コロナ禍 祭り中止で 草履注文激減 国内9割生産 山形・寒河江市のメーカー

積み上がった草履の在庫を見詰める軽部社長(右)(山形県寒河江市で)

 新型コロナウイルスの感染拡大が、日本の草履文化に暗い影を落としている。国内生産量の9割を占める山形県寒河江市の草履メーカー、軽部草履は、全国の祭りの中止で注文が激減。厳しい状況が続けば廃業もやむを得ないという。(高内杏奈)
 

職人休業、新商品も 綱渡り


 「こんなにセミの鳴き声が聞こえる夏は初めてだ。いつも注文の電話がひっきりなしだったから」。軽部草履の3代目、軽部陽介社長がつぶやく。

 1913年に創業し、年間生産量は約8万足。全国100カ所以上の祭礼に対応しており、売り上げの6割は祭り関係が占める。今年2月から、新型コロナの影響で徐々に春祭りが中止になり、3~6月の売り上げは前年同期に比べ7割減。夏・秋祭りも中止の連絡が入り、厳しい状況だ。

 8月は青森ねぶた祭りがあり、毎年8000足の注文が入るため、注文を見越して前年の祭り直後から制作に取りかかる。今年も例年通り休みなく制作している最中、中止の知らせが入った。既に完成した5000足の在庫が事務所の一角に積み上がり、段ボール箱が室内を圧迫する。妻の晴美さん(45)は「せっかく丹精して作ったのに、悔しい。稲わらは時間がたつと劣化するため、長期間置いておけない」と肩を落とす。

 一口に草履と言っても、祭りによって形はさまざまだ。鼻緒の色、底の形、編み上げ、仕上げが違うため、他の祭りから注文があったとしても回すことはできない。

 軽部草履の職人は60~80代の25人。新規注文がないことから、3月から全員休業している。3密になる祭りは再開の見通しが立たず、国の雇用調整助成金も使えない。このままでは祭りが再開したとしても、作り手がいない状態になってしまう。職人が一人前になるには10年以上かかる。軽部社長が恐れるのは歴史を紡ぎ、つないできた技術が絶たれることだ。

 テレビドラマの撮影や舞台公演、イベントの中止が経営を一層圧迫する。打開策として、高反発ウレタンを使い軽くて底面が軟らかな内履き用草履を、インターネットで販売。「ステイホーム」が推奨されたことでにわかに注目された一方、まだ損失をカバーできるほどではないという。

 同市は江戸時代後期から、良質な稲わらを生産できる環境を背景に、農家の収入源として草履産業が盛んになった。第2次世界大戦後、靴やスリッパに取って代わられ需要は激減。戦前は100軒以上あった製造業者も、今では同社だけになった。軽部社長は「草履は風通しが良い上、稲わらを無駄にせず活用する。日本の昔ながらの文化を守るのが私の使命だ」と強い思いを持つ。

 草履の稲わらは、同市で11アール栽培している酒造好適米「豊国」を使う。他の稲と比べつやがあり、柔らかく履き心地が良い。軽部社長は「色づいて揺れる水田を見ていると『来年はどうなるのか』と不安が襲ってくる」とつぶやく。

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