コロナ禍の真実 恐怖感まん延 克服を 日本総合研究所主席研究員 藻谷浩介

藻谷浩介氏

 前回の当欄寄稿から半年。その間に新型コロナウイルス騒動が始まり、沸騰し、そして収束しつつある。日々の新規感染者数(正確には検査による陽性判明者数)も、入院者数も、最悪だった頃の10分の1になり、感染者ゼロにはならなくとも医療崩壊の危険は去った。

 今回の騒動には、①パンデミック(ウイルスのまん延)②インフォデミック(恐怖感のまん延)③ディプレッション(需要の蒸発による経済財政の危機)──の三つの側面があった。日本国内では、①は実は深刻なレベルに至らなかったのだが、にもかかわらず②が感染者ゼロの農山村や離島までをも覆い尽くした。結果として起きた③は、これから深刻な影響をもたらしかねない。

 ちなみに世界全体では、陽性判明者数が日々増え続けている。欧州では感染拡大は収まってきたが、欧州連合(EU)と英国だけでも17万人以上の死者を出した(6月16日現在)。感染拡大のまだ収まらない米国での12万人弱と合わせれば、世界の死者数の過半数を超える。
 

死者数 欧米と差


 これに対し日本での死者数は1000人未満だ。中国を含む、東アジア・東南アジア・大洋州を合計しても1万人を超えない。人口100万人当たりに換算すれば、日本での死者数は7人で、欧米の水準の50分の1程度にとどまる。東アジア・東南アジア・大洋州全体ではもっと少ない4人だ。欧米のニュースにおびえたのは、結果として大きな勘違いだった。

 そもそも日本では、インフルエンザで亡くなる人が毎年3000人を超えている。それに比べても、新型コロナの人命被害はずっと少ない。

 にもかかわらず、1000人が亡くなったとも言われる昨年9月のインフルエンザ大流行の際には、誰も経済活動の自粛や全国一斉休校を唱えなかったが、今回は日本中で経済活動や学校が停止した。筆者が今回の騒動を、「パンデミックには至らなかったが、インフォデミックとしては空前だった」と評する理由がお分かりいただけただろうか。
 

高級品ほど打撃


 自粛して家にいても、食事はする。日本での感染が、東京都心を中心に人口過密地区に集中したこともあり、外国人研修生に頼っていた農家の人手不足などを除けば、農業生産にも大きな支障は出なかった。

 しかし飲食店が軒並み閉まり、観光客の往来も途絶えたことで、ご当地特産の高級な食材ほど行き場を失った。今の農業にとって集客交流という要素がいかに大事だったか、日本食を求める訪日外国人(インバウンド)の増加にどれだけ助けられていたか、高付加価値化の努力をしていた生産者ほど痛感させられる、残念な結果となったのである。

 しかし筆者は声を大にして言いたい。国内の多くの地域ではそもそも集客交流を止める必要はなかったし、感染の拡大しなかった東アジア・東南アジア・大洋州からのインバウンドも、来年にかけて復活は必至であると。秋の実りを廃棄する悲惨な状況を避けるためにも、パンデミックならぬインフォデミックの克服を始めなければならない。

 とりわけ筆者が問題だと思うのは、生徒にとって一生に一度の機会である、学園祭や修学旅行、競技大会などの中止が相次いでいることだ。高齢者の恐怖心を、若者の未来よりも尊重すべきだとは思えない。夏や秋の祭りも同じだ。感染者の出ていない農村部こそ、堂々と季節の行事を行うべきである。

 もたに・こうすけ 1964年山口県出身。米国コロンビア大学ビジネススクール留学。2012年から現職。平成合併前の全市町村や海外90カ国を自費訪問し、地域振興や人口成熟問題を研究。近著に『進化する里山資本主義』など。

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