食糧危機連鎖の懸念 基盤強化し供給守れ 資源・食糧問題研究所代表 柴田明夫

柴田明夫氏
 どうにも不可解である。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、世界各地で同時・多発・複合の食糧危機連鎖の懸念が生じているにもかかわらず、市場が静観していることだ。

 シカゴ穀物市場では、大豆、小麦、トウモロコシともに、ここ数年、安値圏で推移している。背景には8年連続の記録的豊作予想がある。米国農務省が7月に発表した需給報告によれば、2020~21年度の世界穀物生産量は27億6000万トンとなり過去最高を更新する見通しだ。世界の穀物在庫も8億7000万トン台まで積み上がる。

 これらを見る限り穀物価格に上昇の余地はないはずであるが、果たしてそうか。
 

「不確実」な世界


 経済協力開発機構(OECD)と国連食糧農業機関(FAO)は7月16日、連名で「新型コロナウイルスによる不確実性の高まりにより、農業の中期的見通しは不透明」とする予測を発表した。今後10年間、供給の伸びは需要の伸びを上回り、ほとんどの農作物の実質価格は現状の水準を維持または下回るとの見方をしつつも、「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)との闘いは、労働市場や農業生産、食品加工、交通、物流、さらに食料と食品サービスへの需要の変化などの弱点と相まって、世界の食糧供給網において空前の不確実性の原因になっている」と指摘している。

 通常、研究機関の長期予測は過去の需給データを基に、人口、所得、消費形態などの変数を踏まえて推計(線形予測)される需給均衡モデルである。しかし、現在われわれが直面しているのは、不確実・不透明な複雑系(非線形)な世界である。

 足元では、コロナ禍に加え、サバクトビバッタの大発生による蝗害(こうがい)、欧州での干ばつ、中国南部での洪水被害、アフリカ豚熱、アマゾンの森林火災、シベリアで続く高温(38度)、そして日本での相次ぐ豪雨被害など不安材料に事欠かない。

 しかも、これら要因は相互に影響を及ぼし合い複合的な危機をもたらす。シカゴ穀物市場は今のところ事態の深刻さをつかめず静観しているものの、今後実態が明らかになれば需給逼迫(ひっぱく)、価格高騰の要因になる可能性は大きい。
 

脆弱性あらわに


 日本の食料は大丈夫か。食料・農業・農村基本法は、食料安全保障について「良質の食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない」とし、そのために国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、輸入と在庫を適切に組み合わせるとしている。一方、輸入拡大を中心としたフードシステムを構築することこそが食料安保につながるとの考え方がある。農水産物の生産段階から、食品メーカー、流通業者、外食産業、最終消費に至る食料のトータルシステムのことだ。しかし、今回のコロナ禍では、このシステムの脆弱(ぜいじゃく)性が浮き彫りになった。

 工業製品に比べ安価で長期保存が難しい穀物は極めて地域限定的な資源で、地産地消が原則である。グローバル化の下で、農業の外部化を極限まで進めてきたわが国としては、農業の基盤強化に向けた内部からの改革により、いかに食料の安定供給を確保するかが喫緊の課題である。

 しばた・あきお 1951年栃木県生まれ。東京大学農学部卒業後、丸紅に入社。丸紅経済研究所の所長、代表などを歴任。2011年10月、資源・食糧問題研究所を開設し、代表に就任。著書に『食糧争奪』『食糧危機が日本を襲う!』など。
 

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