[現場ルポ 熱源を歩く] 所得か、伝統か 主食需要手探り 産地の秋田・岩手

契約栽培に力を入れる柴田さん(右)とJA職員(秋田県横手市で)

 米の生産調整の見直しから3年目。国は「需要に応じた米作り」を推進し、最終的な作付けは産地に委ねている。卸の要望に応えて拡大する産地、全国の需要減を受け、独自助成で転作を進める産地……。現場はそれぞれが考える「需要」に応じようと、手探りの状態だ。「所得か、伝統か、プライドか。守りたいものと日々葛藤している」。主食用米を作り半世紀の農家が田植えを終えた水田を見つめてつぶやいた。

 2020年産主食用米の需要は前年より10万トン減る見通し。4月末時点で35都道府県が前年並みの作付け意向を示した。JA全中は、国が示す適正生産量を20万トン上回る恐れがあると試算。農水省は転作助成金の申請期限を出来秋直前の8月末に延ばし、主食用米の用途変更を促す。

 「転作を勧められても主食用米は卸から引き合いが強い。長年作ってきた米を今更簡単に変えられない」。秋田県横手市の水稲農家、柴田康孝さん(54)が本音を漏らす。5代以上続く農家で物心付いた時から父の手伝いをしてきた。15年前に事業継承し、2ヘクタールから9ヘクタールに拡大。同時に、肥料と農薬が基準の半分以下で栽培する特別栽培米に注力してきた。今では9割が特別栽培米だ。「ほぼ肥料も使わないので収量にばらつきがあるが、安全・安心は日本一」と自負する。そんな手が掛かった米に「やっぱり食卓で食べてもらうのが一番うれしいよな」とつぶやく。

 秋田県の19年産主食用米作付けは、県農業再生協議会が設定した目安を3870ヘクタール上回った。安倍晋三首相が「いわゆる『減反』を廃止する」と踏み込んだ生産調整の見直しを受け、中でも横手市の作付面積は生産調整見直し前の17年から1680ヘクタール増えて1万300ヘクタールと増加面積が日本一になった。同市が管内のJA秋田ふるさとは「主食用米を増やしたいという農家は多い」(米穀課)と説明する。

 目安は超えているが、同JAは事前契約に積極的で全国トップクラスの集荷量を誇る。販売先は首都圏の食品スーパーや生協、中部圏のスーパーなどで全体の8割は事前契約。基本はJA全農、米卸を通じた取引だ。

 売り先を確定させる努力をしつつも、集荷するJA平鹿営農センターは「要望があるうちはいいが、いつまでこの価格が維持できるのか分からない」という。全農あきた米穀部は「需給緩和に陥れば価格はたちまち崩れる。需要に応じながら主食用米を集荷し、積み上げられるかが重要」と説明する。
 

 

本音抑え転作粛々


 北上盆地に囲まれ、「銀河のしずく」「どんぴしゃり」などブランド米を出荷している岩手県花巻市。水稲農家が多い中、こつこつと水田を転作する野菜農家がいる。
 
大豆や野菜の転作に力を入れる戸来さん(岩手県花巻市で)
 
 「需要減に合わせて転作していかなくては」と強調する戸来邦次さん(70)。農業法人HHA泉畑を経営し、受託する水田を大豆やピーマン畑に転作している。「主食用米を作りたい気持ちもある。だが全国の需要が減る中、米価は不安定。園芸作物への転換でリスクを分散したい」という。

 同法人は大豆13ヘクタール、ピーマン1ヘクタールなどを栽培。高齢化で離農が相次ぎ、水稲18ヘクタールを受託するが「時間はかかっても、徐々に畑に転作している」という。「米は卸からの引き合いが強く、要望に応えて増やしたいが、全国のバランスを見て過剰作付けはしない」と説明する。

 JAいわて花巻米穀販売課は「米価が下がれば、東北の産地は物流コストが膨らみ、最初に打撃を受ける」と少しの値崩れにも敏感だ。「生産調整がなくなった今、各産地が目安を守らないと、今後需給が緩む恐れがある」と懸念する。

 「何が正解か分からない。国に従い、自分だけばかを見るのはごめんだな」。戸来さんは力なくほほ笑み、炎天下の中、今日も畑に向かった。

 東北大学大学院農学研究科の伊藤房雄教授は「需要に応じた米作り」について「スローガンとしては便利だが、全体の需要と人口減少を考慮した客観的な戦略が、生産現場まで理解されているかが問われる」と話す。米の市場が縮小する中、「産地が手を取り合わなければ共倒れ。客観的に数字を管理する農水省が現場を歩き、一層、需要安定を呼び掛ける必要がある」と指摘する。(高内杏奈)

 農業・農村の価値を守り、次代に継ぐ取り組みと併せ、荒波を乗り越える新たな挑戦が求められている。さまざまな力が重なり、熱を帯びる現場をルポ「熱源を歩く」として追う。
 

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