農民である。画家である

 〈農民である。画家である〉。早世の絵描きはそう書き残す。昨年のNHK朝ドラ「なつぞら」の天陽君が今、よみがえる▼入植地の北海道十勝・鹿追町で、牛飼いの傍ら画業に励んだ神田日勝(にっしょう)は今年没後50年を迎えた。あさってまで東京ステーションギャラリーで開催中の回顧展「神田日勝 大地への筆触」は画風の軌跡を肌で感じる。冒頭の言葉は、農民と画家両方への覚悟と誇りからだろう▼「なつぞら」で主人公・なつがほのかに思いを寄せた幼なじみの天陽君のモデル。実際にベニヤ板で馬や牛の絵を多く描く。筆致は農村風景も画題としたゴッホとも似て絵の具が盛り上がり立体感が出る。だが、日勝が開拓農民だったことが決定的に違う。美しい景色ばかりでなく農民の悲哀も表す▼「なつぞら」では、菓子店雪月に天陽君の夕日に映える牧場の絵が掲げられていた。番組を手掛けた脚本家・大森寿美男さんは、30年前に日勝の絵に出合い心を揺さぶられた。十勝を舞台に選んだ時、この画家が浮かぶ。日勝一家が東京大空襲を機に十勝に入植した実話も脚本に重ねた。回顧展は命みなぎる未完の絶筆「馬」で締めくくる▼大阪万博の年に病で逝く。享年32。〈ここで描く、ここで生きる〉。作品は北の大地の“鼓動”と共に人の心を打つ。

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