北関東 豚盗難730頭の行方 捜査 「国内」に照準 なぜ子豚ばかり?

 北関東を中心に相次ぐ家畜盗難事件は、4県10戸の豚舎から盗まれた計730頭を超える豚の「行方」が捜査の焦点となっている。日本は現在、豚熱発生を受けて生きた豚の輸出を停止しており、食肉と原皮はアジア5カ国と中国の二つの特別行政区などが条件付きで認めているだけで、盗んだ豚の輸出は通常ならば不可能だ。捜査も「国内」に照準を定めるが、売るにしろ食べるにしろ育てるにしろ謎は多い。豚の行方や犯人の動機を現場から探った。
 
 「子豚が少ないな」。群馬県有数の養豚場が集まる前橋市東部、赤城山の南麓。数千頭を飼う大規模豚舎の責任者が異変に気付いたのは7月初旬だった。記録上の頭数と実際の頭数を突き合わせると、四百数十頭も消えていた。1度の出産に1頭しか産まない牛と違い、豚は10頭前後も産む。頭数把握の難しさが事件の発覚を遅らせた。

 豚が逃げ出さないよう全ての豚舎に扉があるが、作業の効率面から施錠したことはなかった。豚舎の状況を遠隔監視するカメラはあったが、防犯目的でなく録画機能を付けていなかった。いつ盗まれたのか分からず、長期間に少しずつ盗まれたと考え、被害を今年1月以降として盗難届を出した。

 責任者は「盗まれるとは考えもしなかった」と悔やむ一方、「盗られたのは食肉市場ではまだ価値のない子豚ばかり。誰が育てるのか、犯人たちで何百頭も食べたのか」といぶかしむ。

 捜査関係者によると、前橋の被害豚舎は全て子豚が中心だ。8月中旬に届け出た別の豚舎は100頭、その他も50頭などと多いが、被害に気付くまで日数がかかっており、少しずつ盗む手口などが共通していた。

 豚の飼育頭数が全国4位で本州最多の群馬県は、一連の事件でも580頭と、被害の8割を占める。県警は同一グループの関与を視野に、窃盗事件を追う刑事部捜査3課、不法投棄など環境犯罪を取り締まる生活安全部生活環境課、被害地域を管轄する前橋東署が合同で捜査する手厚い態勢。焦点は「盗品の発見=豚の行方」だ。

 捜査関係者や養豚業界が関心を寄せるのは、解体場所や肉を保管する冷蔵冷凍施設、数百頭の豚を飼う畜舎を犯人らが持っているのかという点だ。豚のふん尿も垂れ流しでは周囲の環境を汚す。

 畜産関係者によると、正規のと畜場では肥育前の子豚の処分は皆無に近く、持ち込むこと自体が不審だという。自力でと畜したとしても、食用以外の部位や骨を捨てる場所が必要だ。肥育には生後160日程度かかり、豚舎以外で日々の餌を調達するのは、容易でない。
 

ワクチン前 豚熱の懸念


 一方、養豚協会などが神経をとがらせるのは、盗まれた子豚の大半が豚熱ワクチン接種前の月齢だったことだ。防疫上の管理をせずに飼育されていれば感染の拡大につながりかねず「清浄国」の国際認定を3日に失ったばかりの日本の養豚農家の悩みは深まる。

 8月下旬を最後に、新たな被害は確認されていない。インターネット上には撮影場所や日時が不明な子豚の丸焼きとみられる写真や、1頭売りをする外国語の書き込みもあり、警察が関連の有無を調べている。捜査関係者は「国内に食肉の闇ルートがあるのかも含め調べる」と言った。
 

国外持ち出し困難


 730頭を超える豚の所在が不明なことから、海外へ運ばれたとの見方もある。しかし2年前に国内で豚熱が確認されて以降、生きた豚や肉の輸出は難しくなっている。

 農水省動物検疫所によると、生きた豚の輸出は停止しており、豚肉と原皮は香港、マカオ、シンガポール、ベトナム、タイ、カンボジア、モンゴルなどが輸入を認めている。カンボジアとモンゴル以外は、豚の豚熱発生が確認された府県以外の豚で、ワクチン接種豚を受け入れていない施設での処理が条件。家畜盗難があった群馬、栃木、茨城、埼玉のうち豚熱は埼玉で発生、4県ともワクチンを接種した。

 2国間協定に基づく措置で、同検疫所が輸出検疫証明書を発行し、輸入国側が確認する仕組み。都道府県の食肉衛生検査所も処理検査に関わるので、盗難豚が正規の手続きを経て国外に出るとは考えにくいという。

 密輸はどうか。国際犯罪に詳しい捜査関係者は「送り出し国と受け入れ国の双方に組織的体制が必要になる。リスクやコストを考えると割に合わないのではないか」と、国内での密売や自家消費の可能性を示唆した。
 

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