日米貿易協定 中ぶらりん WTOに通報せず 玉虫色の合意内容が影響?

 今年1月1日に発効した日米貿易協定が、通報と呼ばれる世界貿易機関(WTO)の手続きをしていないことが分かった。半年以上の放置は極めて異例。両国政府間の思惑の違いで、日米貿易協定は中ぶらりん状態に置かれている。

 日本の外務省は「現時点で日米貿易協定はWTO通報していない。日米間で調整を続けているが、交渉中なので内容は明らかにできない」(北米2課)と記者に回答した。

 過去の17の経済連携協定(EPA)では多国間で結んだ東南アジア諸国連合(ASEAN)とインドの例を除けば、すべて発効日かそれ以前にWTO通報してきた。

 なぜ、今回は通報ができないのか。日米交渉は、2018年9月に安倍晋三首相とトランプ米大統領の首脳会談で始まり、1年後に合意。年明けから協定は発効した。日本は牛肉などで環太平洋連携協定(TPP)並みの譲歩を強いられた。一方で日本が求めた米国向けの輸出額の3分の1を占める自動車・同部品の関税撤廃は、事実上棚上げされた。
 

 日本政府は「追加交渉で米国の自動車関税が撤廃される前提となっている」と説明しているが、主要な「成果」が玉虫色では、協定のWTO通報が難しいのは当然だ。

 日米共同声明で両国は協定発効後の追加交渉を約束している。「現在の協定は中間段階なので、通報が遅れている」というのが理屈らしい。しかし半年たっても追加交渉が始まる見通しが立たないのでは説得力はない。

 通報はWTOで重い意味を持つ。WTOは加盟国間の貿易で不公平な取り扱いを禁じている。EPAは協定内の国だけを優遇するルールを設定する一種の横紙破り。だが、協定がほぼ全ての分野で関税撤廃をすることなどを条件に認められる仕組みだ。

 「WTO事務局にEPAの条文やスケジュール、関連情報など内容をできるだけ早く通報することが義務付けられている」(外務省国際貿易課)のは、加盟国が協定を吟味できるようにとの配慮だ。

 年頭に発効した同協定は、WTO通報をしないまま牛肉などの輸入関税の削減を、米国だけに限定して与え続けてきたことになる。力の強い国が自分だけ特別の扱いをもぎとるのでは、公平な貿易の理念とはほど遠い。

 WTO重視を掲げてきた日本が、「米国第一」を掲げWTOを重視しないトランプ政権に引きずられたようだ。米側は追加交渉で日本に一層の農産物市場開放を求める方針で、やりたい放題だ。

 各国は批判的に見ている。欧州連合は7月6日のWTOの会合で、日米貿易協定を念頭に置いた上で、日本がWTOのルールに違反しないようにとくぎを刺した。同じ場で韓国も「日本はこれまで通報義務を実直に果たしてきた」と持ち上げつつ、日米貿易協定の通報が遅れていることを皮肉った。

 明治大学農学部の作山巧教授は「加盟国全てに協定内容を知らせないのは、WTO規則に違反する。日本政府が主張する米側関税撤廃率の水準が、実際にはこれまでの説明よりもはるかに低く、通報したら他国から批判を受けることを懸念しているのではないか」と指摘する。(特別編集委員・山田優)

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