「心の欲する所に従えども矩(のり)を踰(こ)えず」

 「心の欲する所に従えども矩(のり)を踰(こ)えず」。孔子が70歳の心境を振り返った言葉である。心のままに振る舞って人の道を外れない、分を越えないの意。長寿時代にかくありたい老の境地であろう▼菅義偉氏がよわい71にして立った。熟慮の決断。安倍政権を支えた黒子役がみこしに乗る。矩を踰えたとは言うまい。「菅雪崩」が古き自民党を想起させる。大義名分は「政策の継承」「政治空白をつくらない」。さもありなんだが、「理屈とこう薬(公約)はどこへでも付く」の政治格言をお忘れなく▼歴代の総裁選を振り返ると、周囲に推されてもかたくなに拒んだ2人の政治家が浮かぶ。リクルート疑惑で竹下政権が退陣した時の後藤田正晴、伊東正義の長老である。ともに官房長官経験者、70代半ばだった。固辞の理屈が振るっている。「私は総大将には向かない」(後藤田)、「本の表紙を変えても中身を変えないと駄目だ」(伊東)▼世襲議員が幅を利かす政界で、秋田の農家の長男から裸一貫で宰相の座まであと一歩の高みに登った。自己鍛錬のたまものであり、運もある。目指す国家像は「自助、共助、公助」という。が、問題はそのバランスである▼熟慮中に聞こえたのは天の声か悪魔のささやきか。「菅劇場」は第1幕が上がったばかりである。

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