[新型コロナ] 岩手「チャグチャグ馬コ」中止 コロナ感染「唯一ゼロ」も安全配慮 伝統の音消える夏

中止を受け無念そうに愛馬に餌を与える菊地さん(岩手県滝沢市で)

馬具の作業がなく熊よけに使う皮を切り出す塩釜さん(盛岡市で)

 新型コロナウイルスの全国的な感染拡大に伴い、13日に開催予定だった色とりどりに着飾った農耕馬が行進する岩手県伝統の祭り「チャグチャグ馬コ」が戦後初の中止となった。年に1度の晴れ舞台に向けて準備を進めていた関係者の落胆は大きい。地域の馬事文化の象徴となっていただけに、今後の影響を懸念する声も上がる。(音道洋範)
 

馬主 参加頭数減が心配


 岩手に初夏を告げる「チャグチャグ」という鈴とひづめの響きが、今年は聞こえない──。

 「やはり中止か」。4月、祭中止の一報を聞いた南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会長で農家の菊地和夫さん(69)はため息をついた。岩手県は全国で唯一、新型コロナウイルス感染者が報告されていないものの、市などでつくる保存会から「安全確保が難しい」と説明された。

 農業の機械化以前は、馬が農作業や物資運搬などで活躍。盛岡市周辺では人馬が同一の家屋に住む「南部曲がり家」が生まれるなど、家族同然の存在だった。

 チャグチャグ馬コは、岩手県滝沢市の鬼越蒼前神社から盛岡市の盛岡八幡宮までの約14キロを、色とりどりの装束や鈴をまとった農耕馬が行進する祭り。農繁期を終えた農耕馬をいたわり、無病息災を神社に祈る「蒼前詣(そうぜんもうで)」が由来とされる。例年6月第2土曜日に開催する。200年以上の歴史があるが、中止は戦後現在の体制になってからは初めてのことだ。

 2011年3月の東日本大震災で甚大な被害があった時でも、祭りは開催され、地域の人たちにも大きな勇気を与えてきた。

 農耕馬が練り歩く昔ながらの風景を見ようと、例年約10万人の観光客が訪れる、年に1度の晴れ舞台。今年は3人の孫のためにと、馬を2頭に増やし、新しい装束を作ろうとしていた矢先にコロナ禍が襲った。

 菊地さんは「中止をきっかけに馬を手放す人が増えなければいいが」と今後を懸念している。祭りが中止となったことで、参加馬主に支払われる出場手当がなくなり金銭的な負担が重くなるためだ。

 馬の維持には月3万円以上かかるという餌代に加え、馬房の掃除など日々の手入れが不可欠だ。負担が大きいこともあり「離農や代替わりなどを契機に飼うのやめる人が多い」という。そのため昨年の参加頭数は74頭と、近年は減少傾向が続いている。

 祭りは中止となったものの、同好会では安全に配慮した上で地元の保育園などで馬と触れ合う機会を設けている。菊地さんは「岩手の馬事文化の象徴として、これからもチャグチャグ馬コを残していきたい」と語る。
 

専門馬具店 来年に向け準備


 盛岡市の塩釜馬具店は、祭りの際に農耕馬を着飾る耳袋や首鈴などを作る唯一の馬具店だ。いつもなら祭りに向けて、春先になると馬主から馬具の補修依頼などが増えてくるが、今年は依頼がほとんどない状況だった。店主の塩釜孝さん(72)は「中止は仕方がないこと」とつぶやく。

 馬産が盛んだった盛岡市周辺にはかつて複数の馬具店があった。しかし、農作業の機械化による農耕馬の減少とともに馬具店も少なくなり、今営業するのは塩釜馬具店だけとなった。同店でも馬具ではなく牛用の製品や熊よけ鈴が販売の中心だという。

 今年は盛岡市に鈴とひづめの音は響かないが、塩釜さんは「また来年に向け、少しずつやっていくしかない」と前を向いていた。
 

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