫強化へ「大臣指定地域」を設定。指定されると放牧場やパドックなど舎外飼養を中止とする。

 牛は、乳用牛で総飼養頭数の23%に当たる約30万頭、肉用牛は繁殖雌牛の17%の約11万頭が放牧されており、改正案に対し牛を放牧する農家から戸惑いの声が相次いでいる。

 「建築資材は値上がりしている。簡易な畜舎といっても支援がなければ建てるのは無理だ」。北海道足寄町で乳牛110頭などを放牧している吉川友二さん(55)は改正案に懸念を示す。改正案は全頭収容する畜舎確保を求めており、吉川さんの場合、新たに畜舎が4棟は必要となる見込みで、費用に1000万円以上かかるという。

 「放牧酪農推進のまち」を宣言する同町。耕作放棄地の解消や自然に近い飼養方法として放牧酪農を目的に移住する人も多い。低コストで取り組みやすい放牧酪農だけに、コストがかかる畜舎設置の義務化への影響を懸念する。

 放牧農家でつくる全国放牧畜産ネットワーク協議会の橋本晃明会長は、「必要な畜舎がどの程度のものか分からない。補助がセットでなければ、低コストの放牧をやる意味が薄れる」と丁寧な説明や支援を訴える。

 農家の牛を預かる公共牧場でも畜舎の設置が必要になる。全国公共牧場協議会事務局の日本草地畜産種子協会によると、全頭が入る畜舎がない所も多く、畜舎設置の負担は大きいという。

 山口市の農事組合法人杵崎の里は、和牛繁殖雌牛の放牧に加え、放牧肥育にも取り組む。事務局長の野島義正さん(67)は「放牧制限の話が先行し、放牧全てが悪いと捉えられると問題だ」と強調。放牧のイメージ低下を懸念する。

 改正案の畜舎設置について、9日の衆院農水委員会で江藤拓農相は、豚については簡易な豚舎の整備を想定し、農家負担は実質ゼロにする方向で検討していることを明らかにした。牛舎にも同様の措置となるかが焦点だ。しかし、生産現場には、こうした改正案の具体的な中身が浸透しておらず、農水省には生産現場が納得する丁寧な説明が求められている。
 

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